結局、ビッグデータは広告会社にとって敵なのか?味方なのか?No.5
「デジタル」から「IT」へ、広告会社が一歩踏み出すこと。
2015/04/27
ここまでの連載で、ITを活用したマーケティング高度化についてお話しをしてきました。その中で具体的なパッケージソリューションとしてマーケティングオートメーションツールやSFAツールなどをご紹介してきました。これらパッケージソリューションの導入をきっかけに、マーケティングシステム構築や業務プロセス再設計などのご依頼が増えています。今回はそれらについてお話をしていきたいと思います。
マーケティングシステム構築
ここで言うマーケティングシステムは、「企業の基幹データや業務データを活用したCRMシステム」と定義します。では、これまで広告会社が構築してきたCRMシステムと何が違うかというと、コミュニケーション施策から生ずるデータだけを対象とするのではなく、企業の業務活動から派生するデータをも活用することだと考えます。この理由は、企業の業務活動から得られる「業務データ」が、マーケティング活動に資するものであるという期待が大きくなっていることが挙げられます。
では、業務データには一体どのようなものがあるのでしょうか。例えば、筆者が関わる案件においては、エネルギー企業では契約世帯ごとのエネルギー利用データ、自動車会社や旅行会社や製薬会社ならば営業活動履歴データなどがあります。
これらのデータは企業基幹システム内や、自社ではなく関連会社などが所有することが多く、データをマーケティング活動に利用する際には本社のマーケティング部門や事業部門が中心となり、高度なシステム環境を構築する必要があります。例えば自動車会社本社が所有するウェブログデータと、販売店が所有する営業活動履歴データを連携させた以下図のようなシステム構築案件では、本社はコミュニケーション活動の、販売店は営業活動の高度化が可能となりました。
また、先にあげたエネルギー企業の業務データであれば、情報システム部門が管理する契約世帯のエネルギー利用データから、世帯ごとの人数や暮らし方などの属性を推定するアルゴリズム生成を行い、さらにその属性推定を基にした営業部門やマーケティング部門のアプローチを高度化するためのCRMシステム構築まで、一気通貫で取り組むこともあります。
もちろんシステム開発フェーズにおいては、マーケティング業務要件定義フェーズを広告会社が担い、実施の開発は関連会社のSI企業、協業しているITベンダーが担当するといった進め方をしています。
B2Bをはじめとしたマーケティング業務設計
マーケティング業務において企業の各部門が連携し、リアルとデジタルの顧客接点チャネルを統合して顧客体験を創造するためには、業務を円滑に運用するプロセスとシステム要件を設計する「マーケティング業務要件定義」が非常に重要なフェーズとなります。
そもそも「業務設計」は、広告会社ではなかなか耳にしないワードでした。通常、ITベンダーでは「業務設計」というワードは当たり前のように使われています。クライアントの業務システムを開発する際に、現業務プロセスを理解し、何がボトルネックとなっていて、改善すべきポイントが何なのか、そしてそれをシステムで解決するために何をするか。これまで広告会社にとっての「業務設計」とは、クライアントのマーケティング業務をサポートする中でも限られた作業であったと思います。
ただし、先に記事でもお伝えしたように、マーケティング4Pの各業務が融合される潮流の中で、広告会社はこれまでの「Promotion」業務サポートに限らず、企業4Pマーケティング業務のバリューチェーン設計まで求められています。ゆえに、業務設計やシステム開発・運用についてのご相談が増えていることは必然的な流れであると考えています。
その最たる例が、先の記事でもお伝えしましたが、B2B営業業務プロセス設計と、その運用組織づくりの相談の増加です。法人の購買意志決定プロセスは一般消費者のそれとは違うにせよ、B2Cで培った「ターゲット:個人」の顧客体験シナリオ設計ノウハウは、「ターゲット:各役割を持つ個人」の集合シナリオとしてB2Bでも応用が可能なのです。
最近、広告業界以外の方と仕事する方が多くなり、色々驚かされることがあります。例えば広告会社が所有するプロジェクトマネジメントにおける独特のノウハウは、非常に卓越したものがあると自負していましたが、どこか人に依存するスキルでもありました。
しかしIT業界におけるそれは業界全体で体系化されており、一定の統一されたルールのもとで企業間のプロジェクトが整然と進行していく風景は、非常に新鮮に感じました。前回も書きましたが、広告会社の常識が異業種にとっての非常識であったり、その逆があったりする中で、IT業界と広告業界の異なる常識の交差点にこそ、マーケティングの新しい手法があるのではないかと思います。その手法を見つけ次第、引き続きこの場を通じて情報発信をさせていただきます。