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島本久美子氏×粟飯原健氏

ソーシャル時代の

「ビジュアルインパクト」

2013/11/19

スマートフォン(スマホ)の年間出荷台数が世界で10億台を超え、SNSを通じた情報の共有や拡散が深化するソーシャルメディアの時代。写真などのビジュアルが持つ情報伝達力や、共感・感動を呼び起こす力はますます重要性を高めている。ビジュアルコンテンツ・サービスのリーディングカンパニー、ゲッティ イメージズ ジャパンの島本久美子社長と、ソーシャルメディアを活用したコミュニケーションを追求する電通iPR局コミュニティマネジメント部の粟飯原健部長が、現代のビジュアルコンテンツの持つ影響力の強さと情報発信の在り方について語り合った。


写真には、一瞬で全てを伝える力がある


粟飯原: 私の部署ではソーシャルメディアを活用したコミュニティーの運用を行っているのですが、共感・感動を呼び起こす写真のクリエーティブ力は大きいと日々感じています。ゲッティ イメージズの長い歴史を振り返ると、社会に大きなインパクトを与えた写真が数多くありました。あらためて伺いたいのですが、写真の持つ力というのを、経験的にどのように感じていますか?

島本: 例えば、ダイアナ元妃がエイズ患者の方と握手したり、エイズに感染した子どもを抱き上げたりした写真などは、エイズに対する理解を深める大きな力になったと思います。ダイアナさん自身も写真の力をよく分かっていて、インドのタージマハルの前で一人ぽつんと座っていたり、自分の写真がメディアでどう使われるかを、よく意識していたのではないかと思います。
それから、戦場カメラマンが撮った写真は、弊社でも数多く提供してきましたが、その写真で、一般の人たちが、世界で起きている紛争問題に関心を持つようになったケースも多いのではないでしょうか。やはり、文字情報だけでは、どこか遠いところで起きているよそ事のようなところがあります。それが身近な問題として意識できるようになるのも、写真の持つ力ですね。

左WireImage。中央、右ともにTim Graham/Getty Images


粟飯原: 言葉でいろいろ説明されるより、1枚の写真が全てを伝えることがありますね。

島本: 東日本大震災のときもそうでした。弊社でも、現地に赴いたカメラマンが撮影した写真を世界に配信しましたが、世界中の人々が「日本では今、こういうことが起きているのか」と1枚1枚の写真に大きな衝撃を受けました。やはり、ビジュアルが持つインパクトというのは、とても大きなものがあります。

粟飯原: ビジュアルコンテンツには動画もありますが、確かに動画には写真にないリアリティーや情報量の多さがあります。しかし、写真には、一瞬を切り取る力がある。その一瞬に、本質の全てが映し出されていたりする。

島本: 一瞬を切り取る力とは、見る側に一瞬で伝える力でもあります。それは、動画にはない特性だと思います。


SNS時代のキーワードは「アンチバニティー」


粟飯原: 最近のソーシャルメディアの浸透は、歴史的に有名な写真も含め膨大なビジュアルコンテンツを提供してきたゲッティ イメージズにとっても、大きなインパクトになっているのではないかと思います。

島本: まず、写真を撮る量が飛躍的に増えてきました。写真撮影が初めて実現した1826年から今まで3.8兆枚の写真が撮られたといわれていますが、実は昨年1年間でその10%が撮られたそうです。カメラ機能を持つスマホの普及とともに簡単にシェアできるようにもなり、弊社のようにライセンスビジネスをしている会社にとっては、それはものすごく大きなインパクトで、時代の勢いを感じています。
弊社のビジネス事例でいえば、プロのフォトグラファーだけではなく、一般の人が撮って写真共有サイトのフリッカーにアップした写真を、自社サイトで「フリッカーコレクション」としてライセンス販売をしています。これが非常によく売れています。コンテンツの持つ「身近さ」が、売れている大きな理由です。SNSの普及で、今は誰もが日常的にスナップ写真を撮って、フェイスブックなどにアップしてシェアできる。見る側は、自分が信頼している人がアップした写真には親近感を持ちます。その親近感が共感を生み、拡散を後押しするわけですね。ビジネスの観点でいえば、購買動機となるわけです。
今、企業・ブランドは、ユーザーや消費者と感情的にいかにつながるかが大きなテーマになっています。広告業界でも、親近感を感じさせる写真が好まれる傾向が強まっていますよね。これは、日本だけでなく、グローバルトレンドといってもいいものです。

