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前澤友作さんのマネジャー、宇宙に行って、映画監督になる。
「僕が宇宙に行った理由」12/29公開

2023/12/25

2021年12月、実業家の前澤友作さんと関連企業役員の平野陽三さんが「民間人飛行士」として宇宙へと飛び立ちました。日本の民間人として初めてISS (国際宇宙ステーション)で過ごし、12月20日に無事、地球へと帰還しました。

それから2年。平野さんが、なんと今度は「映画監督」として、この宇宙旅行の記録を映画にすると聞き、早速、お話を伺いました。宇宙旅行の実体験と映画制作について、電通のクリエーティブディレクターの笹川真が探ります。

飛行前のインタビュー記事はこちら:
前澤友作さんのマネジャー、民間人飛行士として宇宙に行く。 
 

きっかけは、平和への思い

笹川:初めての監督作品「僕が宇宙に行った理由」の完成、おめでとうございます。12/29にいよいよ公開ですね。上映劇場 も着々と増えていっていますね。

平野:ありがとうございます。全国94 もの映画館で上映していただけることになりました。

笹川:映画のフライヤー、青い地球を背景に前澤さんを撮影した一枚も素敵です。これも平野さんが撮影したものですよね。

平野:思っている以上に地球って曇が多くて、そんなに地球って真っ青にならないことに驚きました。せっかく日本の上を通るのに隠れてしまうことが多かったですね。青い地球をバックに、っていうのはなかなか難しかったです。

笹川:行った人でないとわからない実感ですね。ところで、宇宙に行かれる前から、映画化まで予定されていたのでしょうか。

平野:当初は映画とまでは考えていませんでした。2021年12月20日に地球に帰還した約2カ月後にロシア・ウクライナ問題が起こり、前澤さんと僕はロシアのソユーズ宇宙船で行ってきたこともあって、発信は難しく、いったん、完結という形になりました。

その後、撮影した映像素材の整理をしていたら、前澤さんが世界平和について語るシーンがいくつもあって。何らかの形でそれを外に発信したいという思いが湧いてきて、映像作品として完成させる決断をしました。2022年4月ごろです。翌月にニューヨークで、前澤さんのコメントを撮影したのが映像作品化のスタートでした。

映画の見どころ①これを見たら行き方がわかる!いわば「宇宙旅行ガイド」

笹川:宇宙に行く前から、平野さんがほぼ毎日書かれていた手記で、訓練等の現場の雰囲気は文章でも十分感じることはできていたのですが、やっぱり映像は強いですね。

平野:本当に訓練していたんだねって言われます(笑)。僕としても、撮りためた映像の記録的価値に重きを置いて作りました。今まで世に出てなかった「宇宙の行き方」は、余すところなく出し切ることは意識しました。映画の見どころのひとつだと思っています。

笹川:訓練→打ち上げ→宇宙→帰還と、時系列に沿った全部入りの旅行マニュアルというか、宇宙飛行士になるためのトリセツにもなっていますよね。ここまでわかりやすく開示している映像は、宇宙の仕事に携わってきた中でも見たことがないです。

平野:確かに確かに。 僕も作りながら、意外と情報を出せるんだなと思いました。映画の中で前澤さんも語っていますが、自分のお金で行く人は、その発信や発言の自由度が高い けれど、国の税金を使っていく選抜された宇宙飛行士が同じように発信するのはきっといろんな問題があるような気がしますよね。だからこそ、前澤さんがやらなければならないことだと思います。

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笹川:宇宙機関の検閲はかなり厳しいのだと、先入観で思い込んでいました。

平野:普通はそう思いますよね。それほどでもなかったです。むしろ、大変だったのは撮影の方で、ずっとカメラをまわしていました。地上では自由に機材を使えるのでストレスはなかったのですが、ISS内では常にデータ容量や機材の古さと格闘していました。

笹川:それはどういうことですか?

