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Experience Driven ShowcaseNo.55

人が集う「演劇という場所」をつくる:藤田貴大(後編)

2016/02/23

「会いたい人に、会いに行く!」第4弾は、劇団「マームとジプシー」の主宰者で、作・演出を手掛ける藤田貴大さんに、電通イベント&スペース・デザイン局の藤田卓也さんが会いに行きました。北海道で暮らした子ども時代から、“演劇まみれ”で育ってきたという藤田貴大さん。象徴するシーンのリフレインを別の角度から見せる映画的な手法や、さまざまな分野のクリエーターとのコラボレーションが、演劇界以外でも大きな注目を集めています。

取材・編集構成:金原亜紀 電通イベント&スペース・デザイン局
(左より)藤田卓也氏、藤田貴大氏
 

演劇だけでは形容できない、中間的な何かを空間にちりばめる

藤田卓也(以降、卓):客の時間のパイは決まっているじゃないですか。どのように関心の接点をつくるかが難しいですね。

藤田貴大(以降、貴):インターネットさえあれば個人も映像表現で何だってできるし。でもその中で演劇のようなアナログなジャンルは、どうやって生き残れるのか。家でできることと、外に出て体験しなきゃだめなことの折り合いをどうつけていくか。やはり家を出てもらって、今回の「書を捨てよ町へ出よう」の場合4800円払って「見てよかった」と言わせたいですよね。

演劇だけで本当に2時間お客さんを座らせることができるのか。演劇じゃない要素の時間があったり、これは演劇だけでは形容できないなみたいな、中間的な何かがちりばめられていたり、どこに満足してもらうかというさまざまな要素を空間に散らばせたいと思っています。

 
上記写真はすべて、東京芸術劇場で公演(2015.12.5-27)した「書を捨てよ町に出よう」の写真
撮影:井上佐由紀

卓:まさに、藤田さんの演出は、階層的につくられている感じがすごくしました。フックをたくさんつくっているということなのですね。

貴:今は僕がそういうことを試みている時期だし、そういう問題に僕が直面しちゃっているために、スタッフはみんな大変なんです。いろんなコラボレーションが一作品において同時並行で起こっている。全方面で音楽や服ともコラボをやっているし、言葉の補強では又吉直樹さんとか穂村弘さんとも関わっているし。

一方でいつかはこういうスタンスじゃなくて、本当に演劇だけに戻ってみてもいいんじゃないかとも思っています。一回またシャープにしてみて、どれだけの人がついてきてくれるか。今年僕は30歳になったんですが、30歳代は多分そういう時間の使い方になっていくのかもしれませんね。でもシャープするにしても、一回風呂敷を広げてノイズにまみれてみて、その後にシャープになったもののシャープさの方が信用できると思う。

卓:すごく共感できます。広告コミュニケーションを考えるプロセスも、まさにそうですよ。アイデアを広げて、最後はシャープに収れんさせるという意味で。

 

観客に対して「嘘のない空間」を演出することにこだわる

貴:20歳前後のときに演出助手をやっていた時代があって、パネルの裏にはけてきた俳優さんが、パネルの裏にはけた瞬間に『ジャンプ』を読み出したんですよ(笑)。上演時間は1時間半とか2時間ぐらいじゃないですか。その時間さえ『ジャンプ』を読むことを我慢できなかったのかと驚いた。袖のパネルを全部スケルトンにした方が面白いんじゃないかと思いました(笑)。だけどお客さんは、本当にその2時間舞台に向き合っているわけだから、その2時間ぐらいは我慢してもよくない?と思います。僕は来たお客さんに対して、嘘のない空間を目指しているんです。

卓:上演時間中の役者さんには、絶対にそのテンションを保ってもらわなければならないと考えているんですね。

貴:はい、だから、はけさせません(笑)。大体みんな、(役者は)舞台上にいますよ。演劇ではお客さんに見えないところで水とかを飲むけど、水飲む作業もお客さんの前でやらせているから。

卓:ドリフの場面転換みたいですね(笑)。ここでしか見られないものを見た、という感じにつながるというか、僕もイベントの企画をするときには体験の希少性を突き詰めるよう心がけています。その体験を口で説明できないところぐらいまで持っていきたいというのを目標にしています。今回の「書を捨てよ町へ出よう」でも、席の後ろの通路を演者の人が走ったりすると、前の方の客は振り返ったりして、空間全体が緊張感のある舞台になっていましたね。

