【続】ろーかる・ぐるぐるNo.181
Whyから始めない~「パーパス」再考~
2023/08/31
今日も多くの企業で「ミッション、ビジョン、バリュー」(いわゆる「MVV」)を策定すべく、多くの時間や労力が費やされています。
「企業経営の礎となる使命・理念・行動指針を明文化し、トップマネジメントから現場まで共通認識を持つことによって、ブレることのない意思決定をしていく」という目的も、もっともらしく響きます。ここ数年はやった「パーパス」も同様です。「組織の(お金もうけではない)存在意義を明確にすることによって、ライバルとの競争を超えたファンづくりにつなげる」といった説明は魅力的です。
しかし現実には、どうでしょう?
社長をはじめ、現場まで巻き込んで会議に会議を重ね、苦労して策定したMVVやパーパスが、残念ながら絵に描いた餅のごとく機能していないケースをたくさん目撃します。それを浸透させるためにコミュニケーション投資を増やしても、結局状況は変わらず、いつの間にか会社概要の片隅を飾ることばに落ち着いてしまったケースも知っています。
もう少し生々しくお話しすると、「おいしいもので、笑顔の食卓を」とか「味噌を、新しく」的なパーパスが出来上がった時点で、策定に携わったメンバー自身から「こんなので良かったんだっけ?」と不安を打ち明けられたことがあります。
「みんなで共有する価値観なのだから、反対意見が出てはいけないことはわかるのだけれど、会議中にはもっと魅力的な議論があったんだけどなぁ……」「やっぱり組織をパーパスでまとめていこうということ自体に無理があるんじゃないかなぁ……」といったモヤモヤが残ってしまうのです。
その目的は良かったはずなのに、どこでボタンを掛け違えてしまったのでしょう?
こうした問題の発端は、「パーパス」や「MVV」を「正しく」設定しようという姿勢自体にあると思われます。そんなことを突然いわれても「???」かもしれませんが、実は、現代のビジネスパーソンは知らず知らずのうちに「組織は情報処理装置であり、正しい指示をすれば正しく動く(だから「正しい指示」が必要なのだ)」という組織観に縛られています。現場もその組織観に縛られていると、「正しい指示」をしないマネジメントが怠慢に見えてしまい、「何か判断に悩むことがあったら基準となる“正解の権化”(聖典)としてのパーパス」が必要だと思ってしまうのです。
これに対して組織を「知識を創造するエコシステム(生態系)」と捉える立場があります。構成するメンバーひとりひとりが、(正しい指示をこなすだけではない)創造の主体であるという見方です。そしてこの組織観からすると、組織を動かすために必要なのは「正しい指示」ではなく「対話」です。そして、疑う余地のないほど正しい“聖典”の類によって現場が「思考停止」してしまうことを何よりも恐れます。言い換えるとパーパスやMVVといったようなマネジメントサイドのことばは、「対話」を促すような「良き問い」になっているかどうかが大切になります。
この「よき問い」ということを考えるときにヒントとなるのが、古典「ビジョナリー・カンパニー 時代を超える生存の原則」の著者、ジム・コリンズが唱える「現実的な理想主義」です。それは「おいしいもので、笑顔の食卓を」といった「ツッコミどころのない(正しい)理想」と違って、時に賛否両論がありながらも、現場が手を動かしたくなる「スキ(ゆらぎ)」があり、だからこそマネジメントとの間に「対話」が誘発される「仮説」のことです。
そしてここからが大切なのですが、「よき問い」は、「最初に、一回」示されれば済むものではありません。それは「組織活動が続く限り、繰り返し繰り返し」発せられるべきものです。そしてそれは、「組織につき、ひとつ」の必要もありません。社会の価値観が変わりゆく中で、あらゆる組織活動ひとつひとつについて、マネジメントから「いま、ここでやるべきことは、それでいいの?」という無数の「問い」がなされるべきなのです。
「対話」ですから、現場の現実を体験するプロセスを通じてマネジメントの理想自体が変質していくこともあるはずです。そして、そういった無数の相互作用(対話)を繰り返すうちに、ようやくひとつの大きな「パーパス」に行きつくこともあるでしょう。
それを明文化して共有するのは素晴らしいことですが、やはりそうして生まれた「パーパス」ですらも、真理の聖典として固定するのではなく、組織メンバーひとりひとりの創造性を揺るがす「問い」として運用する必要があります。
サイモン・シネック(※)の「Why(なぜそれをするのか)」から始めるアプローチはとても有効な「コミュニケーション手段」ですが、それと「お客様の気持ちを動かす商品・サービスのつくり方」は別物だということです。
※サイモン・シネック =
アメリカのコンサルタント。優れたリーダーが他者に行動を促す上でのコミュニケーション手段として、「Why⇒How⇒What」の順に思いを伝えることで共感を得やすくする「ゴールデンサークル理論」を提唱した。
このコラムではすでにお話ししましたが、トップの「問う力」、現場の「つくる力」、そしてミドルの「選ぶ力」の“ゴールデン・スパイラル”こそが、組織を自律的に動かす原動力となるのです。
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さて。
「なぜ、妻のふるさと高松にちょくちょく行くのか?」と問われれば、「うどん→テニス→瀬戸内の白身魚と地酒の無限ループで、のんびりしたいから」。
ところが先日。友人に連れられて行った、街中に隠れ家のようにあったモロッコ料理屋さんが旨いのなんの。
多彩な前菜から、クスクス、かの有名なタジン鍋のマトンなどなど、まったく予想もしていなかった出合いを満喫しました。リピート確定。やっぱり何事もチャレンジ、新しい体験が大切なようです。
どうぞ、召し上がれ!