平野:ISSへのSDカードの持ち込みに制限があります。ハードディスクも1個だけ支給されるんですけど、古いので全然スムーズに転送されず、データがすぐ満杯になるんです。満杯に近づくと、動画をやめてここからは写真だけを撮ろうとか、この動画を消して空き容量を作ろうとかそんなやりくりを毎日していました。充電も少しずつしかできないので、深刻な問題でした。

笹川:そんな過酷な状況下で撮りためた貴重な映像だと思うと、映画を見る目がまた少し変わってきますね。

映画の見どころ②まるで目の前でロケットが打ち上がるかのような「音」

平野:記録的価値の一部分と言えるのかもしれませんが、映画館でぜひ体感してほしいのは音です。特にロケットの打ち上げシーン。

笹川:すごい音でした!実際、本物の打ち上げは、形容しがたい迫力がありますよね。地球が壊れてしまうんじゃないかというくらいの。

平野:その迫力をできる限り再現したくて、何回も検証しました。ロケット打ち上げ時の、地割れするような、空気が割れるような音圧が現場レベルで再現できていると思います。映画館の音響設備で、バイコヌールにいる感覚を体験いただけたらと思います。

笹川:平野さんは今回、宇宙船の中で打ち上げを経験していますよね。すさまじい出力のエンジン音の至近距離にいるわけで、外から見ているのとは比じゃない音や振動を体感されたのでは。

平野:そう思うじゃないですか 。それが全然違って。打ち上げ時、宇宙船の中は静かなんですよ。

笹川:本当ですか!?

平野:信じがたい静けさです。「あれ?これもう飛んだの?」と前澤さんと2人で目を見合わせたくらい。スーッと浮き上がっていく感じでした。打ち上げ時にかかるGは、4Gに行かないくらいで、心地いい圧をかけられている感じでした。静かだし体も全然つらくはなかったです。

笹川:打ち上げはロケット内だと静かで心地よい。意外すぎる真実ですね。

平野:なので映画では、中にいる宇宙飛行士目線ではなく、現地で見守ってくれた人たちの目線でロケットの打ち上げは描きました。

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笹川:宇宙飛行士としての平野さんに聞きたいのですが、映画の中で僕が印象に残ったのは、地球への帰還シーンでした。複数のパラシュートが開いているのに落下の見た目のスピードがあまりにも速くて、しかも地面に落ちた瞬間、爆発っぽい何かがあって、真っ黒に焦げたように見えました。打ち上げシーンとは対照的に、映画の中ではさらっと描かれていましたが、あの着地、とても怖くなかったですか。

平野:びっくりするぐらいの衝撃がありました。自動車で後ろから追突されたみたいな感じです。

笹川:やっぱり!体には影響なかったですか?

平野:それがないんです。落下時に地表80cmまで迫った瞬間に、固体モーターがシュッと地面の方向に逆噴射して着地の衝撃を緩和させます。土煙があがるのはこれが原因ですね。さらに、着地の瞬間にシートが上がるように設計されています。この二重のクッションがあるので見た目ほどの衝撃ではないんです。

笹川:着地したのち、ソユーズから出てくる時、みなさん自分で歩けないじゃないですか。あれは、衝撃でダメージを受けているのか?無重力下で筋肉が衰えて歩けないのか?どっちなんだろうと。

平野:それは両方違っていて、ISSでの無重力に自分の体がアジャストしているので、地球の重力の感覚を体が 忘れているからなんです。カプセルから出ようと思っても体が重たくて、持ちあがらない。体が地面のほうに張り付いちゃうんですね。ただ、僕らと違って、プロの宇宙飛行士さんのように宇宙の滞在期間が長いとやっぱり筋力の低下はあるようですが。

ちなみに衝撃で言うと、ランディングよりも、高度10,000 mの地点でパラシュートが開いた瞬間の方が激しい衝撃でした。ぐわっと持っていかれるというか、そういう感覚。そこだけは地上で絶対に訓練できないのであれは驚きました。あとは、その前の、宇宙から大気圏に突入した時も想像を超えた強いGを受けました。落ちるというよりギューッと押しつぶされるのに近い感覚。本当にやばいです。息ができなくなっちゃうぐらい。なのでまとめると、宇宙は行きより帰りが大変です。

笹川:打ち上げシーンの音の構成が、ふたつ目の見どころですが、宇宙飛行士目線で言うと、宇宙は帰りの方が大変だということを勉強させていただきました。

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映画の見どころ③宇宙と映画を通じて伝えたい「挑戦と平和」

笹川:ネタバレのない範囲で、ストーリー的な見どころも、教えてください。

平野:成功させた会社を辞めて、そこまでして夢を追い求めて宇宙に行った前澤さんの姿です。夢を追いかけるとか、挑戦することをやめないとか、大の大人であるにもかかわらず、ピュアに語っているんですよね。なかなかそういう人っていないと僕は思っていて、何歳になっても、常に夢を諦めずに挑戦し続けるこの人を、もっと多くの人に見てほしいなあという思いで編集しました。

もうひとつ付け加えるとすると、前述したとおり、映画を作るきっかけは世界で争いが 起こってしまったことでした。宇宙から地球を見つめながら、全く意図せずにISSで話していた言葉が、改めて、平和や争いを考えるきっかけになればという思いがあります。

