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世界のクリエーティブ・ディレクターに聞く2016年、 広告コミュニケーションの針路と挑戦No.1

企業と生活者のニーズが折り合う点を見つけ出せ

2016/01/22

加速度的な進化を続けるテクノロジー。生活者と企業を取り巻く環境変化は、今年も続くのだろう。同 時に広告クリエーティブの使命も、クライアントの根本課題へのコミット、ストラテジーとの一体化など、統合ソリューションに向け変化の過程にある。その一 方でテクノロジーは、瞬時に国境を超える。広告祭では新興国の受賞が相次ぎ、業界の世界地図は拡散化した。 電通イージス・ネットワークの各地域を統括する3人のクリエーターに、“統合”と“拡散”の時代のクリエーティブと、2016年におけるチャレンジを聞く本連載。 1人目は、緻密なビジネス脳とクリエーティビティーの持ち主、アジア太平洋地域(APAC)で電通のネットワークを主導するテッド・リム氏だ。

クリエーターらしからぬ風貌が物語る通りのビジネス脳と、クリエーティビティーを併せ持つ。マレーシアの外資系広告会社で数々の国際広告賞を受賞。同国の業界団体MC2で広告殿堂入りした。2013年、電通グループに参画。1週間同じ地にとどまることがないほど精力的に拠点を回り、競争力を飛躍的に向上させた。さらなる成長に意欲を燃やす。

アジアの多様性攻略に向け共通言語を構築

──テッドさんは、電通ブランドのグローバルネットワークで、APACのCCOをしています。いつでも拠点を飛び回って“定住”しない、という印象ですが、現在どのような役割を担っているのですか。

APAC10カ国で約30の拠点を見ています。私の役割は、クリエーティブのビジョンを明確にし、クリエーティブのリーダーシップを形づくり、戦略的思考を磨くこと。そして、クリエーティブの実績を上げてネットワークの存在感を高め、才能あるクリエーターを引き付けてビジネスをけん引することです。

マレーシアの広告会社から電通のネットワークに移った3年前、仲間と共に最初に行ったのは、エリア全域をカバーできるストラテジーの共通言語「電通イノベーションナビゲーター」の開発と導入でした。これは、私たちのネットワーク独自の戦略立案フレームです。戦略が間違っていたら、クリエーティブも的を外してしまいますから。

──多くの国や地域でさまざまなクライアント課題に向き合う中で、常に心掛けていることはありますか。

国を問わずビジネスの成功にとって不可欠なのは、地元の生活者や文化を深く理解することだと思っています。私たちがすべきは、市場ごとの生活者のニーズがどれほど多様であっても、常にクライアントがそのニーズを満たし続けられるようにすること。日本でうまくいった策が、必ずしも他国でうまくいくとは限りませんし、逆もしかりです。 ブランドが成功するか否かは、目まぐるしく変化する環境にどのように、そしてどのくらい早く対応できるかにかかっています。常に先を見越して行動する必要があるのです。

クライアントに誠実に、真のビジネスチャレンジを問い直す

──生活者ニーズが変化していく先を的確に予見する、鋭い嗅覚、洞察力が問われますね。

クライアントがこれからも成長を求めていく中で、私たちも企業サイドの人間として、つい昼夜問わず「モノを売りたい」とばかり考えがちです。私も妻に何度「まだ会社にいるみたいに振る舞わないで!」と言われたことでしょう。

でも、大事なことを見落としてはなりません。それは、会社の人間は家にいる家族とは違う、ということです。企業サイドの人間は、モノを売りたい。それにはまず、家にいる、企業とは全く異なる考え方を持つ生活者との接点を見つける必要があります。

クリエーターの課題は、表現だけでなく、この双方のニーズがかみ合うポイントを戦略として見つけることです。ベストな言葉かは分かりませんが、この“戦略的思考と創造の融合”を私はシンプルに「クリエーティブ・ストラテジー」と呼んでいます。

──そのクリエーティブ・ストラテジーを実践する際に、テッドさんが信条としていることは?

自分の仕事や専門分野を熟知し、常に誠実であることです。

クライアントはたとえ離れていても、ものごとの真偽を見極める目を持っています。例えば以前、ある競合案件で「膨大な投資をしてケーブルテレビの枠を押さえた。ブランドについては皆さんよく理解してくれていると思う。最も優れたストーリーボードが勝つ」というブリーフを渡されました。

言われた通りにするのは簡単です。しかし私は、本当のビジネスチャレンジは何かを問い直しました。ブランドは年配の人には支持されていましたが、若者には「自分向けでない」と敬遠されていた。それをあえて指摘して「ブランドの次期担い手である若者をターゲットに据え、メディア戦略も練り直すべきだ」と提案しました。

彼らは、私たちの指摘が正しいと判断し、同時に、単にクライアントの要求通りに回答するのではなく、ブランドにとって真に必要な課題を突き詰めた姿勢を評価してくれました。私たちの持つノウハウで何ができるかをしっかり捉え、クライアントと誠実に向き合うことが成功につながった例だと思います。

プレゼンス向上へ、全拠点でヒットを狙う

──テッドさんがAPACのCCOに着任されてからのネットワークの躍進は、広告賞の受賞実績が物語っています。

私たちは現存のビジネスを維持しつつ、新しいビジネスにも積極的に取り組んでいます。広告賞を受賞する拠点や作品の数が飛躍的に増え、デジタルやイノベーション、知的財産など、受賞部門の幅も広がりました。これは私たちが導入したクリエーティブプロセスと、才能あるスタッフらの健闘、またリージョナルとローカルそれぞれのマネジメントからのサポートという総合力の向上によるものだと信じています。

──クライアントのより良いビジネスパートナーになるために、ネットワークや拠点をどう強化していきますか。

私たちが行うのは「ピープルビジネス」―「人」が財産です。私たちの目標にコミットしてくれる才能ある人材を採用し、インスパイアする。彼らがクライアントの信頼と尊敬を勝ち取れば、良い結果、そして収益が生まれるでしょう。

──最後に、2016年の抱負を教えてください。

これまで以上に鋭いクリエーティブ戦略と新鮮なクリエーティブ表現で、人々の目に留まりシェアされる作品を全ての拠点で制作していきます。また、ネットワーク間でのコラボレーションとイノベーションもどんどん進めたい。そうすることで、APACでの電通の存在感をさらに高め、クライアントと有望な人材が一緒に仕事をしたいエージェンシーとして成長していく―これが私のチャレンジです。

他にも、やるべきこと、達成したいことはたくさんあります。まだまだ休んでいる暇はありません!

──拠点を転々とする日々はこれからも続くのですね。お体が心配ですが、APAC地域でのネットワークの活躍、今年も楽しみです!! ありがとうございました。


電通ブランデッド・エージェンシーの事例紹介

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