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急速にテクノロジーとの融合が始まった広告・マーケティング業界は、今後どのように変わっていくのか。電通でデジタルマーケティングに取り組む若手プランナーが「データ×マーケティング」を軸に、最新の知見をリレー形式で解説していく。

前編に続き、企業のデータ活用支援を行うインティメート・マージャー(IM)代表の簗島亮次氏、電通のデジタルマーケティングの最前線にいる三谷壮平氏と、同じく電通でさまざまなパートナーとのアライアンスを担当する五島淳氏が、オーディエンスデータ活用の現状を語った。

(今さら聞けない)オーディエンスデータとは

五島:そもそもオーディエンスデータは、ウェブ上で顧客を可視化して、その上でターゲティングをするということがベースになっています。それがウェブ上だけでなく、オフライン施策にまで拡張されているのがトレンドですよね。

簗島:そうですね。先ほど(前編)三谷さんも言っていましたが、今まではアンケートなどで一生懸命作ったターゲット像が「独身、20代男性、趣味は○○」のように精緻化されているにもかかわらず、実際の施策では全員にリーチさせるかリターゲティングするかしかできませんでした。オーディエンスデータは、理想(プランニング)と現実(施策)の間にあった大きな差を埋められるのかなと思います。

年齢・性別はもちろん、興味・関心や「土日は銀座で買い物」といった行動まで、ターゲットのイメージを再現し、実際にターゲティングすることも可能です。

――そもそも…ではありますが、オーディエンスデータとはどういうものなんですか?

簗島:オーディエンスデータという言葉をよく耳にするようになった一方、実際はどんなものか知られていないかもしれません。まず前提として、ブラウザのcookieを使ったウェブ上の行動データがベースになった情報のことをいいます。

私たちはcookieで取得した情報にひも付ける形で年齢・性別・年収など、いわゆるデモグラフィックな情報をアンケート会社と連携して明らかにしています。また、まとめサイトやポータルサイトなどから分かる興味・関心の情報と、位置情報やIPアドレスといったジオグラフィックな情報もオーディエンスデータに含まれます。

五島:このデータにより、これまで定量化できなかった人の価値観などのインサイトを深掘りしてマーケティングに反映できるようになってきました。ブランディング(認知)とダイレクト(購買)の間にある態度変容など、気持ちの変化をスコア化するという試みです。

簗島:まさに購買直前ではなく、ブランドに興味を持ち始めの顧客層を定義するためにIMのデータを使っていただいています。

生命保険を例にすると、検討し始めの人は「生命保険 選び方」と検索していそう、「生命保険 比較」だったらもうちょっと購買が近そう、会社名を検索していたら最終検討に入っていそう、ということをまとめサイトやポータルサイトの情報を使って再現できるようにしています。顧客のフェーズに合わせたコミュニケーションの材料として活用できるのが、私たちの持っているオーディエンスデータです。

五島:保険商品だと珍しいかもしれませんが、一般的に「買いたい」の前にはそもそも「好き」という気持ちが存在していると思うので、データを使ってそういった潜在的なこともあぶり出せますよね。クライアントからのニーズも出てきています。

三谷:発想の起点が変わってきていますよね。今まではクライアントであれば商品ありきで、商品を売るために一番顧客に近いメディアだからSNSを始めようだったり、あるいは広告会社だとメディアありきで、リーチ目標が●●万人だからテレビCMをやりましょうだったり。

でも、本質的なのは顧客・生活者ありきの発想だと思います。生活者がここにいて、こういう興味を持っていて、こういう属性で、ということを起点にするということです。テクノロジーの進化で、マーケティングの起点は生活者だという本来あるべき姿にようやく到達したのではないでしょうか。

データが変えるクリエーティブとマーケティング

三谷:ここまではあくまで集客の話でしたが、ユーザー起点の発想ができれば集客した後に何を見せるかということも考えられるようになります。例えばアパレルであれば自社商品だけではなく、最新のファッショントレンド紹介といった一見購買とは少し遠いようなコンテンツが必要だということが自然に考えられるようになります。