笹川:こんな未来になると思っていないタイミングで、ISSの中で発せられた言葉が、今、聞くと、何か違う意味を帯びていますよね。映画の中の、飾らず、準備していない、心から漏れる言葉に、胸をうたれました。前澤さんのことをよく知る平野さんが監督されたからこそ、感じられたことでもあると思いました。

平野:うれしいですね。夢とか挑戦とか世界平和なんて、そんなに簡単に伝わるような類いのメッセージではないと思っています。でも、宇宙からの 美しい地球とともにひとりでも多くの人に届いてくれたらと願っています。

次の宇宙プロジェクト「dearMoon」に向けて

笹川:SPACETODAY社としては、SpaceX社の宇宙船の完成を待つ、月周遊プロジェクト「dearMoon」も待っています。前澤さんと平野さん、宇宙を経験したメンバーが会社に2人もいるということでしっかり準備ができそうですね。

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民間人初となる、月周回の宇宙プロジェクト。イーロン・マスク氏率いるSpaceX社のロケットに乗り、月を周回。約1週間で地球へと帰還する。全席の権利を取得した前澤氏の「宇宙に行くチャンスをより多くの、より多彩な才能に開きたい」という願いから、世界中の8名のアーティストが選ばれ、月へと旅立つ。

平野:宇宙で何をやるのか。企画の実施や準備に関して、貢献できることはあると思っています。僕らは、ロシアの機関を通じてISSへ渡航したので、持ち込める物や、やれることの制限がありました。でも、次のSpaceX社の宇宙船では、そういった制限がほぼないと思っていて、やれることが格段に広がると思います。映像をひとつ撮るにしても、ISSの時は決められた機材という制約がありましたが、次は、機材選びから変わってくると思います。

月周遊へ行く8人のアーティストは既に発表されました。おひとりずつが具体的に何をされるのか。何かみんなでコラボレーションするのか。そして、今まで映像の記録が公開されていない月の裏側を回ってくるというプロジェクトですので、どのように記録し、人類の映像資産として、残すのか。必要な準備や目的の設定はまだまだいろいろありますね。

月周遊プロジェクト「dearMoon」のサイトはこちら:
https://dearmoon.earth/ja/


笹川:今回の映画で残された「宇宙の行き方」とはまた違う、SpaceX社での「月の裏側の映像」は、記録としても重要なものになりますね。SpaceX社の宇宙船では、機材以外にも改善できるものはありそうですか?

平野:やっぱり食事とお風呂関係、水回りは、改善の余地があるというか、まだまだ課題なんだろうなと。宇宙食は、おいしい・まずいというより、日本人の口にはなかなか合わないものがありました。映画に出ているカレーは、JAXAから持ち込ませてもらった日本食で、おいしかったです。

でも、今回は、食料に関しては、きちんと開発すれば、何でも持っていけるんじゃないかな。宇宙食の肝は長期保存ができることですが、次の月の旅行も1週間弱ですから。地上で食べてもおいしいものを普通に持っていくべきだと思います。液体で飛び散るものが全部駄目なのかと思っていたんですが、全然そんなことはなくて、液体は動かさなかったらそのまま同じ場所にとどまっているんで、意外と大丈夫でしたしね。

笹川:実際に行かれた人の経験は大きいですね。

最後に一言

平野:シンプルにいうと、宇宙に行って帰ってきたという宇宙旅行記なんですけれど、そこには何かを信じて突き進む夢や挑戦があったり、多くの人の協力が必要だったり、人と人の触れ合いがあったり、タイトルにもなっている「僕が宇宙に行った理由」がいくつもあるのですが、どれかひとつでも、見てくださる人が共鳴してもらえたらと思っています。

笹川:映画の見どころは、「記録的価値」「音」「挑戦と世界平和」ですね。
最後の最後に質問なんですが、宇宙だったり、無重力だったりを体験したことがある人類はまだ世界中でほんの一握りの人ですよね。そのひとりである平野さんは、チャンスがあれば、また宇宙に行きたいですか?

平野:行きたいです!行けるのであれば。

笹川:なんと!?行く前の平野さんの心境と大きな変化がありましたね。次も行くことがあるのなら、月からの帰還後、ぜひインタビューをお願いしますね。

平野:月に行くことにはなっていないのですが(笑)、もし行った場合は、わかりました。

「僕が宇宙に行った理由」公式サイトはこちら:
https://whyspace-movie.jp/#modal


 

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