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「宇宙産業へのチャレンジ。企業と個人の力を結集して『夢みたい』を現実に。」

袴田武史

2016/02/18

宇宙を舞台に展開する国際レース「Google Lunar XPRIZE」に参戦中の「HAKUTO」。民間の資本で月面にロボットを走らせるという夢に挑戦するチームを率いる袴田武史に話を聞いた。

レースをきっかけにして宇宙産業や開発を加速させたい

「HAKUTO」は、宇宙を舞台にした国際レース「Google Lunar XPRIZE」に日本から唯一参加しているチームです。レースのミッションは、「2017年末までに、民間の資本だけでロボットを月面に送り込んで、500㍍以上の距離を移動させて、高精細な映像を地球に送信する」というもの。いわば、月面でのF1レースのようなものです。1927年に大西洋を横断したチャールズ・リンドバーグをご存じでしょうか。リンドバーグが無着陸で大西洋を横断した後、航空機産業は一気に飛躍します。実は、この大西洋横断も「オルティーグ賞」と呼ばれる賞金レースでした。目に見える結果が世に示されたことで、技術や産業が発展したのです。Google Lunar XPRIZEも、大西洋横断のエピソードとその後の航空機産業の飛躍を参考にしています。

HAKUTOが挑戦しているのは、月面を走行する探査用ローバーの開発。月まで到達するためのロケットと月面への着陸船は別チームのスペースを買い取り、相乗りさせてもらう予定です。現状は、15年1月にGoogle Lunar XPRIZEによる「中間賞」を受賞し、トップクラスの上位5チームに入ったと認められました。最終的に優勝したチームには、レースのスポンサーであるGoogleから2000万㌦(約24億円)の賞金が出ます。ただ、私たちは、賞金稼ぎをやっているわけではありません。そもそも、賞金だけだと開発やプロジェクトに掛かる費用の回収は難しく、大抵は赤字です。重要なのは賞金ではなく、レースをきっかけに、イノベーションを起こして、宇宙産業や開発を加速させていくことです。

パートナー企業の技術も活用して超小型の探査用ローバーを開発

とはいえ、現実問題としてプロジェクトを進めるにはお金が掛かるので、私たちは10億円を目標に、私たちの挑戦を理解してもらえる企業から支援をしてもらう形を取っています。挑戦とは、一義では「民間の力による月面探査」なのですが、その先には、より社会的な使命があると考えています。それは、「どんな夢みたいなチャレンジでも、一歩一歩進めば実現できることを示す」ことです。私たちは宇宙産業へのチャレンジを選びましたが、それを見たより多くの人たちに、それぞれの目標に向かってチャレンジしてほしい。そうすれば、日本は必ず良い社会になるはずです。合言葉は、「『夢みたい』を現実に。」。この理念に賛同してもらった企業から支援を受けています。

支援といっても、その方法は多岐にわたります。技術やノウハウの提供も、大きなサポートとなっています。宇宙産業といえば、世の中に出ていない最先端技術の塊と思うかもしれませんが、それは間違い。宇宙では故障したら修理ができないので、すでに使われている信頼性の高い技術を使う必要があります。むしろ、既存の技術を組み合わせたイノベーションが重要です。私たちが開発している探査用ローバーにも、パートナー企業の技術やノウハウをはじめ、さまざまな民間技術を採用しています。

小型ローバーの大量展開で月面での資源ビジネスに挑戦

HAKUTOは、企業だけでなく個人の力にも助けられています。仕事を通じて培った経験やスキルを生かすプロボノ的な関わり方です。宇宙というキーワードが入ると、どうしても技術者の集まりだと思われがち。しかし、産業として成立させるには、会社と同じように、経営者は当然ながら財務や法務、PR、営業など、いろいろなファンクションが必要です。そこで、「自分も宇宙に関わりたいけれど、仕事などの関係で100%はコミットできない」という人たちが持つ経験や専門スキルを活用させてもらうスキームを構築しました。この「プロボノチーム」に加え、私が代表を務める、資金調達や事業計画などを担当するベンチャー企業「ispace」、そして、ローバーを開発する「東北大学吉田研究室」がHAKUTOチームの3本柱となります。

Google Lunar XPRIZEは17年末に終了する予定です。しかし、私たちの歩みは止まりません。私たちの強みは、おそらく世界で最も小型で軽量な探査ローバー。月を含めて宇宙に物を運ぶときには、その重量で金額が決まります。小さく、軽量であるほど全体のコストが安くなるメリットがあります。もちろん、小さく軽いことで壊れやすくなったら本末転倒。そこで、軽くて強い素材であるCFRP(炭素繊維と樹脂との複合材料)をボディーに採用したり、可動部分を極限まで削減したりするなどの工夫をしています。動く部分が多いと故障する可能性も高い。動く機器類は、各タイヤに設置した四つのモーターとギアくらいなんですよ。月面を撮影するカメラも1台のカメラをモーターで動かしながら全体を映す仕組みではなく、側面に四つ設置することで、カメラを動かさなくても360度撮影できる方法を採りました。

この探査用ローバーを10台、100台と増やして月面に展開できれば、探査の効率が一気に飛躍すると考えています。探査の第1段階は、月に存在する可能性がある水を見つけ出すこと。水があれば、水素と酸素に分離させて燃料を作ることができ、燃料があれば、月から火星へとロケットを飛ばすことができます。地球から飛ばすよりもはるかにコストが下がる。将来的には、レアメタルも含めた資源開発を手掛けたいと考えています。人は「夢」と言うかもしれませんが、個人的には、夢と捉えた段階で、もう実現への意識をなくしてしまっている。私にとっての宇宙産業は「夢」ではなく、比較的実現に近い「目標」なのです。