【続】ろーかる・ぐるぐるNo.105
それでホントに地方は活性化しますか?
2017/04/06
アメリカ文化史の研究家、吉原真里さんは中学、高校の同級生。といっても彼女はその後、東京大学を卒業して、ブラウン大学で修士・博士を、さらにハワイ大学でテニュア(終身雇用資格)を取得した方なので、根本的な出来が違うのですが。
著作も多く『アメリカの大学院で成功する方法』や『ヴァン・クライバーン国際ピアノ・コンクール 市民が育む芸術イヴェント』は難解な現実世界をとても分かりやすく解き明かしています。一方、『性愛英語の基礎知識』とか彼女自身のオンライン・デーティング(ネットお見合い?)経験を記した『ドット・コム・ラヴァーズ ネットで出会うアメリカの女と男』なんていう本は、どうにも生々しく、恥ずかしくて読んでいません。同級生で集まって酒を飲んでいると、「なんで読めないの?」「自意識過剰?」「山田くん、真里のこと好きなの?」などとからかわれるのですが、手に取りづらいこの感覚。うまく言葉にできないのです。まだまだ修業が足りませんね。
ところでハワイ大の吉原教授のもとには、よく日本から学生が短期プログラムで訪れるそうで。そのたびに彼女が口にするのは「日本の大学生は総じて『批判的思考』の訓練が足りない」という指摘。発表をさせても当たり障りのない事実を羅列するだけ、教科書的な建前を繰り返すだけ。
そんなことを言われると愛国心がムクムク、反論したくもなるのですが、ちょっと待てよ。ぼくらは日々の生活で、十分な批判的思考ができているのかどうか。
たとえば、農業や水産業などの第1次産業が食品加工(第2次産業)や流通販売(3次産業)にも取り組む(1×2×3の)、いわゆる「6次産業化は喫緊の課題だ」というのは本当でしょうか?
もちろん利益率の確保という観点から意義はありますし、素晴らしい成功事例も知っています。でも新鮮だけど特徴もない野菜や肉類を片手に「今年度中に『6次産業化』の補助金を消化しなければならないのですが、どうしましょう?」と頭を抱えている現場を見ると悲しくなります。
たとえば、「地方創生にはバイラルムービーだ」も一緒。個人的には宮崎県小林市の移住促進を目指したムービーが大好きですし、他にも効果があったであろう施策も知っています。しかし「なんとなく前例があるから」という理由だけで目的も曖昧なまま、予算が計上されているケースもあるようです。地方の活性化というテーマひとつとっても、批判的思考が十分でないために、いつのまにか手段と目的が逆転して、せっかくの努力が十分な効果を生んでないケースが多々あります。
ぼくは中学時代、民俗文化研究同好会、通称「みんけん」という部活をしていました。近所の民家を回って昔話を聞いて集めるという、われながら地味な青春です。ただこの「みんけん」、ぼくが入部した時は民族文化研究同好会で、当時流行っていたシルクロードの少数民族について調べる団体でした。学園祭でも「キルギス族は…」「パオという居住形態は…」など「研究成果」を得意になって発表していたのですが、それをご覧になったある先生がひと言、「なんだ、ただ資料を書き写しただけじゃないか」。それがショックで、悲しくて。それをきっかけに扱うテーマを「民族」から「民俗」に変えたのでした。きっとその時、先生がおっしゃりたかったのは「自分で考えることの大切さ」。ひとの話をうのみにするのではなく、ツッコミを入れられるような態度の重要性なのだろうと、いまになって感じています。
さて、今年も明治学院で講義する季節になりました。毎年、イノベーションやクリエーティビティーについて話し合うのですが、今年は特にそのベースとなる「批判的思考」について厚めに準備しました。いつかその学生たちが吉原教授に会うことになった時、「おっ!」と思わせるためにも。
どうぞ、召し上がれ!