昨今はコンテンツマーケティングが注目されているように、マーケティングがユーザー起点になってきていると考えると分かりやすいのではないでしょうか。

簗島:ウェブ広告は元来、「バナーは50個つくってから一番CTR高いやつに予算寄せろ」とか「『業界ナンバーワン』と入れておけばいい」というようにクリエーティブについて深く踏み込めていませんでした。ところがオーディエンスデータを活用するようになったことで、訴求メッセージの話になることが増えました。

例えば同じ30代男性でも、結婚したての人と独身とで訴求する軸を変えたがほうがいいよね、などバナーひとつでもちゃんとクリエーティブの話まで触れられるようになっています。

――そういった意味ではメディアを問わずクリエーティブに実績のある電通も、ネット広告専業のプレーヤーにはない強みがありそうですね。

簗島:電通に対してだけではないですが、クリエーティブをつくるための「種データ」として広告会社にデータ提供することもあります。

再び保険商品の事例ですが、結婚したて・子どもが生まれたてというペルソナを設定していることが多い中、新たなターゲットをデータで発見したケースがありました。

その案件の中で調査を進めると、有名女優やタレントの方が体調を崩されたといった類のニュースがきっかけで、生命保険やがん保険を考え始めた人が増えていることが分かりました。そういった人たちとこれまでのペルソナとは、明らかに訴求メッセージが違ってきますよね。データを起点にクリエーティブを考えれば「業界ナンバーワン」の一辺倒ではないメッセージが出てくると思います。

三谷:クリエーティブ領域においてもそうですが、当然ながらマーケティング領域でも電通の強みをデジタルでより出せるようになりました。一つは全体を俯瞰して戦略をつくることです。オンラインとオフラインを有機的に組み合わせるプランニングは、総合広告会社ならではといえると思います。

五島:あと、もう一つ思っているのは、クライアントの課題を深いところまで掘り下げたり、調査結果からは出ない発想を使ったりして解決策を出すことではないでしょうか。旧来のマーケティング的な手法の例として、これまではどうしてもパネル調査やグループインタビューなどしかできませんでしたが、IMのようなパートナーと組むことによって、単にクリエーティブなアイディアだけ、または逆にデータだけではない提案力が加速していると感じています。

 

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著者

簗島 亮次

簗島 亮次

株式会社インティメート・マージャー

慶應義塾大学 大学院 政策・メディア研究科を2010年首席で卒業。卒業後は、グリー株式会社にて、プラットフォーム開発に関連する複数の部門でマネジャーを兼務。RSCTC 2010 Discovery Challenge(世界最大級の統計アルゴリズム コンテスト)にて世界3位。 日本最大級を誇る約4億のオーディエンスデータを用いて、企業のDMP構築やデータ活用マーケティングを支援。同社のDMP導入企業は、420社を超える。

三谷 壮平

三谷 壮平

株式会社 電通

ダイレクト系広告主のROI改善業務に従事した経験から、ブランディングも定量的な「パフォーマンス」で説明できる新手法を、アドテクノロジーの活用によって開発する事例を数多く創出。広告の純増効果を評価するTrue Lift Modelや、事業成果の直接的な最大化運用を実現するX-Stackなどの提唱と普及をリード。

五島 淳

五島 淳

SHE株式会社

2010年に電通入社し、関西支社に配属となるも、自身の笑いへのクリエイティビティーに限界を感じ、東京本社へと異動。ブランド/マーケ戦略構築、DMP構築、キャンペーン企画、KPI設計/PDCA、CI/VI/顧客体験デザインなど、幅広いマーケ業務を担当。全社データ基盤開発、戦略コンサルや大手メディアとの共同事業開発、自動車会社での新設マーケ部署立ち上げ常駐、デジタルネイティブ専門プランニングユニット立ち上げや、スタートアップ専門対応組織「電通グロースデザインユニット」立ち上げなどを経て同社を退職。2019年、ミレニアル女性向けのキャリア支援スタートアップであるSHEへCMO(一部COO兼任)として参画。マーケティング・PR・事業グロース全般を管掌、Cartier/McKinsey主催アワードでは、アジア初ファイナリストに採択された同社のGlobal PR業務も推進。本業の傍「6curry」というサブスクリクション・コミュニティー事業の経営にも参画。

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