UX(ユーエックス)ってなんだ?実際に活躍している人たちに聞いてみた(後編)
2016/01/22
ウェブ/アプリの重要テーマのひとつであるUXに関してのコラム後編になります。前編では、UXの意味に関して現場で活躍している方々にご意見をいただきました。
【再掲】アンケートに協力してくださった皆さん
【再掲】実施した4つの質問
・「(あなたにとって)UXとは何か?」と聞かれたらどのように説明するか
・UXを考える上で大事にしているポイント
・UXを意識した象徴的な出来事(ご経験がおありの場合)
・UXについてどうやって学習/インプットをしているか
この4つの設問をメールでお送りし、UXについての捉え方や設計の考え方をこの前編に、そして、過去の経験や知見に関するものを後編に分けてご紹介いたします。
*回答の中から4つほどピックアップをしております。
*回答の紹介順は順不同です。
*時々、私が回答に個人的に感動/共感し、レビューが長文になってしまっていますがご容赦ください。
【再掲】UXとは
また、設計の上で配慮されている観点に関しても伺って、重要な点を抽出しました。UXの設計が企業の事業活動の中でもきわめて重要な視点であるということを改めて感じた次第です。
【再掲】UXの設計のための観点
*実際の回答は前編にて
後編ではUXに関して考えた象徴的な出来事、日々のインプットの2点をお聞きし、UXの現場で活躍するきっかけやUXの学習方法に関して深掘りをしました。
質問3:UXを意識した象徴的な出来事は?
日々の生活や実務において、ユーザービリティーのすごさや有用性を感じた出来事がそのまま今のお仕事につながっているという印象を非常に強く受けました。
シロク・石山さん
“UX変革の前兆には、必ずと言っていいほど大衆が使うデバイスの変化が起きていると感じています。Flashに始まり、ProcessingやCanvasなどによるインタラクション領域を手掛けてる身でもあるので、日常的に触れるインターフェースの変化は印象的に残っています。大きなところで言うと、ガラケーの登場、iPhoneによるタッチスクリーンの登場、LeapMotion、KinectなどによるNUIの登場、VRなど。大衆に浸透するかはさておき、いずれも自ら触れることで体験値を仕入れています。”
実務体験やテクノロジーの進化を感じる機会が強いきっかけになっているようです。
私も今の仕事柄、電子書籍、ヘルスケア、画像認識、グロースハックツールと新しいコミュニケーション・テクノロジーに触れる機会が多いのですが、その度に新しいUXを持ったプロトタイプに日々驚かされております。
マナボ・佐野さん
“サービス運営会社でウェブサイトのデザインをしているときに、ユーザービリティーを社内に管理できる人間がいなかったことがきっかけです。当時の制作環境は、機能と欲しい結果ベースで上流でデザインの大枠が決まってしまい、デザイナーは渡された要件に従い、多少の改良を加えエンジニアに渡す…といったフローでした。見た目の良い、きれいな画面を作る以上にユーザーにとって本当に良いデザインとは何か、と悩んでいました。
そんなときに、情報デザインフォーラムという、IT業界のUX系勉強会があることを知り、以来勉強会には積極的に参加してきました。 特に当時はUXという言葉が一般的でなく情報も少なかった中で、ウェブサービスを運営している会社で働いている同じような目的意識を持ったUX仲間と出会えたことは、大きな財産でした。
しかし、実際UXを大事にしたいという思いとは裏腹に、もう営業利益が上がり続け、動いているサービスのチームで考えを共有し展開するというのは非常に困難なことでした。
ほぼ全ての人間がそうだと思うのですが、何かしらのサービスを自分で使ったことがある人間(タクシーだろうが電車だろうがGoogle検索だろうが、です)はサービスの提供する体験を重要視します。にもかかわらず、社内で開発しているサービスのユーザー体験に対して、改善すべきものかどうかという認識を持つこと、体験を向上させることにリソースを割くことに納得感を持つことができなかったことが大きな原因だと思います。
ユーザーが直接触れるインターフェースをデザイナーがデザインすることは、裏返せばユーザーとして疑似体験をしながら作業をする立場でもあると考えています。
もちろんエンジニアもディレクターも営業もユーザーにはそれぞれ近い立場ですが、ユーザーに一番共感しているのはデザイナーだと思います。
現職ではアプリの開発がメーンのため、ユーザー体験は最重要視すべきであると考えています。具体的にはチーム全員でUIに関して議論したり、ユーザビリティーテストの結果を共有したりなどしています。”
佐野さんは前職でのウェブデザインのご経験が大きかったとのことです。
以前グロースハックジャパンで連載した際もこのUXのデザインに関しての議論が難しいという課題は上がっていました。いかにチームで取り組める、あるいは重要視して意識し合う環境を作っていけるのかというのもとても重要なことだと言えるでしょう。
また、電通・鈴木は日常生活での体験や個人での活動が強く印象に残ったということでした。
この後のインプット方法の項目にもつながりますが、こういった日常体験から吸い取る感受性も、UXを仕事にする方には重要だといえるでしょう。
電通・鈴木
“「人狼ゲーム~牢獄の悪夢~」というアプリを、個人で開発しています。現在350万DLを超え、約3年間、教育ゲーム部門で1位を達成しています。たった一人で、大手企業のゲームに勝つにはどうしたらいいのか?そのヒントになったのがUXデザインです。最近は、テレビ番組や映画によってブームが起きつつありますが国内での認知がほとんどない状態から、今に至るまでにはさまざまなUXデザインを行ってきました。