粟飯原: 昔の写真を見ると、人物写真は皆ポーズを取っています。それが、当時のカタチだったわけですね。今は撮る側も見る側も、自然でわざとらしくない方を好むようになった。私たちもソーシャルメディアの運用ガイドラインで写真の撮り方などを指南することがあるのですが、その点はかなり意識しています。

島本: 要するに、不自然に作っていないのがいいんですね。弊社でも、日頃からトレンド分析はしていますが、キーワードの一つに「アンチバニティー(anti-vanity)」というのがあります。ちょっとくだけた、完璧ではない、飾らないといったニュアンスですが、そういうアンチバニティー的なものが好まれているのが、今という時代ではないかと思います。
粟飯原さんがおっしゃるように、昔だと、カメラに真正面を向いた写真が好まれたのに対して、今は、どちらかというとカメラに目線を合わせず、さりげなく横を向いていたり、より自然なものが好まれる。モデルを使う写真でも、いかにもモデルという人ではなく、身近にいそうな人をモデルにするケースが増えています。特に海外ではその傾向が強いですね。最近、ゲッティ イメージズの検索キーワードにも「リアルモデル」という新しい言葉を入れたくらいです。普通の人に見えるモデルが好まれるようになってきたのも、身近な、自然に見えるものが好まれる、その流れの一つではないかと思います。


トライ・アンド・エラーで走るコンテンツマーケティング


粟飯原: 著名人の写真でもアンチバニティーを感じさせる写真がありますね。ケネディ大統領が執務室で子どもたちと遊んでいる写真とか、キューバ危機前後の写真など、印象によく残っていますが、そういう写真を撮れるまでには、カメラマンの苦労も大変だと思うのですが。

島本: 専門性を重視する弊社では、ワシントンDCでニュース写真を撮っている4人の社員カメラマンはずっと変わりません。やはり人間関係が大事で、親密な人間関係を築けるようになると、被写体もリラックスするし、プライベートな場所にも入れるようになる。最近では、オバマ大統領が犬と散歩していたり、ハロウィーンで仮装している子どもと戯れる姿を撮らせてもらっています。

粟飯原: それだけ心を許しているわけですね。その一方で、先ほどのダイアナ元妃の話のように、撮られる側も、写真の影響力というものを当然分かっているわけですね。

島本: 政治家も、アンチバニティーの写真を自分たちでフェイスブックに載せたり、選挙キャンペーンで利用したりもする。有権者がそういう写真を好み、効果があることを知っているのです。

粟飯原: その写真がソーシャルメディアを通じ、瞬く間に拡散していく。ソーシャル時代には、"身近な写真"が持つ社会的な影響力はますます高まってきているといえますね。私たちもコンテンツマーケティングを行う上で、この"身近さ"と"ストーリー性"の自然なつながりを意識しながら人々の共感を得られるような提案を行っています。

島本: もう一つ、ソーシャル時代の特徴として挙げられるのは、企業がコンテンツマーケティングをするのに、マスメディアを使わず、自らやっていくケースが増えたことです。特に米国は進んでいますが、SNSを使うことによって、圧倒的に多くの消費者にリーチできる。ある有名企業では、直接リーチできている消費者が従来の3倍にもなったそうです。商品によっては、テレビCMが非常に厳しく規制されている国もあります。そういう中で、テレビ番組を企業自身がオウンドメディアで流したりする。弊社のビジュアルコンテンツが、そのコンテンツマーケティングに利用されることもよくあります。

