loading...

電通報ビジネスにもっとアイデアを。

あなたの会社を変える「専門人材」No.1

オープンな人材活用がイノベーションを実現!

2016/04/06

ビジネスにおける人材活用の変化

クライアントと話をしていると、実に多くの企業が外部人材を登用していると感じます。それは私の担当領域が、デジタルマーケティングの手法や販売データを活用しながら、コミュニケーションを絡めた新しい売り方をつくって販売を最大化させるという、各企業にとっていわば新領域(未知の領域)だからかもしれません。

特に昨今はマーケティングテクノロジーの進化により、旧来型の「メーカーが作った商品を、メディアで告知して、小売り(商店)が販売する」という役割分担を踏み越えた取り組みが必須という認識が一般的になりつつあります。

メーカーを例に考えると、Eコマースサイト上で動画を見せて商品の理解を高めること、オムニチャネル化に対応すること、SNS上の声を商品開発に反映させることなど、旧来の枠組みを超えるチャレンジが加速度的に広がっています。こうしたチャレンジをする際には、外部からEコマース経験者などを採用して自社の事業領域を広げようという動きが活発になります。

この外部人材の活用方法は企業によってさまざまです。外部人材にいきなりチームを任せるケース、責任者は生え抜きで、用心棒的に外部人材を配置するケース、とりあえず外部人材が担当者となり個人レベルで取り組みを始めるケース。各企業のカルチャーや、新領域への取り組みの進捗度合にもよって異なってくるかもしれません。

この動きは私が関わっている販促領域に限った話ではないですし、今に始まったことでもありません。特別なノウハウを持つ人材を招き入れて自社の事業領域拡大に活用することが長く行われてきたことに加えて、最近ではシステム構築、M&A、マーケティング、海外進出など、特に企業が新たなことに取り組む際に、外部人材を活用する裾野が広がってきています。

そしてこの動きは今後も止まらないでしょう。至るところでイノベーションの必要性が叫ばれていますが、チャレンジなくしてイノベーションは生まれません。さまざまな分野で内部人材と外部人材をうまく組み合わせて新しい付加価値を生み出せる企業こそが、真のイノベーションを実現できるのだと思います。

採用活動=専門性の獲得

この連載では、外部人材について「専門人材」という表現を用いて考えていきます。企業が外部から人を採用する大きな理由の一つに、その人が持つ専門性の獲得という側面があります。自社内にはない専門知識・経験など、採用を通じて専門性を自社に取り込むという意味では、彼らは単に外部の人材なのではなく専門人材と捉えるべきだと考えています。

ちなみに、連載を通して「専門性」という言葉の定義についてはあえて深入りしません。また、特定の領域の知識を指す意味はなく、あくまで「自社の知識・人材」の対になる概念として専門性という言葉を使っていきます。

例えばデジタルマーケティング領域で働く人にとっては当たり前の知識でも、これからその領域に手を付ける企業の担当者にとってはそれが専門性の高い知識となり得ます。専門性とは、何か一つの基準(資格試験など)をクリアしたら得られる絶対的なモノではなく、企業と企業、個人と個人といった他者との関係において発揮される力だと考えています。

一方で、獲得した専門性も、それを活用できなければ、何の価値も生み出しません。私は、外資系を含む複数の企業での勤務経験がありますが、特に初動において、外部から採用した人材がうまく機能するためには、大きく言えば3つのポイントがあると考えています。ちなみに「初動において」と記したのは、企業文化に適応するなど、時間が解決できる部分もありますが、時間がかかっては意味がないことも多く、入社後すぐに専門人材を活かすことが重要だからです。

一つ目は、外部から採用した専門人材に対して何を期待しているかを会社が具体的に提示することです。二つ目は、与えられた任務に対して、専門人材が責任を持ってやり遂げる姿勢・コミットメントを示すこと。そして三つ目は、行動規範の明確化です。

最初の二つのポイントは主として評価制度に反映されるべきポイントかもしれません。専門人材が評価を通じて成長するという意味においても、このような制度を整えることは重要です。会社の期待することが、採用される側の専門人材にうまく伝わっておらず、何をすることになるのか具体的にはよく分からないまま、企業のブランドイメージだけで入社を決めてしまうケースも少なくないと思います。そして、当然ながらそのようなケースでは専門人材はすぐには力を発揮できないし、最悪の場合、当初イメージとのギャップを埋めきれずに退職してしまいます。

