【続】ろーかる・ぐるぐるNo.104
「コク」のある企画
2017/03/23
ときどき無性に香港へ行きたくなります。おかゆと一緒に食べる「爽魚皮(魚の皮)」とか、カップヌードルカレー味を最高に美味しく仕上げたような「咖哩牛筋腩伊麺(牛バラ肉カレーそば)」とかいろいろ浮かびますが、やっぱり本命は広東料理。ひと口にそう呼んでも、実は「広州」「客家」「潮州」「順徳」の4種類に大別できます。中でもぼくが好きなのは海鮮も豊かな潮州料理。かつて東洋の魔窟(まくつ)」と呼ばれた九龍城跡地の近所に思い出のレストランがあります。そこは店内に小さな屋台があって、食材を指さすだけで望みのメニューが食べられるのです。14年前、初めて訪ねたとき注文した「金華紹菜(白菜の蒸しもの)」が旨かったのなんの。まさに「コク」深い味わいでした。
ところで、この「コク」という感覚。いざそれを正確に説明しようとするとなかなか難しいものです。龍谷大学の伏木亨先生はそれを「単一の味覚ではなく、複合的に絡み合った総合的な感覚」と説明しています。たとえば砂糖よりみりんにコクを感じるのは、前者がほぼショ糖のみでできているのに対し、後者はブドウ糖、マルトース、トレハロースなど多種類で構成されているから。その結果、分厚い甘みが感じられるのだそうです。
確かに、あの「金華紹菜」は白菜、中華ハム、シイタケ、干し海老などの旨みが複雑で、重層的でした。それで「コクがある」と感じたのでしょう。
閑話休題。広告や商品を開発する場合、「コンセプトって、ひとつだけなんですよね?」と質問されることがあります。少し説明がややこしいのですが、この問いに対する答えは「YES」であり「NO」です。
少し考えてみれば当たり前のことですが、最終的な具体策はいくつものコンセプトを内包しています。たとえばスターバックスの「コンセプト」は何でしょう? 大学で単純に記憶を問うだけのテストなら「サードプレイス」(家庭、職場に続く第三の居場所)と答えればマルをもらえるのでしょうが、これは正確ではありません。実際、スターバックスは「コーヒーショップ」「チェーンストア」「シアトルスタイル」といった数多くの概念(コンセプト)の範疇にあります。その意味では「サードプレイス」だけがスターバックスのコンセプトということにはなりません。
経営学の本には、主観的なアイデアが複数結び付いてコンセプトとなり、複数のコンセプトが結び付いてモデルが出来上がる、という説明があります。ひとつの商品・サービスの背景には必ず複数のコンセプトがあるのです。
一方、スターバックスをスターバックスたらしめているのは「サードプレイス」です。そのサーチライトに基づいて「コーヒーショップ」という概念も再編集され、たとえば座り心地の悪いスツールはソファになりました。「チェーンストア」も再編集され、利益のためには当然の打ち手であるフランチャイズ方式が採用されていません。複数のコンセプトが並列に結びつくのではなく、カギとなる「サードプレイス」によってすべてが見直されています。そこには主従関係があります。広告にせよ、商品開発にせよ、「常識を覆すための中心となる視点はひとつだけなんですか?」という質問なら、答えは「YES」でしょう。