粟飯原: 米国は、コンテンツマーケティングのトライ・アンド・エラーのスピードも速いですね。デジタルメディアの時代になり、従来のような時間のかけ方ではなく、いろんなコンテンツを試しながら、当たったものをブラッシュアップしていく。米国のデジタルエージェンシーでも、少し前までは企画やプランニングに8割の時間やリソースを費やしていましたが、今は企画やプランニングが2割で、あとの8割はその運用中心です。とにかく高速でPDCAを回しながら効果を上げるという考え方です。コンテンツマーケティングのトライアルがやりやすくなったのも、SNS時代ならではの特徴ですね。

島本: オンライン広告の効果は、CTR(クリック・スルー・レート)を見ればすぐ分かるし、効果が低いものは簡単に差し替えることもできる。まさに、トライ・アンド・エラーです。


長くよく売れるコンセプト・キーワードがある


粟飯原: 先ほどフリッカーコレクションの話が出ましたが、アマチュアでも自分の撮った写真をサイトに登録して、しかも売ってもらえるとなるとプロとアマの垣根がすごく低くなりますよね。そういう時代には、「プロ」としての在り方も問われてくるように思いますが。

島本: おっしゃる通りだと思いますが、やはりアマとプロマには根本的な違いがあります。一般の人は、たまたま良い場面に遭遇して良い写真が撮れたというケースが多いですが、プロは計算して確実に売れるものを撮る。弊社で契約しているプロのフォトグラファーで、世界で最も写真が売れているガンディ・ヴァサンという英国人がいるのですが、彼は過去に売れた作品のデータを緻密に分析して写真を上げてきます。たくさんの金魚が入った小さな金魚鉢から、1匹の金魚が飛び上がって隣の大きな金魚鉢に移ろうとするすごい写真(下)がありますが、アップされるとそれをまねした写真が出てくるほどインパクトのある作品でした。ガンディさんは、2番目に売れているフォトグラファーの2倍のロイヤリティーを受け取っているほどです。


Gandee Vansan

 

粟飯原: それはすごい!

島本: 作品の数々は、もちろん偶然に撮られたものではありません。彼は、長くよく売れるコンセプト・キーワードに当てはまる写真を、着実にものにしているわけです。しかも、そう簡単にはまねできない非常にオリジナリティーの高い写真を数多く撮っています。

粟飯原: ちなみに、よく売れるコンセプト・キーワードというのは?

島本: 例えば、「チームワーク」「発展」「ダイバーシティー」といった言葉ですね。そういうコンセプトのコンテンツは、いつも高い需要があります。

粟飯原: なるほど、私たちも頭に入れておいた方がよさそうですね。


ビジュアルコンテンツでもメタデータがカギを握る


粟飯原: 今は、"ソーシャル"と"ビッグデータ"がキーワードで、電通でも取り組みが活発です。特にビッグデータは社会のメタ化による恩恵ですが写真の世界ではどうですか?

島本: コンセプト・キーワードにも重なる話ですが、ソーシャル時代の特徴的な側面として、メタデータの重要性があります。写真は確かにビジュアルですが、コンテンツを頻繁にネットで検索したり、やりとりする時代になると、そのメタデータが非常に大きな意味を持ちます。どういうビジュアルが人気で効果的なのか、それらが全て分析できるようになります。
そうなると、今まで、こういうテーマのものが売れるとセンスで判断していたものが、客観的にビジュアルを評価できるようになる。より細かいキーワードで分析して、例えばフェイスブックの広告だったら、こういうビジュアルが、こういう年齢層に効果的だと判断できるわけです。
弊社では今、APIで素材を提供していますが、膨大なデータベースに直接検索をかけられるということは、つまりそのメタデータにアクセスできるということです。最近、画像SNS「ピンタレスト」と提携したのですが、その企業が一番興味を持ったのがやはり弊社のメタデータでした。どういうキーワードのコンテンツがどのように流通しているか、それが最大の関心事だったのです。