三つ目の行動規範の明確化は、見落としがちかもしれませんが意外と重要と考えています。外部から採用された人材にとって安心して働きやすい職場環境でないとスムーズなスタートが切れませんが、そのためにも行動規範が明確であるとベターだと言えます。例えばワークライフバランスのとり方も企業によってさまざまなので、求められる働き方がはっきりしていると、会社との距離感を適切に保ちながら安心して働くことができます。

この点をもう少し詳しくお話ししますと、終身雇用を前提としていたかつての日本では会社は家のような存在でした。すると、そこで働く人たちは家族同様ということになります。「家族の常識は社会の非常識」という言葉がありましたが、自社内でしか通用しない常識も存在することにもなります。こうしたものは、私的な行動様式であり、企業のコアバリュー、ミッションや戦略に根差した企業としての公的な行動規範とは別のものです。後者は企業文化ともいえるもので、従業員がそれを正しく理解し行動することが会社の業績向上にもつながるものです。

専門人材とは、自社とは異なる環境で育った人材でもあります。そうした人材に企業の戦略とは無縁な私的な行動様式を押し付けようとすると、どこまでが業務命令で、どこまでが趣味的な主張かわからず、どう働いていいか戸惑ってしまいます。行動規範が明確化されていると、様々なバックグラウンドの人が、自分の働き方を保ちながら安心して働きやすくなります。

この点は、多様な価値観を受容していくという意味で、いわゆるグローバル化を進める意味でも大切なポイントではないでしょうか。

このようなことをふまえ、先に挙げた3つのポイントが明確であれば、専門人材がDay1からその能力を発揮できると思います。

各界のエキスパートからひも解く、人材活用のこれから

以上のような前提のもと、専門人材の育て方、生かし方といった広く一般的な命題について、さまざまな分野の第一線で活躍する方々との対談を通じて掘り下げていきます。以下に、これから話を伺っていく3人を紹介します。

まず、PwCアドバイザリーの岡俊子さん。岡さんは20年以上にわたりM&Aの第一線で活躍し、経済産業省産業構造審議会委員、M&Aフォーラム理事なども務めています。企業の成長戦略の一つとしてM&Aが広まったことに伴って、M&Aプロフェッショナルファームから事業会社へ転職する人が後を絶ちません。このことは他の業界の先行事例として、専門人材の活用に多くの示唆を与えると考え、プロフェッショナルファームとしての社会的役割やクライアント企業との関わり方の変遷などについて話を伺います。

二人目はハーバード・ビジネス・スクール日本リサーチ・センター(HBS JRC)センター長の佐藤信雄さん。佐藤さんは現在、米国ボストンのHBS教授陣と連携して日本企業のケース作成を指揮する一方、日本におけるHBSの広報的な活動(留学生サポート、企業の人材育成サポート含む)をリードしています。また、前職ではエグゼクティブサーチファームのパートナーとして、クライアント企業の人材採用を支援していました。こうした経験を基に、人材育成において教育機関の果たす役割や、企業が専門人材を採用する際に留意すべきことなどについて伺います。

最後は、東京糸井重里事務所 取締役CFO・篠田真貴子さん。篠田さんは、社員を「乗組員」と呼ぶ企業文化を持つ同事務所のCFOとして、人事を含む管理部門全体を統括し同社の高付加価値事業を支えています。最近では昨年監訳した「アライアンス」がビジネス書ランキングの上位になるなど、活躍の場を広げています。現職に就く前は戦略コンサルティングファームや外資系企業を渡り歩いた人物です。その経験も踏まえて日々創意工夫に取り組んでいる篠田さんには、専門性の育成・活用を可能にする企業と個人の関係についての意見を伺います。

3人との対談を通じて、マクロ的視点、ミクロ的視点、そして現在進行形の人材活用の姿を紹介していきます。

専門人材が企業間を渡り歩くことで、企業と企業の連携(役割分担)の在り方も変わっていきます。結果として、専門性を育てる場所と生かす場所が異なることになり、企業の人材戦略も見直しを迫られ、企業と個人の関わり方も変化していくでしょう。

ITの進化が切り開くこれからの時代、より高いレベルでイノベーションを起こす社会の実現のためには、専門人材の適切な育成と活用が必要となるというのが、根底にある課題意識です。


※次回「M&A領域に学ぶ『社会、組織、個人』の関係」は4月13日に掲載予定です。