インサイトメモNo.49
スマホユーザーを深く知るためのログ分析(2)
~いつどのアプリが何分使われている?「スマホバイオリズム」
2016/03/24
このコラムは、電通総研メディアイノベーション研究部で実施したスマホアプリのログ分析についてご紹介した、2015年5月12日掲載の「インサイトメモ #44 スマホユーザーを深く知るためのログ分析(1)~なぜ年を重ねた女性ほどゲームアプリをよく利用しているのか~」の続編に当たります。
スマホ上の情報行動は今やアプリ中心に組み立てられており、私たちの日々のコミュニケーションをメーンで構成するものとなっています。そして、スマホアプリにまつわる経済規模も大きく膨らんでおり、ますますこの分野に着目する意義は強くなってきています。
そうしたコミュニケーショントレンドも踏まえ、電通総研メディアイノベーション研究部では、インテージ社が提供するi-SSP Mobileパネルを活用したスマホアプリのログ分析を行いました。そのリサーチ結果の一端を、3つの着眼点から3つのチャートで解説していきます。
(1)起動ピークは昼と夜。よく使われているアプリは?
近年のスマートフォンの普及によって人々が常にコネクテッドな環境に置かれることで、情報行動のフラグメンテーション(断片化)が加速しています。そして、私たちは自分自身に合わせたカスタマイズを行って日々の情報行動を組み立てており、手元で自在に情報のインプット/アウトプットをコントロールできるようになったことで、情報行動の時間単位もどんどん短くなっているようです。
ここからいえるのは、従来のような意識調査やヒアリング調査では詳細なアプリ利用実態に迫ることはできず、そうしたスマホユーザーの行動を把握するためにこそ、ログデータを活用することが欠かせなくなってきているということです。
もはやアプリの利用は分単位ですら把握しきれず、秒単位の解像度で捕捉することが求められる領域となっており、それはログ分析だからこそ得られるデータでもあるのです。
こうした背景も踏まえて、まずスマホユーザーのアプリ利用実態を1日の時間軸に沿って追ってみたいと思います。ここでは、その1日内の行動実態を「スマホバイオリズム」と捉えて、そのアプリ利用の「起伏」をつかむための視点を紹介します。
図表1は、時間帯別にどの分野のアプリが起動されているか、分野ごとに色分けを施して図示したものです。
※分野に含まれるアプリの細かな内訳については文末を参照ください
全体を眺めてみると、1日を通じてよく使われている(太いベルトを維持している)分野は、「ブラウザ/ポータル」「メール」「ソーシャルネットワーク」「インスタントメッセンジャー」「ツール」「ゲーム」などです。
求められているのは、情報の収集、人とのコミュニケーション、時間つぶしのための娯楽、さまざまな便利機能…これも私たちの日々の感覚に照らしてうなずきやすいポイントになっているのではないでしょうか。
次に注目するべきは、人々がアプリをよく起動する時間帯の存在です。
折れ線で表示されているのが「全体の起動率」に当たりますが、それが高い時間帯、つまりチャート内で「山」になっている箇所として、起動率67.0%をマークする12時台、次いで66.1%の18時台、65.6%の20時台に着目することができます。
多くの人にとっての昼休みの時間帯と、学業や仕事が一段落ついた夜の時間帯こそがアプリ起動率のピークポイントになっていることが分かります。
ここからさらに踏み込んで、時間帯ごとに使われやすいアプリがあるのかを検証してみます。先ほど起動率のピークポイントを指摘しましたが、昼と夜の時間帯では使われるアプリに差異はあるのでしょうか。
20時台のスコアを12時台のスコアで割った値を比較してみると、「動画共有」は152.6%、「動画配信」は126.4%、 「ヘルスケア/フィットネス」は134.0%…と高い数値を示します。すなわち、これらのアプリは夜に使われやすいということを示しています。
一方で、「ニュース」は60.3% 、「教育」は24.9%、「ファイナンス/ビジネス」は66.8%となっており、これらのアプリは昼に使われやすいということを意味します。
少々単純化を施しながら両者を踏まえたユーザー像を描き出すならば、昼はニュースアプリを活用して盛んに情報収集を行い、夜になると動画配信や動画共有のアプリで自分の好きな動画を見て楽しむ――といったことになるでしょう。
(2)長時間ゲームを楽しむ中高年女性。各アプリの利用時間は?