粟飯原: 私たちのデジタルコミュニケーションの現場では、バナー広告や投稿など、ある程度瞬時に替えられるので、原稿の色やデザインなどの組み合わせを変えて、月に何千種類のクリエーティブから反応が良いものを使うやり方を実践しています。写真素材でも、そういう運用ができるようになるのでしょうね。

島本: 日本ではまだこれからですが、米国では、ソーシャルネットワーク用の広告をユーザー自らが作るサービスが提供されていて、そこで使う写真をゲッティ イメージズのデータベースの中から選ぶサービスも提供されています。そのCTRを見ながら素材を替えたりするわけです。

粟飯原: ニューヨークのオフィスでメタデータ化の作業現場を見せていただいたのですが、すごいですよね。そういうシステムが浸透すると、プロのフォトグラファーも、いやが応でも、マーケティング的な視点を意識するようになりますね。

島本: どの写真がいくらで売れたか、どのように利用されたかといったデータは全てフォトグラファーに行くので、よく売れているフォトグラファーは、その結果と自分の写真について徹底的に分析していますね。先ほど触れたガンディさんも、実はその分析をすごくやっています。


報道写真でスマホのカメラが活躍する時代


粟飯原: 報道写真に限らず、プロカメラマンが現場に赴いて撮影するときはたくさんの機材を抱えて、スポーツの撮影などでは大きな望遠レンズも持って、というイメージがあるのですが、その一方で、アマチュアがスマホでパチリと撮った写真が売られたりもする。素朴な疑問ですが、プロでもスマホを使ったりするのですか?

島本: 例えば戦場であったりとか、時と場合によっては、スマホやミラーレスのコンパクトカメラで撮った方が効果的というケースもあります。日本ではまだほとんどないと思いますが、米国の新聞では、ふさわしいと思えば、スマートフォンで撮った写真が採用されることがあります。弊社でも、前回の大統領選で「スマホで追い掛けた大統領選」というシリーズをやっていました。海外では、そういった写真も普通に受け入れられてきています。


Getty Images

 

粟飯原: コンテンツとして買う側は、何で撮ったかよりも、その写真の中身、効果の方を重要視しているということですね。

島本: その通りです。英国では、国家予算などを発表する際、大臣が歴代伝わる「Red Box」といわれる赤いアタッシェケースを持って現れます。まぁ儀式のようなものですが、プレスもそのシーンを必ずカメラに収める。でも、いつも決まり切ったシーンを撮るのはつまらないと、弊社のカメラマンが前回の予算発表の際にスマホのアプリを使って撮ってみたんです。その写真が意外と面白かった。次の日の英国の新聞はほとんどそれを使っていました。


Getty Images


通信社機能とコミュニケーションビジネス機能の両方を備える


粟飯原: ゲッティ イメージズでは、「イメージネット」というメディア向けデジタル素材配信サービスにも積極的に取り組んできました。

島本: イメージネットはもともと、映画配給会社が、映画のスチールを昔はポジで配っていたのを、インターネットで配信するという目的で作ったシステムでした。映画の素材は高い需要があるので、それが求心力となって、世界中のメディアが登録をしてくれたのです。それを今、スポーツなど特にビジュアルが重要な分野にも広げ、写真だけでなく動画もテレビ局などに提供しています。例えばカンヌ映画祭やベネチア映画祭で日本の作品が賞を取りそうなときに、イメージネットからテレビ局に映像を届けるという形で利用していただいています。

粟飯原: マーケティング用途の素材の提供はどのように?

