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データ × マーケティングの最前線No.1

【今さら聞けない】 オーディエンスデータの最新事情(前編)

2016/03/17

急速にテクノロジーとの融合が始まった広告・マーケティング業界は、今後どのように変わっていくのか。電通でデジタルマーケティングに取り組む若手プランナーが「データ×マーケティング」を軸に、最新の知見を解説していく。

第1回は、企業のデータ活用支援を行うインティメート・マージャー(以降IM)代表の簗島亮次氏と、データ・マーケティングの現場の最前線を走る電通・三谷壮平氏、さまざまなデジタルマーケティング企業とのアライアンスを推進している電通・五島淳氏とともに、オーディエンスデータ活用の現状を語った。

(左から)電通・三谷氏、インティメート・マージャー・簗島氏、電通・五島氏

――初めに、皆さんが取り組んでいる仕事について教えてください。

簗島:データを使ったマーケティング環境の構築と、その活用支援をしているIMの代表を務めています。私たちは、クライアントが保有するデータと、当社が保有するオーディエンスデータを使って、潜在顧客の発見から購買に至るまでの施策をお手伝いしています。高単価でターゲティングの重要性が比較的大きい自動車、保険、金融、不動産などのクライアントが増えています。

五島:電通のデジタルマーケティングセンターという部署で、通信や金融、不動産、消費財といった業界の企業に対してマーケティング支援を行っています。また、Dentsu.io というビッグデータソリューションの開発・推進も担当しており、さまざまなパートナーとのハブ役として活動をしています。日々、高度化するクライアント様のマーケティング課題を解決することにチャレンジしており、これまでにないアプローチで企業のマーケティングプロセスを刷新するようなプランニングを心がけています。

三谷:電通入社以来、デジタル×ダイレクト領域に携わってきました。この領域を専門とするネクステッジ電通への出向や、家電メーカーのブランディングから直販Eコマースまでを一気通貫で設計する案件を担当したことがきっかけで、最近は顕在顧客をターゲットとすることだけではなく潜在顧客を増やすためのデジタル施策について考えています。

――IMと電通は、クラウド型データ解析プラットフォーム Dentsu.io でも連携してサービスを提供していますが、どのような意図があったのでしょうか?

簗島:データを活用したマーケティングというと、デジタル施策だけに閉じる感じがありますよね。でも本当はデジタルだけじゃなく、マス広告などにも応用できると思っていました。電通との連携によって、オンラインとオフラインのバランスが取れたマーケティング環境をつくれるのではと思ったのがきっかけでした。

五島:簗島さんのおっしゃる通り、電通は元々マス広告というか、オフライン施策には強みがあるので、IMさんのようなパートナーと強いシナジーを生み出せるのでは、という狙いもあります。実際、オフラインでのデータ活用も、ずいぶん進んできていますよね。

簗島:小売業は事例が多いですね。先日は地方のスーパーで、アプリを使ったターゲティングをして、新聞チラシとプッシュ通知との比較でどれだけコストパフォーマンスが変わるかを検証するといった施策を行いました。

他にも会員idやPOSを使った効果検証も増えてきています。ジオフェンシング(携帯端末の位置情報を活用したチェックイン機能など)もそうですよね。良品計画のMUJI passportの成功もあり、こういった事例は増えています。

三谷: Eコマースの普及率は年々高まっているものの、実店舗での購買の方が多いことも事実なので、デジタル施策の効果と実店舗の売り上げをきちんとひも付けることが大事ですよね。実際に私が担当している案件の中でも、デジタル施策からオフラインへの売り上げ貢献を可視化したいという相談が増えています。

データに基づいた効果検証が、デジタル施策だけでなくオフラインの施策でも行われるようになったのは、最近の潮流のひとつです。

これからのKPI設定のありかた

――ダイレクト施策的な手法がオフラインの施策に変化をもたらしているとのことですが、他の領域にも影響を与えているのでしょうか?

三谷:潜在層をターゲットに、認知率向上や態度変容を目的とした、いわゆるブランディング施策でもダイレクト施策の考え方が応用できると思っています。

もちろんそのような動きは以前からありましたが、「プラットフォームが整わない」「コストがかかる」「KPIが定められない」などのような理由で頓挫していました。アドテクの進化や、IMが提供するようなサービスの登場により素地が整ってきているので、今後このマーケットはどんどん大きくなっていきます。

簗島:これまで頓挫していた一番大きな理由は何ですか?

