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【続】ろーかる・ぐるぐるNo.178

データドリブンvsアイデアドリブン

2023/05/25

さて。

データの分析結果をもとに意思決定を行うプロセス「データドリブン」。それに対し「いやいや、それでは新しい可能性が見えてこないでしょ?」という問題意識から主張される「アイデアドリブン」。皆さんは、どちらが有効だと思いますか?

組織内で責任がある立場であればあるほど、選ぶのは「データドリブン」となるでしょう。そりゃ、そうです。アイデアなんてあやふやなものと心中するくらいなら、失敗する確率が低そうな「正しい道」を選ぶのも当然です。

実際、多くのビジネスの現場でも、データによる「客観主義」は、アイデアのような「主観主義」よりも上位に位置づけられます。新しい可能性を切り開くアイデアを否定はしないけれど、それはあくまでPDCAのような論理で管理される中の一要素として扱われるのです。

現代社会においては実質「データドリブン」、つまり「客観中心のビジネスプロセス」一択なわけですが、果たしてそれでいいのかを考えてみるのが今回のテーマです。

もし、今の延長線上で工夫をすれば何とかなりそうな場合は、客観的な分析を正しく重ねていくだけで十分でしょう。しかし、今の延長線上では十分な成長が得られそうにないとき、常識を覆す「その手があったか!」な視点は、本当に「リサーチ→課題抽出→創造(Ideate)→実行→評価→改善」といったような「正しく」整理されたステップから生まれ得るのでしょうか?

例えば、スターバックスの「サードプレイス」というアイデア(創造・Ideate)は、「街中に居場所のない人々」という「課題抽出」と同時に発見されたはずです。(「街中に居場所のない人々」という一風変わった課題が確定してから、さてどうやって解決しようと考え、「サードプレイス」に至ったと考えるのは無理があるでしょう)

そもそも「アイデアづくり」という主観的なプロセスを、客観的に管理することなどできるのでしょうか? そこで「客観中心のビジネスプロセス」に代わるものとしてご提案したいのが、「客観と主観がフィフティ、フィフティ:まったく平等に扱われる人間中心のビジネスプロセス」です。

続ろーかるぐるぐる#178_図版01
そのプロセスで、常に出発点となるのは「体験」です。以前にもお話ししたように、今までの常識に縛られた客観からは、常識を破る新しい視点は生まれません。それは常に個人の「体験」を通じた「あれ?なんか変だぞ……」という一人称の主観からスタートします。

その主観が誰にでも理解される三人称の客観になるためには、必ず主観対主観の対話を通じて二人称(自分以外の誰か)の「なるほど、そういうことか!」という共感を経なければなりません。そしてその時、「なるほど、そういうことか!」という共感の中身を言語化したものが「コンセプト(アイデア)」になるのです。

この主観対主観の「対話」は、常に「今、ここ」の真剣勝負です。お互いが相手の感覚を自分の感覚のように腹落ちするためには、課題設定も、解決にまつわる創造も、前提となるリサーチも、時にはプロトタイプも、必要に応じていろいろなステージを(事前の段取りなど関係なく)行ったり来たりします。

当然のことながら「課題抽出のステージは3週間で終わらせましょう」なんてことはできません。プロジェクトを効率的に進めることこそがマネジメントだと信じている人の目には「無駄」に見えるかもしれませんが、その一見無駄なプロセスがあるからこそ、常識を覆す視点が手に入るのです。

ご存じの方もいるかもしれませんが、中国には、目、耳、口、鼻の七つの穴を持たなかった中央の帝「渾沌(こんとん)」に、南海の帝と北海の帝が自分たちと同じ七つの穴を与えようと、善意から一日に一つずつ穴を開けていった結果、七日目に息絶えたという故事があります。すべてを客観の秩序でコントロールすること自体に、無理があるのです。

さて。こうして「主観による対話の世界」で生まれた「コンセプト」が、次の「客観による分析の世界」の出発点となります。ビジネスにおけるコンセプトは本来、企画書を飾る美辞麗句などではなく、事業計画の中核をなす戦略そのものです。さまざまなデータから論理的に、徹底的に「売れるか?勝てるか?もうかるか?」が検証されることになります。

この段階で求められるのは、まさに皆さまおなじみのビジネスプロセスです。いつまでに、誰が、どこで、何を、どうやってやるのかが明らかな、分業の世界でもあります。ヘンリー・フォード氏の「もし顧客に彼らの望むものを聞いたら、彼らは『もっと速い馬が欲しい』と答えただろう」という言葉から分かるように、コンセプト(アイデア)を単純に消費者調査に掛けるようなことはできませんが、それに厳しい検証を加えて計画に落とし込み、「Plan(計画)→Do(実行)→Check(評価)→Action(改善)」といった段階を踏んでいくのです。

こうして事業がスタートすると、そこにまた「体験」が生まれ、「主観による対話の世界」がスタートします。こういった「体験」と「コンセプト」を接点として主観と客観の世界を行ったり来たりする人間中心のビジネスプロセスで初めて、イノベーションは起こります。

言い換えますと、冒頭の「データドリブンとアイデアドリブン。皆さんは、どちらが有効だと思いますか?」という問題提起自体がナンセンスなのです。ちょっとズルいですが、どちらも大事、同じく大切。客観で主観をコントロールする必要もなく、だからといってアイデアが数的検証を拒絶する道理もありません。

今、ビジネスの世界は「客観主義」一択です。そこで主役を張っているのは「ビジネスにおける正解」という幻想です。イノベーションのためには一日も早くその呪縛を解き、「人間」を中心にしたビジネスプロセスを実践しませんか、というご提案でした。

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抽象的なお話で、分かりづらいかもしれません。さらなるご説明が必要な方は、お気軽にIndwelling Creatorsの事務局までお問い合わせください。

【「Indwelling Creators」に関するお問い合わせはこちら】
opeq78@dentsu.co.jp 担当:山田

 

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何事も、まずは「体験」から始まるということで昨年末、「自家製味噌づくり」に挑戦しました。

北海道産大粒大豆の「鶴娘」、高知の薪釜で炊いた天然塩、米こうじに大麦こうじと、原材料だけでずいぶんな予算になってしまいましたが、さてさて。ようやく4カ月が過ぎたので恐る恐る甕(かめ)を開けてみると…味噌だ!

当たり前かもしれませんが、かわいい、かわいい味噌が出来ていました。みそ汁にするのももったいなく、そのままなめると、うまい!ほんの少しだけ味わって、あとは長期熟成へ。2年、3年、いやいや目指せ10年。夢は広がるばかりです。

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どうぞ、召し上がれ!

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