島本: 報道写真では普通、イベントのスポンサーのロゴが写っている写真は撮影しません。背景にロゴがあったとしても、あえてロゴがぼけるように撮ります。しかし、弊社では企業の依頼を受けて、スポンサー名やロゴにピントが合った写真を撮る場合もあります。それをパブリシティーとして配信したいという企業側のニーズがあるからです。ただ、そういう写真は、スポーツイベントなどでは偶然に撮れるものではありません。サッカーならサッカーで、アクションシーンとして面白く、その上で向こうにロゴがはっきりと写っていないといけない。だから、カメラマンの経験や力量がものを言います。そういった写真を、スポンサーシップのもとにメディアに配信するわけです。
米国の新聞社は、「エディトリアル・インテグリティー」という厳しい掲載基準があって、そういった写真はほとんど使いませんが、世界中のメディアの中には、たとえスポンサー企業のロゴが写っていても、無料でワールドカップの写真を使えるとなれば、欲しいというメディアはたくさんあります。

粟飯原: ということは、ゲッティ イメージズの報道のビジネスにおいて、通信社としての機能と、コミュニケーションビジネスの機能、両方を持っているということですね。

島本: その通りです。さらに、報道と広告用、両方のビジュアルコンテンツ・ビジネスを展開する世界中の企業で、グローバルでこの両輪をしっかりやっているところはあまりありません。ストックフォトサービスは商品を長く置く乾物屋さんのようなもので、一方の通信社としての配信サービスは生もの商売です。この両方の機能のさじ加減がとても難しいんです。現場の社員カメラマンにも、両方を踏まえたセンスが求められます。長らく報道写真を撮ってきたカメラマンが、広告としても利用できるイメージ写真を撮ると、意外と面白いものが撮れたりします。

粟飯原: ゲッティ イメージズのプロカメラマンならではの力量というわけですね。


ビジュアル重視の情報発信力が、これからの日本の大きな課題


粟飯原: 2020年の東京オリンピック開催が決まり、政治、経済、文化とあらゆる分野で日本の情報発信力が問われますね。島本代表は海外での長い経験もお持ちですが、いわば「日本の外側」から見ていて、これからの日本の課題をどのように感じていらっしゃいますか? そして、ゲッティ イメージズとしてできることはなんだとお考えですか?

島本: 私がゲッティ イメージズで英国にいたときは、欧州のメディアを担当していたのですが、痛感していたのは、やはり日本からの情報が向こうのメディアに届いていないということでした。テキストベースの情報はまだ届いていても、ビジュアルコンテンツが本当に少ない。
ゲッティ イメージズでは、毎日、こういうイベントをカバーしますと各メディアにグローバルに情報を発信しますし、メディア側も今度こういうニュースをやるのでそれに合うビジュアルがないかとチェックする。英国の新聞社などは、そういうビジュアルコンテンツ情報にも非常に敏感です。向こうでは日本のように定期購読ではなく、新聞はスタンドなどで買うことが多いので、1面の写真が新聞の売れ行きにも非常に大きく影響するのです。ときには記事本文よりも、効果的なビジュアルがあるかどうかで紙面の構成が決まったりもします。逆に、いいビジュアルがないと、記事の扱いも小さくなってしまいます。それだけ、ビジュアルのインパクトを重視している。
そのビジュアル重視のコンテンツ評価は、これからの日本の情報発信を考えるときに、とても大事なことではないかと思います。ニュース一つをグローバルに発信する際にも、いいビジュアルがあるかどうかで、海外での受け止められ方は全く違ってきますから。

