loading...

電通報ビジネスにもっとアイデアを。

【続】ろーかる・ぐるぐるNo.180

「コンセプトの教科書」を読んで

2023/07/27

仕事仲間や学生から評判を聞いて、細田高広さんのご著書「コンセプトの教科書 あたらしい価値のつくりかた」を読みました。

「様々なビジネスシーンで汎用的に使えるような学びの体系は見当たりません。1冊でコンセプトの基本を身につけられる教科書はないものか。誰より必死に探してきたのは、ほかならぬ私自身でした」という巻頭のご指摘は、「アイデアの教科書」と「コンセプトのつくり方」という著作を世に送り出したぼくの立場からすると厳しいものでしたが、なるほど、これは話題になるのもわかる内容でした。

続ろーかるぐるぐる#180_コンセプトの教科書書影

同書の最大の特徴は、すぐに実践で試せる指南書だという点です。スターバックスのような有名なもの(サードプレイス)から初めて目にする事例まで、豊富なエピソードとともに、すぐれたコンセプトを生み出すための具体的な方法が丁寧に説明されています。

たとえば、コンセプトを「1行化(キーフレーズ化)」する手法としては、
「通過する駅から、集う駅へ」(JR東日本エキュート事業)のような「変革話法」、
「衣替えがいらない服」(研修の事例)のような「不の解消法」、
「空飛ぶバス」(サウスウェスト航空)のような「メタファー法」、
その他にも「反転法」「矛盾法」など、計10種類もの基本構文が紹介されています。

コンセプトづくりに悩む実務家は、これをひとつひとつ試すことで思考が刺激され、前に進むことができるのです。

もうひとつ、この本に共感したのは、コンセプトづくりのフェーズを、たとえば「①インサイト→②課題抽出→③発見→④言語化」のようなステップで整理していないことです。その代わりに「どこから考え始めても構いません」という「6つの空欄」をピラミッド状に並べたフレームワークを示しているのみでした。

実務家にとっては、そのまま作業計画に転用できる段階論があれば便利なのでしょうが、そもそもコンセプトづくりとは「いま、ここ」の真剣勝負の繰り返し。「2週間で完成させよう」といった時間管理ができないところに、その真髄があります。(詳しくは過去記事を参照)この本には、安直なハウツーではなく、本質に挑まんとする覚悟が感じられます。

続ろーかるぐるぐる#180_プロジェクトロゴ

ところで、イノベーションが進まない組織を変革するためのサービス「Indwelling Creators」においても、コンセプト創造は極めて重要なパートを占めています。そしてその際、ぼくたちはコンセプトを「育てるもの」と考えています。それは、まだ見ぬ未来の解像度を上げるダイナミック(動的)なプロセスの道しるべです。

その運用においては、「空飛ぶバス」のような、この本の分類でいえば「メタファー法」タイプのコンセプトを重視します。この世の中にまだ存在しない現実は、メタファーのようなたとえ話で初めて表現できるものだからです。そして、それによって

①覆すべき古い常識(ふつうの航空機サービス)
②まだ見ぬ未来に向けて仲間と直観的に共有する方向性(「バスみたいなサービスで良いんだよ!」)
③顧客創造によって見える数字(その事業計画によって売れる、勝てる、もうかる理由)

が内包されることを目指します。

続ろーかるぐるぐる#180_サーチライト図

一方、「通過する駅から、集う駅へ」(JR東日本エキュート事業)のような「変革話法」には、(この事例が実際のビジネスでは十分に効果的だったことを理解しつつ)一定の注意を払います。というのも、それは時として①覆すべき古い常識(通過する駅)は明確なものの、実際にどうするか(②まだ見ぬ「集う駅」という未来が指し示す、単なる「駅ビル」を超えた方向性や③その顧客創造によって見えてくる数字)が稀薄なことがあるからです。

「衣替えがいらない服」のような「不の解消法」も同様です。それはまだ「Not古いサーチライト」でしかなく、それによって実現したい独自の方向性が曖昧な可能性があります。もちろんそれだけで機能することもあるのでしょうが、「変革話法」や「不の解消法」等の場合は、それをいったん仮置きした後も、しつこく、しつこく②仲間と新しい方向性を共有でき、③事業計画に表せる数字が見えて来る「ひとこと」(≒メタファー)を求めてブラッシュアップをし続けるようにしています。

その理由はシンプルで、コンセプトとは「それを書き込めば終わり」の企画書を飾る美辞麗句などではなく、使ってこそのものだから。それはヒトとモノ・コトをめぐる永遠の対話の一部であり、著者である細田さんの言葉を借りるなら「誰のために何を創造するか」というビジネスの本質的課題にこたえなければならないものだからです。そしてそれは商品・事業企画の社内提案にとどまらず、事業計画となって実践を生み、厳しい現実にさらされる「戦略」そのものでなければならないのです。

ともあれ、これだけ多くの人々が「コンセプト」を日常使いしているにもかかわらず、その本質が議論される機会が少ないことは、考えてみると不思議でなりません。「コンセプトの教科書 あたらしい価値のつくりかた」は、そんなぼくたちにきっかけを与えてくれる、オススメの一冊なのでした。

続ろーかるぐるぐる#180_写真

いやはや。

まだまだ続く、暑い日々。こんな熱い本を読むと、のども渇きます。そんな時はちょっぴり房総まで遠出して、割烹(かっぽう)のビールで一杯。そして酢〆した鰺の磯巻きを肴(さかな)に、地酒「腰古井」の冷酒を「ぐびりっ」。嗚呼、生き返る!

ここは、みんなには秘密の、ぼくの「サードプレイス」なのでした。

どうぞ、召し上がれ!

続ろーかるぐるぐる#180_コンセプトのつくり方書影

Twitter