Dentsu Design TalkNo.70
考える、ということについて、考えてみよう
―コピーも映画も、脳から生まれる―(後編)
2016/04/02
『ゆれる』『ディア・ドクター』などの話題作を連発し、現在は自らの直木賞候補作『永い言い訳』を撮影中(2016年公開予定)の映画監督の西川美和さん。その映画宣伝のコピーワークをコピーライターの谷山雅計さんが手伝っている縁で、この2人の対談が実現。司会進行を務めるのは、谷山さんとの仕事も多く、西川さんの映画のファンでもあるというワンスカイの福里真一さん。それぞれの分野のトップランナーが、考えるとはどういうことか? どういう脳の動かし方でアイデアが生まれてくるのか? それぞれの制作プロセスをたどりながら語り合った。その後編をお届けする。
西川さん→谷山さんに質問
「アイデアを考える時誰かに見せますか?自分1人で考えますか?」
福里:次は、西川さんから。「まだプランを公にできない段階で、アイデアの選択に悩んだり客観的な判断がつかない時、誰かに見せたり相談したりしますか? すぐに人に意見を聞いてみる方ですか? ギリギリまで自分1人で悩まれますか? もし人に意見を仰ぐなら、それはどんな人ですか」。
谷山:アマチュアの方には見せません。広告の仕事をしていない人というのは、その人ひとりの意見を話すわけですよね。それに比べて広告の本当のプロは何十万人、何百万人の人のものの考え方を背負っています。ですから、できればそういう人の意見を聞きたいわけです。
福里:谷山さんは実際誰かに相談するんですか?
谷山:決まった誰かには相談しないですね。僕の師匠は大貫卓也さんですが、大貫さんに見せたら根本から覆されるに決まっている(笑)。
西川:福里さんは相談なさいますか?
福里:積極的には相談しないですけど、とりあえず思いついたら皆さんに意見を聞きます。広告は世の中の人に受け入れられないといけないものなので、いろんな人の意見が少しずつ入っていく、そのユルさの方が広がりにつながると思って。僕の年齢だと、普通はCDを兼任しますが、僕はあまり兼任したくないタイプです。自分が企画もジャッジもしてしまうと個人の中に凝り固まりすぎるんじゃないかなと思って。
西川:まさにそれで悩んでいて…。本当に凝り固まっていくんです。発案から1年半ぐらいかけて練りに練った初稿となると、周囲も恐々としてなかなか文句を言ってくれない。年齢やキャリアを重ねてくると、ダメ出しをしてもらうのが難しくなってきて、裸の王様になっていく気配をすごく感じます。なんとか率直な意見を言ってくれる友達を探したいと模索してます。
西川さん→谷山さんへ
「若い頃に身につけたことは何ですか?」
福里:続けて、西川さんから。「自分の中でのベストなアイデアとは別のものが選ばれた時、どのように対応されますか? それはすぐに受け入れられますか。あるいは発想の転換方法がありますか」
谷山:自分の中にあまりベストがなくて。クライアントが「この案がすごくいいね」と言ったら、そうかなと思っちゃう。結局のところ、他人に喜んでもらう仕事だから、他人がいいと言ってくれることを信じてやった方がいいんじゃないかと思うんです。受け入れるかどうかよりも、「あ、そうだったのか、教えていただいてありがとうございます」という感じになってしまいますね。
福里:もうひとつ。「コピーライターになった当初と今、作風として何がどう変わったと思われますか? 若いころにできたことと、今しかできないこと、身につけたこと、失ったことなど」
谷山:20代の頃の思考量はすごかったなと思います。1日8時間は必ず寝ていましたが、毎日300本くらいコピーを書いていた。今は、このコトバが世の中に出る前と後で、世の中にどんな変化を起こせるかという計算はできるようになりました。今54歳ですが、いまだに思考量で勝負しています。僕はサッカーで“ファンタジスタ”といわれる、信じられないようなプレーをする人間ではないけれど、90分間ずっと走り回って足が止まらないタイプの選手だと思う。
福里:西川さんは若い時から変わってきたことって、何かありますか?
