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【続】ろーかる・ぐるぐるNo.177

“棲み込みクリエイター”が実現した、思考風土改革とは

2023/04/20

続ろーかる・ぐるぐる#177_プロジェクトロゴ

ここ数回、電通のクリエイターがクライアントに棲み込み、イノベーションに向けて組織を創造的に動かしていくサービス「Indwelling(インドウェリング) Creators」についてご説明してきました。「…抽象的な議論はわかったからさ、もうちょっと具体的に教えてよ」というご感想もいただいておりますので、本日はひとつ、事例をご紹介しましょう。

【「Indwelling Creators」に関するお問い合わせはこちら】
opeq78@dentsu.co.jp 担当:山田
 
続ろーかる・ぐるぐる#177_「FUJIMI」キービジュアル画像

それは電通のアートディレクター八木彩さんによる化粧品ブランド「FUJIMI」の取り組み。すでにウェブ電通報内でも記事になっていますのでご存じの方もいらっしゃると思いますが、その内容を改めてIndwelling Creators視点で整理していきます。

続ろーかる・ぐるぐる#177_図版01

前回お話しした通り、Indwelling Creatorsは「トップの問う力」「現場のつくる力」「ミドルの選ぶ力」という「3つのスイッチ」を刺激することで、組織内の「創造的対話」を促していきます。実際にプロジェクトを進める場合、どのスイッチからスタートしても良いのですが、今回、FUJIMIにおいて組織を動かす基点となったのは「選ぶ力」でした。

そもそもFUJIMIは2018年に創業したスタートアップ「トリコ」のブランドで、2021年にはポーラ・オルビスホールディングスにグループ入りするなど、順調に成長してきました。一方その内情は、意思決定の多くが花房香那社長ひとりに集中している状態。パッケージやバナー広告のデザインや新商品のラインアップはもちろん、細かい点に至るまで、社長が指示し判断している状況でした。

「このままでは成長スピードに組織がついていけない」「組織メンバー全員がブランドを理解して、自分で判断できるようになる『インナー・ブランディング』が必要だ」という問題意識から、八木彩さんに声が掛かりました。

八木さんはFUJIMIに組織メンバーのひとりとして棲み込み、経営陣ともしっかり話合いを重ねながらいろいろな取り組みをしたそうですが、その中核となったのは「パーソナライズビューティケアの総合ブランド」という「コンセプト」を選び、確定したことでした。これはそれまで漠然としか示されていなかった方向性であり、その時点ではまだ競合も含めた誰も獲得できていないポジションでした。それを明確に言語化することによって、ふつうの化粧品会社とは違うFUJIMIならではの「やるべきこと」を照らし出す、“サーチライト”を機能させたのです。

たとえばFUJIMIの商品開発では、主力であるプロテインの話題化のため、ストロベリー味やダブルカカオ味などのフレーバー展開に力を入れていました。しかし、「パーソナライズビューティケアの総合ブランド」になるというコンセプトが設定されてからは、スキンケアやメンタルケアなど他のカテゴリーの商品を増やすべきでは?という意見も出るようになりました。

さらに、八木さんがスキンケアの商品開発会議に参加していた日のこと。現場から「パーソナライズといっても、季節によってコンディションは変わる。だから季節対応商品をつくりたい」という提案が出てきたのです。そしてこういった現場からの活発な意見こそ、「創造的対話」がスタートした証しでした。

実際、これに対して経営トップはゴーサインを出しました。これは一見すると「コンセプトという指示に、現場が正しく応えた」だけに見えるかもしれませんが、それは違います。トップが季節対応商品にOKを出すとき、FUJIMIにとっての「パーソナライズ(ひと)」とはDNAで先天的に確定するものだけでなく、季節や生活習慣、ストレスなどで「移ろいゆくもの」も考えようという判断が示されたことになるからです。

これは再び、現場やミドルに対して「ひとのコンディションに影響を与える因子って、なんだろう?」という「問い」につながります。こういった問い、つくり、選ぶ循環を重ねていくことで、FUJIMIブランドのチームは「自ら考える組織」へと成長していったそうです。

ボク自身は外野からこのプロジェクトを見ていて、素晴らしいポイントが2つあるように思いました。

まずひとつ目は、花房社長のオリエンです。通常、広告会社に求められるのは、それを実施さえすれば効果が期待できる「正解のパッケージ」です。たとえば戦略パート、バナー広告、PR施策案などなどを制作するために、広告会社はいろいろな職能の、多くのスタッフを投入し、納品します。ところが花房社長は、それでは組織が育たないと考えました。そしてクリエイターをひとり棲まわせることで、触媒として組織を活性させることを求めました。これは「広告会社の一般的な活用の仕方」とは大きく異なるものであり、その慧眼には驚かされます。

もうひとつのポイントは、アートディレクターである八木さんのデザイン力です。まだ世の中に存在しない「パーソナライズビューティケアの総合ブランド」を目指すということは、当事者にとっては非常に難しく、迷子になることもあったはずです。そんな時にブランドの世界観やパッケージといった「終着地点」のイメージを共有できたことは、組織メンバーを大いに勇気づけたことでしょう。

ここにあるのはフレームワークから「正しい指示」を導き出して組織を動かそうというアプローチではありません。その代わりにメンバー一人一人の創造力を信用し、それを刺激するスパイラルです。

こうして動き始めたFUJIMIのプロジェクトですが、Indwelling Creatorsである八木さんの役割は、きっとまだまだ終わらないでしょう。なぜなら半分は組織の内側、半分は外側にいるプロフェッショナルとして、問い、つくり、選ぶ循環、つまり「創造的対話」を促し続けるMover & Shakerとしての責任が、これからますます重くなるだろうからです。

今後もFUJIMIから目が離せません。

続ろーかる・ぐるぐる#177_らーめん写真

さてさて。

新入社員研修の折、お世話になった電通の先輩に連れて行ってもらった銀座のラーメン屋さん。以来30年、二日酔いの翌日を中心に、幾度となくお世話になっています。最近は在宅勤務で伺う機会も減ってしまったのですが、先日も若大将がボクの顔を見るなり「中華そば、特盛り、麺硬めですよね」とのひとこと。

ボク好みにパーソナライズされたメニューがうれしく、いつも以上においしくいただきました。

どうぞ、召し上がれ!

続ろーかる・ぐるぐる#177_書影

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