リアルリテールの新しい潮流No.1
「RETAIL'S BIG SHOW 2016」レポート(前編)
2016/02/29
電通「人の流れラボ」研究員の秋元です。米国最大級のリテールコンベンション・NRF「RETAIL 'S BIG SHOW 2016」で、最新のリテールテクノロジーやリテールマーケティングの動向について見聞きしてきました。その模様をレポートしたいと思います。前編は米国 リテール業界の潮流について、後編は屋内測位を中心に書きます。
「RETAIL 'S BIG SHOW 2016」とは?
NRF(全米小売業協会)が主催する年に1度のコンベンション。今年で105回目となる業界の代表的なイベントで、流通・ブランド・テクノロジーベンダーが一堂に会し、ナレッジの共有やネットワーキングに励みます。リテール業界のトレンドが色濃く反映さるのが特色です。
なんで米国なの?
米国はアマゾンの本拠地。リアルリテール(実店舗型小売業)の危機意識が非常に強く、より先駆的な施策が試されるため、先進的なテクノロジーや知見を吸収しやすい環境にあります。
Disruptor or disrupted?
会場の雰囲気は明るく、活気に満ちていました。「思ったよりもEコマースサービス勢に食い込まれていない。自分たちもインターネットの力を取り込んでいけば、いい戦いができる」という趣旨の発言が多く聞かれ、以前から通っている方も「数年来漂っていた焦燥感が和らいでいる」という感想でした。
事実、ここ数年米国のEコマースサービスの伸び率が鈍化しています。
米国リテール業界は、4半期で1.1兆ドルを超えるに超巨大市場ということもあり、Eコマースのリテール市場全体に占める割合はいまだ10%に届いていません。
NRFのトップは「ここでホッと一息つくと、ビジネスをDisrupt(破壊)されてしまう。ペースを落とすことなく、よりイノベーティブなチャレンジを実行しDisruptor(破壊的創造者)としてグローバル経済をけん引しよう」という趣旨の発言をし、業界を鼓舞しています。マイナスをゼロに戻すのではなく、一気にプラスにもっていこうとする意識と姿勢が、テクノロジー進化と米国の強みにつながっているのだと思います。
Consumer Experience
「では具体的にどうやってビジネスを進化させるのか?」という点では、「テクノロジーを活用して実店舗の強みを生かし、もっともっとConsumer(消費者)のExperience(体験価値)を向上させることが必要」だと繰り返し語られていました。
これはセミナー/セッションのタイトルから作成したワードクラウドです。展示会場も含めた全体のキーワードは「Consumer Experience(Consumer Centric)」「Big Data」「Personalization」「In Store」「Mobile」の5つにまとめられると思います。「ここ数年の取り組みでオムニチャネル化とデジタル化は確かに進んだけれども、個々の取り組みが孤立してしまっていて、顧客体験を高めるための最適化がなされていない」という課題が指摘されていました。
「Consumer Centric」にプランニングし、「Big Data」を活用して「Personalization」を進め、それを元に「In Store」「Mobile」におけるコミュニケーションの質を上げ、「Consumer Experience」を向上させよう、ということが会場内で語られていた課題解決アプローチです。
ウォルマートの取り組み
世界最大のスーパーマーケットチェーン「ウォルマート」。昨年、株式時価総額がアマゾンに抜かれたことで話題になりましたが、巻き返しのための切り札として期待されているのが「@WalmartLabs」で、彼らのプレゼンテーションを聞くことができました。3000人以上のデータサイエンティストを抱え、データ収集から解析、施策のプロトタイピングまで手掛けます。
巨大なネットワークから集まるデータ量が膨大なため、それを活用できる基盤がなく、ここ4年間のうち2年半はインフラ構築に費やしたそうです。最近になってようやくデータと連携したサービスが生まれて効果を上げ始めたようです。
2つ実例が挙がっていまして、1つ目は「In Store Navigation」。
実店舗を利用する消費者のモチベーションは「すぐに商品を手にすることができる」ことにありますが、巨大なウォルマート店内では商品を見つけることが難しいことも多く、ショッピングアシスタントの稼働率が常時高い状態が続き、消費者のストレスにつながっていました。そこでスマートフォンアプリに店内ナビゲーション機能を付け、目当ての商品が店内のどこにあるか消費者自身で見つけられるようにしました。「5000店舗以上の店内レイアウト情報と商品棚割り情報」を常時更新し、精度を保って運用する体制を構築することは相当大変だったようですが、その結果、顧客満足度が大きく上がったそうです。
2つ目は「eReceipts」。
「レシートから家計簿への手書き転記」「クリスマスや誕生日のプレゼント探し」が苦痛であるという消費者のストレスに注目し、リスト(お買い物・欲しい物)やディスカウントサービスと連動した機能をスマートフォンアプリに実装しました。リストに登録した商品を購入する際に消し込んでいくと、電子レシートとして記録され、ディスカウント該当商品を含んでいれば次回以降に利用できる金額が自動的に付与される仕組みになっています。
ウォルマートはこれまで会員カードを発行していませんでしたので、この「eReceipts」によって、「Personalization」に必要なデータを獲得することができます。また在庫管理にも非常に役立っているとのことでした。一方消費者は煩わしさから解放され、ディスカウントベネフィットも得ることができ、双方にとってメリットのあるサービスとして機能しています。
後編は、屋内測位を中心に書きます。
お問い合せ先:電通 人の流れラボ
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