西川:作風は変わってきたなと思いますね。以前は、今きれいに見えているものの表面を引きはがして壊してみようという思考回路だったと思うんです。今は、壊れたものをもう一度つくっていくってどういうことなのかという方に、ちょっと向かい始めたのかもしれない。続けていくことや育んでいくことはすごく難しいと、自分が身に染みて考えているからかなと思います。
谷山さん→西川さん
「映画のラストシーンはどうやって考えるのですか?」
福里:谷山さんからの質問です。「すごく失礼な言い方かもしれませんが、西川さんはひらめき以上に思考量で勝負しているタイプの方に思い、僕も同じタイプだと勝手にシンパシーを感じているのですが、その見方は正しいでしょうか」
西川:私は全然ひらめかないし集中力もありません。机について自分を追い詰めないと筆が進まないんです。私もファンタジスタでないことは明らかです。
福里:西川さんのクリエーティブの中心には、やはり脚本がある感じですか?
西川:あまり自分にビジュアルの才能を感じたことはないんです。どちらかというと言葉で思考を積み上げていくタイプで、書くことで自分が何をやりたいかが分かってきたり、物語が見えてきたりするので、やっぱり脚本を書くことが自分の仕事の中心にあると思います。
谷山:とはいえ印象的なシーンも多い。福里さんも確か自分のCMで西川さんの映画を…?
福里:ダイハツの第三のエコカーのCMで瑛太さんが地元にアメ車で来るシーンは、『ゆれる』のオダギリジョーさんの帰省のシーンを参考にさせていただきまして。
西川:ああ!いいCMだなって、思ってました(笑)。
谷山:とはいえ僕は『ゆれる』のラストシーンのビジュアルがものすごく好きです。
福里:あれもシーンから発想するのではなくて、設定から生まれたんですか?
西川:木に例えると、葉っぱの先端から思いつくこともあります。『ゆれる』のラストもポンと思いついて、そこに最後行きつくにはどうしたらいいかと、幹と葉っぱの間の枝葉を長い時間かけて埋めるようにつくっていきました。
福里:では、最後に。映画の終わらせ方について。西川さんの作品は、映画のストーリーとして一応の終わりはあっても、どれも人生の続きを強く感じさせるものが多い。広告とは尺の長さがあまりに違って参考にはしにくいのですが、そのあたりの話を。
西川:私が扱うテーマは、最後はみんなが仲直りして幸せになったらハッピー!とシンプルに片付けるわけにはいかないレベルで本編をこじらせてしまっていますし、私自身も「え、ここで終わりなの?」というラストが好きなんです。シドニー・ルメット監督の『十二人の怒れる男』とか『狼たちの午後』のように、人生を丸く収めずに分断されて終わる方が、より生々しく生きられると思っているところがあって、影響されているのかもしれません。
福里:ここで質問は終わりです。谷山さん、もう『永い言い訳』のコピーはできているんでしたっけ?
谷山:まだプレゼンしている最中です。西川さんの映画はコピーを考えるのは難しいんですよ。
西川:そこを何とか、とお願いしまして。谷山さんからは、映画の人間からは絶対に出ないフレーズが出てくるので。
谷山:ホームドラマなのか、ラブストーリーなのか、西川さんの映画を自分なりに3秒に要約してみたりあおってみたり…。短く言うのが難しいんですよね。
福里:一言で言い当てられないから、映画にしているわけですからね。西川さん、今日の感想はいかがでしたか?
西川:映画と広告は同じように映像や言葉をつくっているのに、交流や才能の交換ができていないなと思っていたので、今日は自分とは全然違うアイデアの出し方や思考法を谷山さんと福里さんにお聞きできて、とてもいい時間でした。ありがとうございました。
<了>
こちらアドタイでも対談を読めます!
企画プロデュース:電通イベント&スペース・デザイン局 金原亜紀