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海外Eコマース最前線リポートNo.1

北京電通に聞く、中国Eコマースの現状

2016/03/29

世界各国でEコマース(EC)市場が勢いを増す中、独自の発展を見せている中国。「EC大国」ともいえる中国の現状はどうなっているのか。また、これからどういった動きが出てくるのか。北京電通 デジタルビジネス部 中国全国統括マネージャーの西田真樹氏に聞いた。

特有のネット文化の中で岐路に立つEC市場

──中国のEC市場は拡大しているのでしょうか。

西田:中国におけるインターネットユーザーは、2015年12月現在で6.88億人を超え、中国全体のネット普及率も50.3%となっています。これらのネットユーザーのうち、ECの利用経験がある人は6割。ユーザーにとってECが身近なものになっていることが分かります。

また、2015年はモバイルやタブレットといった端末によるEC取引が49.2%を占めており、この分野でも急速なマルチスクリーン化が進んでいます。

EC取引額のスケールも非常に大きいものとなっています。中国最大のIT企業であるアリババグループは、ECが事業の中核。グループにおける2014年の物販EC取引額は、世界の中で圧倒的ナンバーワンのEC企業となっているのです。

なお、11月11日は中国で「独身の日」と呼ばれ、消費活性化のため、年に1度、1日限りでECの大販促キャンペーンが行われます。この日だけの取引額を見ても、そのスケールの大きさは顕著。例えば、BtoCにおける中国最大のECモール「天猫」(Tmall)の売り上げは、「独身の日」だけで1.8兆円です。

──日本や諸外国とは違う、“中国独自”の傾向はありますか。

西田:アリババグループは、BtoBの「企業間EC」から、BtoCの「モール型EC」、CtoCの「オーション型EC」まで、各プラットフォームを有しています。先ほど挙げた天猫はアリババが持つBtoCのモール型ECで、CtoCにおいては「淘宝網」(Taobao)というオーション型ECを運営しています。

重要なのは、これらのプラットフォームが占める市場シェアです。天猫と淘宝網の2つを合わせたEC取引総額は、中国全体の実に6割。シェア2位のJDは25.1%、3位のSUNINGは3.4%となっており、他社を大きく引き離しています。このような状況は、中国ECの大きな特徴でしょう。

天猫への出店企業を見ても、メーカーや大手流通企業など、7万件を超えています。売られている商品は、生鮮食料品から自動車まで幅広く、例えば自動車だけでも、2015年で10万台以上の販売実績があるほど。高額商品において、これだけEC取引が盛んな国は稀有ではないでしょうか。

中国、ECユーザーの現状

──中国のユーザーがECサイトを選ぶポイントはどこにあるのでしょうか。

西田:中国では、検索エンジンのシェアナンバーワンである「百度」、ECシェアナンバーワンの「アリババ」、ソーシャルプラットフォームでシェアトップの「テンセント」という3社が、さまざまなネットサービスで争っています。この3社は、それぞれの強みであるサービスを起点として、ネット上にある全てのサービスをグループ傘下で展開。ユーザーを他社のサービスに行かせない“囲い込み”が顕著になっています。

特筆すべきは、この競合関係のために「百度の検索エンジンから天猫のECサイトにリンクできない」「テンセントのソーシャルメディアから天猫のECサイトにリンクできない」といった状況が生まれたこと。ECユーザーからすれば基本的な購買導線が、中国では遮断されるのです。

これにより、中国のECユーザーは天猫に直接アクセスして、欲しい商品を検索したり、天猫の中にある広告にアクセスして商品購入をしたりという手段を取るしかなく、他のECサイトに流れるのは困難。顧客の流動性は低く、ユーザーが自由にECサイトを選びにくい環境といえます。

アップル社を例にすると、その状況がよく分かります。同社は、どの国においても自社のオンラインストアだけで販売し、他のECモールに出店することはありませんでした。しかし、中国だけは天猫に出店しています。その背景には、こういった中国特有のネット環境があるのです。

メーカーが主導権を握る鍵とは

──ECサイトに出店する各メーカーの動向を教えてください。

西田:中国のEC各社は熾烈な顧客争奪戦を繰り広げてきました。その効果で、決済や物流、顧客対応といったEC上の基本サービスは全体的に向上しています。例えば大都市では、朝注文した商品が昼すぎには到着。また、返品や問い合わせといった顧客対応から、顧客ごとにオススメ商品を自動的にピックアップする仕組みまで、きめ細やかなサービスが提供されています。

他方で、サービスが成熟化したため、それを武器にEC各社が差別化するのは難しい状況になりました。結果、近年は顧客を維持・拡大するための過度な“値引き合戦”が続いています。そして、そういった“値引き分”の金額は、EC各社が背負うのではなく、出店者であるメーカーに転稼されるのが現状。メーカーは、商品代を下げざるを得ない状況に陥っているのです。

加えて各ECサイトは、広告出稿や販促キャンペーンの協賛をメーカーに要請。メーカーは、年間を通じて多額の販促費用をEC各社に提供しているのです。彼らはEC側に利益を徴収されていき、その上、顧客情報さえ保有することができません。こういった厳しい状況に置かれています。

とはいえ、各メーカーも手をこまねいているだけではありません。ECにおける販売の主導権を取り戻そうと、メーカー独自のEC戦略を行うところも出てきました。第三者のECモールに頼らない自社ECサイトの開設をするなど、自分たちで顧客基盤を構築する動きが急速に広まっています。

巨大なネット企業が主導する“特殊”な中国EC市場で、メーカーが販売の主導権を取り戻せるのか。今後はそこが焦点となります。メーカーがその希望をかなえるには、多角的なチャネル戦略と、顧客情報を中心としたデータの分析・活用が今後の鍵になるでしょう。