結局、ビッグデータは広告会社にとって敵なのか?味方なのか?No.6
「デジタルマーケティング」から「マーケティングデジタル」へ ~電通と日本オラクルが描くデジタルトランスフォーメーション~
2015/12/09
先日、電通と日本オラクルは顧客企業のデジタルトランスフォーメーション支援で協業することを発表しました。デジタルトランスフォーメーションとは、「顧客を中心とした企業組織・業務・コミュニケーションのデジタル改革」を意味します。
マーケティングとは顧客に関わる企業内ビジネスプロセス上の全活動
顧客企業や記者の方に対してそのような説明をさせていただくと、「電通さんはそんな事まで取り組んでいるんですか!?」と驚かれます。確かに電通がデジタルというと、真っ先に想起される領域は、いわゆる「デジタルマーケティング」としてのプロモーション高度化 (ウェブ広告やウェブサイト制作、O2Oなど)のようです。もちろん、そちらも非常に重要な領域として取り組んでいます。
特にこの5年間、このプロモーション高度化に向けた、いわゆるアドテクを中心としたデジタル活用に注目が集まっています。ただ、主なアウトプットが「ウェブ広告やデジタル販促の最適化」ですと、企業が提供する顧客体験や顧客接点の一部に限定されてしまい、企業全体の活動や収益への影響は、世間の注目度や期待感に対してどこか物足りない印象を抱かれてしまうようです。
そこでデジタル化を、デジタルに閉じた体験や接点に限定するのではなく、リアルな体験や接点へも拡張しようという取り組みを「デジタルトランスフォーメーション」と定義しました。そのためには、広告会社が提供する「マーケティング」は、もはやプロモーションだけではなく、「顧客に関わる企業内ビジネスプロセス上の全活動」と広義に捉える視座が必要なのです。
「マーケティング業務プロセス」のデジタル化が重要
さて、日本オラクルとの協業に話を戻したいと思います。今回は「デジタル・トランスフォーメーション推進支援プログラム」を日本オラクルと共同構築しリリースを発表しました。このプログラムは、主に企業活動を支える4つのストラクチャー(PCDSフレーム)のリデザイン支援をプログラム化しています。
4つのストラクチャーとは、「マーケティング業務プロセス」「顧客接点」「活用データ」「マーケティングシステム」です。まずは、各ストラクチャーのマーケティングデジタル化について、組織の「プロセス成熟度管理モデル」をベースにした20個の項目を通じて診断します。さらに追加50個のヒアリング項目から、ありたきマーケティングデジタル化の姿を描いていきます。
上記4ストラクチャーの中でも「顧客接点」「活用データ」「マーケティングシステム」については、これまでの連載で紹介した通り、リアルな体験や接点のデジタル化による高度化の事例が増えています。しかし特に重要なのは、残りの「マーケティング業務プロセス」なのです。
なぜ重要か。それは企業の広義なマーケティング活動をデジタル化する際に起こる課題が2つあるからです。1つ目は「得られる投資対効果が見えづらい」。2つ目は「長年の業務プロセスが変わってしまう」ことです。この課題は、「マーケティング業務プロセス」のリデザインに取り組む過程で乗り越えることができると考えています。
まずは「マーケティング業務プロセス」を整理する
プログラムの取り組みとしては、まず顧客に関わる企業内の各部門の方にヒアリングを行い、現在の全社マーケティング業務プロセスを整理していきます。そして、この企業内連鎖構造における顧客のファネル遷移の「量」や「率」を関係者間で共有し、デジタル化による業務目標(KPIとKGI)を設定します。そうすることで、KPI改善のためにどのプロセスをデジタル化する必要があるか判断しやすく、改善による連鎖の末のKGIにどれほどの影響を与えられるのか推定しやすくなります。
また「マーケティングシステム」や「顧客接点」をデジタル化し高度化することで、部門、ともすれば会社をまたいだ「業務プロセス」の変化が多々あります。そのような場合にも関係者全員で、現状とありたき業務プロセスを描き、その差分を明確化することで、現場業務の負担を最小限にとどめることが可能となります。
日本オラクルと協業に至った最大の理由は、4ストラクチャーのうちの「活用データ」を高度化するために、企業の基幹システムに蓄積されるデータの利活用が重要であると考えているからです。日本オラクルは基幹システム分野で豊富な実績を持ち、かつ基幹システムのクラウド化およびクラウドとのシームレスな連携を推進する企業です。日本オラクルと協業することにより、基幹データのセキュア―でスピーディーなマーケティング利活用を推進できるのではないかと考えています。なお、それらを実装していくには、同じく協業関係にある富士通などのITベンダーとの連携も不可欠です。
「デジタルマーケティング」から「マーケティングデジタル」へ
「デジタルマーケティング」から「マーケティングデジタル」というのは、少しおかしな日本語に見えますが、対比としてあえてこのような表現をタイトルにさせていただきました。マーケティングが広義になるほど、これまでの業界定義の境界がなくなり、競合プレーヤーや参入プレーヤーが増えてくる中、広告会社は「デジタルマーケティング」の定義を考え直す時期に来ていると思います。
なお、先日台湾で講演をさせていただく機会がありました。いただいたテーマは「広告会社は、ビッグデータの価値をウェブ広告最適化にしか見出せないのか」であり、やはりグローバルでも課題感は同じなのだと認識しました。
などと偉そうな内容を書きながらも、私自身、まだまだ顧客企業やパートナー企業には、試行錯誤しながらゼロベースからの取り組みとしてご一緒いただいています。ぜひまた新たな取り組みができた暁には、この場を通じてディスカッションの種を紹介させていただきたいと思います。