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【続】ろーかる・ぐるぐるNo.179

先端技術に「意味」はない

2023/06/29

このコラムにも何回か登場していただいている、わが中学・高校の同級生吉原真里(過去の記事はこちら:第105回第171回)さんの著書「親愛なるレニー レナード・バーンスタインと戦後日本の物語」(アルテスパブリッシング)がミュージック・ペンクラブ音楽賞、日本エッセイスト・クラブ賞と河合隼雄物語賞に選ばれました。

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世界的な指揮者であり、ミュージカル「ウェスト・サイド・ストーリー」の作曲家でもあるレナード・バーンスタイン。この著名な音楽家にまつわる膨大な資料を「愛」という視点で解き明かし、日米の文化政策や音楽ビジネスといったマクロなストーリーと、手紙を通じた個人の交流というミクロのエピソードが織りなす壮大なドラマを浮かび上がらせたノンフィクション。400ページを超える大作を一気に読ませる、その筆力も圧巻です。

心の底から感心しましたし、楽しく読み進めたのですが、本当に本当のところを申しますと、その感想は一言、「わからない」。

理由はいくつか考えられます。ひとつにぼくが音楽に疎く、バーンスタインをよく知らないから。昔々、キリ・テ・カナワ&ホセ・カレーラス版ウェスト・サイド・ストーリーのCDを買ったことはありますが、それ以上でも以下でもありません。

もうひとつは、ぼくが他人様の愛情表現を直視できないタイプだということ。フィクションのラブシーンですら苦手なので、ノンフィクションだと生々しさは一層です。吉原さんは一連の手紙を図書館で発見したときに文面が発する愛の熱量に圧倒され、思わずその世界に引き込まれたそうですが、どうもそんなふうに感情が動かないのです。

そして多分、最も大きなファクターは、この本で描かれる「一対一の独占的な関係を求めない『愛』」というものがピンと来ないのでした。そこにはバーンスタインの振る舞いに嫉妬して怒り出す恋人の姿も描かれていますが、その心情の方がよっぽど共感できるのです。

嫉妬を超越した「一対一の独占的な関係を求めない『愛』」という、このドラマを支える主要な「愛」それ自体がどうにもこうにも「わからない」。もちろん心に残るものはありますが、それをどう消化したらいいか「わからない」し、何が「わからない」かすら、「わからない」。

しかし、まぁそれで良いのかもしれません。歴史学者の阿部謹也先生によれば「わかる」とは「それによって自分が変わるということ」だそうです。年表にある史実を知っただけでは「わかる」ことにはならず、そういった事柄に対してヒトの内奥(ないおう)が呼応し、「意味」を見いだして初めて「わかる」ことになるのでしょう。今回のモヤモヤした読書経験も、きっといつか何かが「わかる」材料になるんじゃないかと楽しみにすることにしました。

続ろーかるぐるぐる#179_プロジェクトロゴ

さて。

ぼくたちがご提供しているIndwelling Creatorsというサービスは、この「わかる」ための旅路をご一緒する点に大きな特徴があります。AIや培養肉といった先端技術も、トマトジュースや歯ブラシのような日用品も、ヒトとの関係を持たなければ「意味」を持ちません。

それをヒトが解釈し、判断して初めて「意味」を持つのです。それは客観的な分析を重ねるだけではたどり着けない、ヒトの価値観が関わる主観的な行為です。しかもそこで見いだした(ヒトと事柄の)新しい「つながり」を的確に言語化しなければならない、とても高度な取り組みです。

意外に思われるかもしれませんが、多くの企業・組織は自分たちが提供する商品・サービスを「知っている」けれど、「わかっていない」のです。たとえば、スターバックスは「サードプレイス」という「つながり」で世界を席巻しています。しかし考えてみると、日本の喫茶店は昔から新聞を読み、おしゃべりを楽しみ、タバコを吸い、時には昼寝をする「サードプレイス」でした。

なぜその日本の喫茶店が海外に出ることもなく、苦戦しているかといえば、それは自分たちのやっていることを、実は「わかっていなかった」から。コーヒーを売りながら、そこに自由気ままに過ごすお客様がいることを知ってはいたけれど、その「意味」することを考えてもみなかったからだと思います。

そうなんです。「わかる」ことは、実に難しい。だからこそ、経験豊かなクリエイターが「わからない」ことだらけの旅路を共にして、仮説を磨いていくのです。

ヒトと事柄の新しい「つながり」は、言い換えると「コンセプト」です。Indwelling Creatorsは新しい「意味」を創造することで、持続的なイノベーションをお手伝いします。

【「Indwelling Creators」に関するお問い合わせはこちら】
opeq78@dentsu.co.jp 担当:山田

 

続ろーかるぐるぐる#179_酒瓶

さてさて。

いつもはハワイにいる吉原さんが授賞式や講演で東京に来るというので、拙宅に中学・高校時代の仲間が集まりました。受賞のお祝いをしながら、みんなで「親愛なるレニー レナード・バーンスタインと戦後日本の物語」について論じるイメージだったのですが、会話はすぐにいつもの駄話へ。

当時感じていた学校への不満や、その頃誰がカッコよくて誰が美しかったか等々、ゲラゲラ、ゲラゲラ、最高に楽しかったけれど、まったく記憶に残らないお話のオンパレード。それでも、友人のありがたさだけはよくわかる、そんな夜でした。

続ろーかるぐるぐる#179_マッシュポテト
本の栞に合わせてつくったピンクのマッシュポテト。

どうぞ、召し上がれ!

続ろーかるぐるぐる#179_書影②

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