三谷:まずは効果検証ですね。例えばダイレクト施策の場合、50万円で5件獲得するとCPAがいくらなのか(この場合は10万円)がはっきりしています。けれど認知獲得目的で2500万円の枠を買って、5000万インプレッション出ましたという報告すると「それで何件獲得できたんだっけ?」みたいな話になってしまうんです…。

インプレッション保障広告は媒体がデジタルという理由だけで、どうしてもダイレクト施策と比較されることが多いです。そうなるとブランディング施策はCPAが合わないという話になりがちです。

簗島:「デジタル媒体だからCPAで評価しましょう」でなく、「認知獲得の施策だからマス広告と同じ指標を設定しましょう」とか「獲得目的だからCPAやCPOを見ましょう」というKPIの決め方が大事ですよね。このあたりは意外と今までやられていません。

三谷:さらに言うと、「短期的なCPAしか見ないダイレクト施策」と「リーチ数かクリック単価しか見ないブランディング施策」との二元論で語られることがほとんどです。しかし実際は、その間を埋める施策が重要です。

認知だけ・刈り取りだけではなく、ターゲットを見つけ、1 to 1でメッセージを送り、一人一人のレベルで購買意向を高めるという、デジタル施策が得意な「認知から購買までのステップ全体をシームレスに計画・実行すること」こそが理想的で、私たちはそれに取り組んでいます。

五島:マーケティングの全体像を見据えた上で施策を設計して、ブランド認知から購買までの間にあるギャップを埋めるということですよね。

もうひとつ現場目線の話をすると、クライアントの組織がデジタル媒体とマス媒体とで分かれていることで横断的な指標がつくりにくい背景もありました。ただ最近は統合型の組織に変わってきている印象もあるので、その意味でもこの課題は徐々にクリアされていくと思いますし、そういった組織のありようにも踏み込んだ提案ができると、より業界自体が活性化していくのではと思っています。

データ活用施策のプランニング手法

――そのような課題を越えて、潜在顧客へのデータを使ったアプローチができるようになってきたということですね。

三谷:はい、将来の顧客をつくる施策でも同じことが言えます。以前より取れるデータが増えている中で、デジタル施策だけではなくテレビCMや新聞広告などでも、施策ごとに説明責任を果たすことが今まさに求められています。

簗島さんが言ったようにCPA至上主義はだめなんですが、反対に「これだけリーチできました!」でごまかすのもだめだと思うんです。じゃあどうするのかというのは業界としてまだ議論の余地があるものの、私たちは次のような手法を用いています。

①アンケート調査をしてマーケット全体の構造を把握
②その中からターゲットになり得る層を見つける
③ターゲットごとに最適化した広告を打っていく

例えばアパレルブランドの潜在顧客の掘り起こし施策でも、やみくもにリーチを増やすのではなくファッションへの関与度が高い人と低い人とでメッセージや出稿量を変えたりします。そのようなターゲット選定・広告配信をすることで、マス広告よりも効率が良くなったり、より態度変容を促せるようなメッセージの出し分けができたり、ということも可能になります。

五島:そこで先ほどの言葉でいう説明責任というか、効果測定が必要になってきますよね。

コンバージョンやCPAの世界を離れると、とたんに効果検証ができない…といったようなことでは、やはりだめだと思うんです。そして、この部分をデジタルならではのやり方で、どう検証していくかについては、現場で日々試行錯誤がなされていますよね。

三谷:はい。例えばひとつの方法として、先述の3つのステップの①でターゲット選定のために事前調査を行っているので、事後調査を加えてビフォー・アフターで結果を見比べることをしています。

――今までにはない手法を取り入れつつ、従来の調査も掛け合わせるんですね。

三谷:そうです。少し話が変わりますが、例えばファッションブランドがアンケート調査をして、都内在住のファッション高関与層がターゲットだと分かったとします。でも、「その人たちにどうやって広告を出せばいいんだっけ?」という疑問をマーケターなら誰しも抱いたことがあるはずです。

このような場合、以前であれば「じゃあ、渋谷で看板ジャックする?」という話になっていたかと思うんですが、今はウェブ上の行動データから都内在住のファッション高関与層をかなり高い精度でターゲティングできるようになっています。そういったターゲットを割り出していく(再現する)アプローチをするときに、オーディエンスデータを活用しています。

五島:オーディエンスデータの提供者は数多ありますが、IMは国内最大規模のオーディエンスデータを持っていますからね。

技術の進歩を背景にして、どのようにデータがオフラインの施策やブランディング施策に活用され始めているかが明らかになった。後編では、その施策の鍵を握るオーディエンスデータが持つ可能性についてさらに詳しく解説する。