次に、図表2をベースに、各分野のアプリが1日あたりどの程度使われているのか、具体的な利用時間を見ていきます。
1点目として、スマホユーザーは、個人全体(15~69歳)では1日あたり約2時間(115分)スマホアプリを利用していることが分かります。
そして利用が盛んな若年層にフォーカスしてみると、男性では20代(136分)、女性では10代(148分)で利用時間が最も多くなっており、この層がスマホ利用をけん引していることが確認されます。
その若年層において利用時間が長いのは、ソーシャルネットワークとインスタントメッセンジャーです。それぞれ「人とつながる」ことを主眼とするアプリですが、両者を比べると、起動回数ではインスタントメッセンジャーの方が多く、1日の利用時間の合計ではソーシャルネットワークのほうが長いという傾向が見えてきます。
また利用時間という視点でいえば、動画共有、インスタントメッセンジャー、ソーシャルネットワーク、音楽、写真/ビデオといった分野が、利用時間トータルの長さを押し上げていることが分かります。
最後に、ゲーム分野でも興味深い点が確認できます。一般的に若い人ほどゲームアプリで遊んでいる印象がありますが、実は女性中高年層の利用時間が顕著に長いことがログ分析によって可視化されるのです。女性中高年層ではスマホトータルの利用時間は短い半面で、ゲーム分野のアプリ利用時間は40代で26.5分、50代で30.1分と、確かに若年層よりも長くなっています。
この傾向は冒頭に紹介した第1回レポートでも確認されていることから、やはり継続的な傾向と考えられます。前回レポートでは起動回数の多さという視点でレポートしましたが、今回のリサーチによって、起動回数だけでなくゲームアプリで遊ぶ時間そのものも長いということが分かりました。
(3)利用時間の分布の山は2つ。「2分まで」と「6~10分まで」
最後に紹介するこのチャートでは、アプリの1回当たりの利用時間が分野ごとにどう異なっているのかを見ていきます。
図表3は、各アプリ分野で1回当たりの利用時間がどのように異なっているのかをビジュアライズしたものです。
1回当たりの起動時間をアプリ分野ごとに比較すると、2分までに集中する分野と6~10分まで分散する分野とに分かれることが見て取れます。利用時間分布のピークを比較すると、写真/ビデオは10~30秒、インスタントメッセンジャーは31秒~1分未満、ソーシャルネットワーク、ブラウザ/ポータル、ニュースは1分~2分未満。
そしてゲームと動画共有は6分~10分未満にピークがあることが分かります。さらに動画配信についていえば、より長めの時間へと分散を示す傾向があるのです。
ここで注目すべきは、1回当たりの起動時間の長短というよりは、短い時間と長い時間にどれだけまたがって分散しているかという度合いではないでしょうか。そこに各アプリ分野の使われ方の特性が垣間見えてきます。
最後に、このチャートのもとになっている集計データまで遡ることで見えてくる二つのインサイトを紹介します。
1つは、世代間で利用時間の分布が似るものとそうでないものに分かれるということ。
使われ方に世代間での類似性がある可能性を指摘できるのは「ソーシャルネットワーク」「インスタントメッセンジャー」「写真/ビデオ」「ブラウザ/ポータル」など。さらに踏み込んで質的な議論をする上では追加の調査が必要となりますが、利用時間の視点からユーザーセグメントの比較考察をすることで得られるインサイトもあるでしょう。
もう1つは、「ゲーム」「ブック/コミック」「動画配信」などコンテンツ消費に関するものは女性ユーザーの方が1回当たりの利用時間が長くなる傾向があるという点です。
ゲームについては図表2でも触れた内容となりますが、これも今後深掘りするに値する視点だと考えられます。
以上、3つの着眼点を3つのチャートから確認してきました。
私たちの実感に沿うような結果も、反対にそれを裏切るような結果も、どちらもが見えてくるように思われます。今回は「スマホバイオリズム」や個々のアプリ分野の利用時間の長さといったキーワードからインサイトを記述してきましたが、そうした個々の発見はもちろんのこと、ログの集積によってこそ見えてくるパターンの抽出を捉える視点も重要であることを最後に強調したいと思います。
人々の行動履歴(ログデータ)を積み上げることで見えてくる「不可視なパターン」への気付きこそが、ターゲットインサイトを考えるべきマーケター/リサーチャーにとって、ユーザーの情報行動を考える上での新しい仮説形成に向けた大きなヒントを与えてくれるのです。