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新しい東北に向けてNo.1


被災地に芽吹く、明日への動き(前編)

2016/04/01

東日本大震災から5年。さまざまな課題に向き合う被災地では、今も復興に向けた取り組みや模索が続いている。被災地では多様な分野で、新たな動きも芽生えてきた。その勢いに弾みをつけ、真の復興を目指すため、今こそ被災地と共に〝未来をつくる”姿勢が求められている。数多く生まれている新たな動きの中から一部を2回に分けて紹介する。

岩手県野田村「荒海団」

無二のホタテはファンの応援で全国へ
ロゴや団旗は地元に浸透

震災で壊滅的な被害を受けた野田村の水産業。生産設備が徐々に整った2014年7月、特産物ホタテの本格的な出荷がついに再開された。それを機に、野田村漁業協同組合、野田漁友会、株式会社のだむら、野田村役場が中心となり、同村の水産物のおいしさや価値を広め、消費につなげていくことを目指す「荒海団プロジェクト」が始動した。荒海団とは、波が荒い同村の海でも厳しい環境に屈することのない地元の漁師たちの姿から命名された。彼らが育てる「岩手野田村荒海ホタテ」は、潮通しがよくプランクトンが豊富な外海で育てられるため、肉厚でうま味が濃いという。

「荒海団」のメンバーたち
「荒海団」のメンバーたち

最近は全国放送のテレビ番組でも取り上げられ、ブランドとしての認知も広がりを見せている。14年4月~15年9月には、キリンもその価値に着目し「復興支援 キリン絆プロジェクト」の一環として支援した。 荒海団は地元にも浸透しつつある。ステッカーを貼ったトラックが街中を走り、村の小・中学校の行事では寄贈された団旗がたなびく。

野田中学校の野球大会ではためく団旗
野田中学校の野球大会ではためく団旗

荒海団の外舘尚紀氏は「熱烈なファンの応援によって荒海ホタテはたくさんの人に知っていただけ、その新たな出会いの喜び、皆さんからの支えや産品への愛着を実感できることは本当にありがたい。ホタテの他にも、カキ、ワカメなど、野田の外海の魅力と可能性は広がっている。荒海団の皆と共に、それを子どもたちにも伝えていきたい」と意気込みを語った。

「ラグビーのまち」岩手県釜石市

ワールドカップで復興に弾み
子どもたちに夢と希望を

釜石市は、1979年から日本選手権を7連覇した新日鉄釜石ラグビー部(現在は釜石シーウェイブスRFCに組織変更)のホームタウンで、「ラグビーのまち」としてその名を全国に知られていた。その同市が昨年3月、ラグビーワールドカップ2019の12会場の一つに選ばれた。誘致に乗り出したのは東日本大震災からわずか数カ月後の2011年の夏。そこにはどのような狙いと思いがあったのか。釜石市ラグビーワールドカップ推進室室長補佐の増田久士氏は「18年には道路や鉄道も整備される計画なので、ワールドカップ誘致という希望を掲げることでみんなが元気になれるのではないかと考えた。市民だけでなく全国から応援をもらい、誘致が実現した」と振り返る。

同市は、現在も生活インフラ復興の最中だ。その中でも、開催に向けた取り組みが展開されている。リオオリンピックに出場予定の女子ラグビー選手をゲストに迎えてのタウンミーティングや、ワールドカップ2015ロンドン大会期間中には市内4会場でパブリックビューイングを実施。イングリッシュボランティア養成講座も継続して行っている。増田氏は「ワールドカップを通して学べるノウハウや新たなネットワークを生かし、19年以降はスタジアムをスポーツだけでなく、イベントや交流の場として全国の人に活用してもらえる施設にしたい。地元の人と一緒につくり上げていきたい」と展望した。

ラグビーワールドカップ2019の会場の一つとなる岩手県「釜石鵜住居復興スタジアム」(仮称)の完成予想図。現在は更地となっている、被災した釜石東中と鵜住居小の跡地に建設される。鵜住居は今後のまちづくりの中心になる地域。津波を語り継ぐとともに、新しい釜石の文化がスタートする場所として期待が寄せられている。
ラグビーワールドカップ2019の会場の一つとなる岩手県「釜石鵜住居復興スタジアム」(仮称)の完成予想図。現在は更地となっている、被災した釜石東中と鵜住居小の跡地に建設される。鵜住居は今後のまちづくりの中心になる地域。津波を語り継ぐとともに、新しい釜石の文化がスタートする場所として期待が寄せられている。
タウンミーティング(2016年2月20日)
タウンミーティング(2016年2月20日)

宮城県産地魚市場協会

9魚市場をブランディング
地域水産物の販路拡大へ

日本有数の水産資源に恵まれた宮城県沿岸では、魚市場が都市部に向けた水産物流通の重要なスタート地点として活力を見せていた。しかし震災後、その販路は大きく縮小、現在も地元水産業は低迷が続いている。昨年、現状を打破し、魚市場の活力を取り戻すため、県内9カ所全ての産地魚市場が連携し、その魅力や個性をブランドとして全国の消費者へ直接発信するプロジェクトが開始された。特筆すべきは、特定の魚種や地名ではなく、「港の魚市場」自体をブランド化していることだ。これまで、認知拡大・販促のイベント開催、水揚げ風景や競りなどの作業風景を撮影したポスター、ビデオコンテンツを制作。現在、民間企業と連携して、県内外の消費者に向け本格発信中だ。 味の素は昨年、食からの東北復興支援を目的とした「食卓からニッポンを元気に『食べるって楽しい!』プロジェクト」の第7弾として事業を支援。さらにこの取り組みは復興庁の2015年度「新しい東北先導モデル事業」にも採択された。

プロジェクトのポスター。港町の中心は魚市場、そこが元気になれば町全体が元気になるはずだ。そんな願いが込めれれている。
プロジェクトのポスター。港町の中心は魚市場、そこが元気になれば町全体が元気になるはずだ。そんな願いが込めれれている。

宮城県産地魚市場協会で事務局担当の武川淳司氏は「産地魚市場の人は仲卸業者が販売先なので、これまで直接消費者へアピールする機会があまりなかった。今回取材するとみんなが魅力を熱く語ってくれた。ポスターやビデオには直接消費者に訴えたかった魚市場の思いが詰まっている。さまざまなイベントやフェア、社員食堂などとも連携して、宮城県の水産物の魅力を広めていきたい」と語った。

「新しい東北」交流会in仙台での展示(2016年2月11日)
「新しい東北」交流会in仙台での展示(2016年2月11日)