粟飯原: 新聞は、まずその国の読者向けですが、紙面が海外にも伝わることを考えると、やはりビジュアルの持つ力は大きいということですね。

島本: 特に欧米ではビジュアル重視の傾向が強まっているということを理解した上で、グローバルに情報発信していくことが大切だと思います。


ビジュアルを効果的に発信すれば、海外からの観光客ももっと増える


粟飯原: ビジュアルはやはり感性に訴えます。これまでの先入観を変えるのも、その感性を揺さぶる方が、文脈で訴えるよりも効果的な場合がある。マーケティングの観点からも、これはとても重要なことですね。
商品のグローバルコミュニケーションでは、情報を発信する側が、海外でどう情報が受け取られ、どういう形で消費者に浸透していくのかが理解できずに、マーケティング戦略を間違えてしまうことがあります。そういう意味では、ゲッティ イメージズが提供するイメージネットのようなサービスが、感性に訴える情報発信のグローバルインフラになり得るわけですよね。それを全部自前で行うのが大変ならば、イメージネットを活用するのは有効だと思いますね。

島本: 実際にどのメディアが何をダウンロードして、どういうものが人気があったのか、どういうイベントでどのビジュアルの反応が高かったのか、そういった点を解析して学習していくこともできます。

粟飯原: 企業だけでなく、国や公的機関も率先してうまく使ってほしいですね。

島本: ビジュアルコンテンツをうまく利用していけば、海外の観光客をもっともっと誘致できてもよいと思います。今、海外に出回っている素材というと、富士山とか桜とか新幹線とか、相場が決まってしまっている。でも、日本には、面白い素材がまだまだ数え切れないほどあります。例えば、海に囲まれた日本ではサーフィンの大会もたくさんあって、サーファーの格好のいい写真もあるはずなのに、そんな写真はまず海外には出ないですよね。今の日本人が日々の生活の中で楽しんでいるビジュアルを効果的に出せば、観光国としても、日本をもっと海外にアピールできるはずです。

粟飯原: その点は、私たち広告を作る立場の人間も意識して、どういうイメージを相手に与えることができるかをちゃんと計算した上で進めていかないと、世界に伝わらないですね。


海外展開には「ビジュアルガイドライン」の策定が不可欠


島本: 気になるのは、世界のブランドランキングで、日本のブランドが下がってきているということです。特にビジネスの上では、これから日本企業が頑張ろうとしている市場は識字率の低い国・地域です。そういった市場で戦っていくには、やはりビジュアルコミュニケーションが大きなカギを握る。ブランド戦略でも、ビジュアルイメージの統一性や一貫性がとても重要になります。
そういう意味でも、今、企業のトップマネジメントの方々にお願いしたいのは「ビジュアルガイドライン」の導入です。弊社の顧客で既に策定している企業もありますが、一般的にはまだまだ少ないのが現状です。単に色調とか、人がどう写っているかというざっくりしたものではなく、構図の中に曲線一つ入れるのでも、こんなカーブでなくてはならないといった非常に細かい点にまで目を配らなくてはなりません。ビジュアルをパッと見ただけで、「あ、あの会社だ」と連想してもらえるのが理想です。そういったことを意識してゆくと、海外のブランディングにおいては効果的ではないかと思います。

粟飯原: グローバルな広告作業ではグローバルにどこまでコンセプトを統一するか、なかなか難しいところがあります。グローバルとローカルの線引き、ビジュアルガイドラインがありそうで、実は現地任せでルールがないというケースが多いのではないでしょうか。

島本: 私の実感としても、びっくりするほど少ない。ガイドラインをしっかり設けているのは、やはり今、勢いのある会社ですね。本社のマーケティング機能が強い会社は、その統一は徹底的に管理されているし、うまくいっていると思います。ローカルで変えてもいい部分と本社で決めるべきことがしっかりと決められています。

粟飯原: なるほど。本日はとても興味深い話をたくさん伺いました。どうもありがとうございました。

島本: こちらこそ、ありがとうございます。


<対談を終えて>

島本代表とお話しすると気付かされることが多いのですが、今回もそのようになりました。コミュニケーションはありのままを誠実に伝えないと、相手に響かない。その意味でも写真の持つ力に助けてもらうコミュニケーションを今まで以上に意識しなくてはならない世の中になったと思いました。(粟飯原健)