貴:一回性に賭けていく部分があって、しかもその部分をどれぐらい作品に最終的にパッケージングさせていくか。希少価値の高いものを見せることは妥協しちゃだめだと、こんな時代だからこそ特に思いますね。

公演を見る土地によっても、見え方が全然変わってくるものなのです。だから地方の公演に行って、そこの土地ではどういうご飯を食べているのかとか、どんな歴史があるかをなるべく現地の人に教えてもらうことにしています。演劇って、音楽もできるし、照明とかビジュアルのこともこだわれる、しかもストーリーも全てゼロから作れる、まさに総合芸術ですから。

 

常に次の「違う化学反応が起こる」ことを目指して

卓:各方面とのコラボレーションは、どのようにディレクションしているんですか?

貴:衣装にしても音楽にしても、コラボレーションをする方たちに、こちらのイメージや希望だけを押し付ける事は絶対にしたくないと思っています。それは可能性をすごく狭めてしまうと思うので。例えば、衣装だとこのシーンにこういう服が欲しいんですという話はしたことなくて、このシーンは一応こういうシーンだけど、この役者に似合う服であれば何でもいいです、という感じですね。いろんなものが共存し合い過ぎちゃうと、それってすごくリスクも高くて、散漫なノイズになってしまうということもあり得るわけですが、遠回りの調整をあえて、ずっとしているという感じです。

卓:つくっているクリエーターをリスペクトしているということですよね。違った角度から見ると「農家の顔が見える」みたいな効果もあるのかな(笑)。

貴:まさにそうですね、最初はできるだけ漠然としたところから始めた方が多分、違う化学反応が起こるんじゃないかな。

卓:勇気の要ることですね。

貴:作品づくりのポテンシャルって幾つかあると思うんですよ。僕も劇場に「この12月に寺山修司さんのこの作品をやってほしい」というオーダーを受けるわけです。じゃあどういうことをすればいいのか、最初は迷いますよね。藤田のコラボレーション力をフルに使いたいのか、役者とがっぷり四つになって演出するのか、寺山修司へのオマージュをやりたいのか、いろいろ方法はあると思う。そこを絞り過ぎちゃうとポテンシャルを引き出せないことになるから、組み合わせのバランスが難しい。

卓:ディレクションの幅を広げて、可能性を最大限に引き出しているんですね。

貴:オーダーされる側は、絞ったことを指示してくれた方が安心するけど、やりやすさって本当は危ないんです。微妙な限界値を上げるための言い方が難しい。

卓:相手が深く考えざるを得ないような状況を、うまくつくってるわけですね。

貴:ドSな感じがあるのかな(笑)。ただ、これまでには失敗もあって、たくさん相手に怒られてきています(笑)。

卓:藤田さんが映像作品や他の分野のクリエーションもやられると面白いんじゃないかなと、今日の話を聞いていて思いました。コンテンツはまだまだ、いろいろな組み方で拡張の可能性がたくさんあると感じました。藤田さんなら、広告の分野との協働でも、一緒に面白いことができそうです。今日は、すごく勉強になりました。

<了>

 

<公演情報>
「夜、さよなら」「夜が明けないまま、朝」「Kと真夜中のほとりで」
作・演出 藤田貴大
2016.2.11-2.28/彩の国さいたま芸術劇場 小ホール
http://www.saf.or.jp/arthall/stages/detail/3387

 

チャレンジふくしまパフォーミングアーツプロジェクト!「タイムライン」
2016.3.26 sat/福島県文化センター(福島県福島市)
作・演出 藤田貴大 音楽 大友良英 写真 石川直樹 振付 酒井幸菜
出演 福島県の中高生 主催 福島県 
http://www.fukushima-performingarts.jp

 

LUMINE0オープニングイベント レパートリー作品三作同時上演
2016.4.28 thu - 5.8 sun/LUMINE0
「カタチノチガウ」 2016.4.28 thu – 4.30 sat
「あっこのはなし」 2016.5.2 mon – 5.4 wed
「てんとてんを、むすぶせん。からなる、立体。そのなかに、つまっている、いくつもの。ことなった、世界。および、ひかりについて。」2016.5.6 fri – 5.8 sun
http://mum-gypsy.com