その中での発見は、一般的な企業と真逆のことをすることが実は、競合に対する優位性を高める、ということです。一例としては、本アプリには広告バナーエリアがあるのですが、その広告枠からは一切利益を得ていません。競合になるようなアプリ、人狼ゲームを支援する団体、震災のボランティア活動をしている方など、自分が応援したいと思う相手を、無償で紹介してきました。こういった利益を追わない姿勢も、本アプリにとって重要なUXだと考えており、結果として優良なファンが集まっているのだと思います。”
質問4:UXについてどうやって学習/インプットをしているか
続いて、最後の質問として、業務以外も含めたインプットや学習の方法に関して伺いました。皆さん実際に主体的にサービスを試してみるというのが多いみたいでした。
リコー・井内さん
“新しい商品やサービスをいち早く試す。また普段の生活でひっかかること、気持ちよかったことなどを考えておく。たとえばコンビニのレジでスイカで支払う時に、チェーンごとに操作が違っていて、受ける印象も違ってくる。どこのお店がよくて、どこが悪いと感じ、それはなぜか?などを考えるようにしている。これらを仕事で検討するテーマのシミュレーションに応用する。”
特に、日常のサービス接触の中で、それを体験するだけではなく、その価値を考え直す作業が非常に重要なのだと思います。
電通・鈴木
“私が扱うUXの多くは、金銭的利益を追求することが目的ですが、学習という点では、真逆のアプローチをしています。つまり、一切金銭が得られない状態でも継続したいと思える価値を見つけることが、私にとってのUXの学習です。そのために必要なことは、何よりも取材や実体験です。実体験とは、単に「知る」ことだけで終わりません。その体験に対して、自分にとっての「意味づけ」をすること。それは、同時に自分の生き方を「選択」しているともいえます。自分が行ったUXデザインが、社会にもたらす影響に責任を感じながら、深い沼のような思考の中で悩み、選び、決断し、自分が取り組むべき「UX」の姿が見えるのだと思います。その一連の行動が、私にとってのインプットです。”
鈴木はその意味付けを社会責任のレベルまで考えている点が印象的です。
例えば、私はスマートフォンのアプリのランキング上位や競合サービスを全て登録して、使用することを隔週で行っています。
感動したUIをすぐにキャプチャーしてカメラロールに保存し、それを2年間ほどずっとやっています。友人に話したりカメラのフォルダーを見せるたりすると残念ながら引かれてしまうのですが(泣)、その設計案がUIのアイデアに生きるときがあります。(以前、ソーシャルゲームのUIからノンゲームアプリに使えそうファンクションを整理した記事はこちら)
リクルートマーケティングパートナーズ・若月さん
“とにかく自分自身がさまざまな製品・サービスのユーザーになることです。仕事の関係上ネット領域に偏りがちですが、リアル領域も含めて製品・サービスに触れるようにしています。例えば、電気量販店をうろついて新製品を触ってみたり、話題の新しいコンセプトの店舗には実際に訪れてみたり。広告、ブランド、ウェブサイト、試用、アフターサービスなど、すべてのコンタクトポイントにおいて自ら体験することで、UXデザインの参考にしています。”
実際に実務の中でヒアリングに行くのも大事なのはとても共感できます。濱口さんはセミナーや書籍の学習もしつつ、上記のような日常生活での観察によるインプットをミックスして考えているとのことでした。
NTTアイティ・濱口さん
“正解はないので、とにかく体当たりで思うようにやってみて、経験から学び成長するのだと思っています。必要だと感じれば、専門書を読んだり、セミナーに出かけたりしますが、そこで習ったことをそのまま使うというよりは、頭の中に知識としてストックしておいて、必要に応じて取り出して、カスタマイズして使っています。 また、良いUXを考えるときにヒントになりそうなものや、お手本になるようなUXの事例を、半ば無意識的に日常生活の中で収集しています。電車に乗っているだけでも、向かいに座っている人の行動、中吊りの広告、車内放送などを観察していると、たくさんの気づきや疑問が出てきて、なぜそうなのかと妄想しては楽しんでいます。”
マナボの佐野さんは具体的な書籍名を挙げてくださっています。
マナボ・佐野さん
本やワークショップ、またFacebook上の研究グループなどで最新の情報にキャッチアップするよう努力しています。UXは概念でしかなく、具体的にユーザー体験の仮説と検証と実装を繰り返す具体的なHOWがなければ、サービスの改善がワークしていきません。
その中でも、「エクスペリエンス・ビジョン: ユーザーを見つめてうれしい体験を企画するビジョン提案型デザイン手法」(丸善出版)、「情報デザインの教室 仕事を変える、社会を変える、これからのデザインアプローチと手法」(丸善)は入門書としてオススメです。
「ユーザビリティエンジニアリング(第2版)―ユーザエクスペリエンスのための調査、設計、評価手法」(オーム社)は具体的な手法が深い経験から分かりやすく書かれていて、迷ったときに何回も見返しています。
実際に活躍している人達のきっかけとUXの学習活動
UXのインプット活動についてまとめさせていただきます。
実際に日常生活やサービス体験、学習で得た価値を、自分の設計やデザインの仕事へスムーズにひも付けを行っている点が印象的でした。ユーザー体験を設計していくことが重要な中で、そういった観察眼や取り入れる視点が進んでいくのだと思います。
広告の仕事をしていてもよく、「実際に自分でも色々興味が無くても体験する」とか「自分が客になってみる」などがインプット活動になって、実際の広告プランニングや生活者視点への理解にもつながったという話をよく同僚からも聞きますが、それと似ているのかもしれません。
いかがでしたでしょうか。今回は前編/後編2回にわたって執筆しましたが、突然の依頼の中で、コメントにご協力いただいた皆さま、ありがとうございました。改めて御礼申し上げます。
次回はウェブ/アプリで培ったグロースハックやサービス設計のノウハウをそのままリアルサービスに応用した事例を紹介いたします。