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右脳と左脳で考える、広告会社とコンサル会社の未来No.8

コーポレート機能のさらなる高度化には「右脳人材」の活用がカギ

2024/11/27

グループ組織再編のトレンドは時代とともに移り変わってきましたが、この20年で特に重要視されてきたのが、「コーポレート機能の効率化・高度化」です。

本稿では、長年さまざまな企業のグループ組織改革や機能再編を支援してきた電通コンサルティングの福田克彦が、グループ組織再編のトレンドを振り返るとともに、今後のコーポレート機能高度化における「右脳人材」の重要性を説明します。

<目次>

グループ組織再編におけるトレンドの移り変わり

コーポレート機能効率化・高度化のトレンド

電通グループを例に、コーポレート機能の効率化・高度化を考える

コーポレート機能をさらに高度化するため、「右脳人材」を活用する

まとめ:コーポレート部門にこそ右脳人材を

グループ組織再編におけるトレンドの移り変わり

グループ組織再編のトレンドは、経済環境、技術トレンド、国内/海外の政治力学などの影響を受けて、時代ごとに変遷してきました。

20年前、10年前、そして最近の動向を比較すると、それぞれ異なる背景や目的が見えてきます。

20年前~2000年代前半 構造改革が始まり、グループ組織の再編やM&Aが急増時代背景小泉政権の構造改革路線は、加速する経済のグローバル化と、バブル崩壊後の金融不安の長期化が背景にありました。2000年代に進んだ規制緩和は、その象徴的な政策の1つです。“官から民へ”のスローガンに象徴される通り、民間活力の最大化と小さな政府をセットで進める、新自由主義的な経済政策が採用されました。

グループ組織再編のトレンド企業は、積み重なった過剰投資や事業運営の非効率化に対処するための構造改革施策として、非中核事業や機能子会社の整理を進めました。子会社統合または分割、事業切り出しと別会社への吸収または新会社の設立、他社への事業売却など、グループ組織の再編やそれに伴うM&Aを積極的に採用する企業が増えました。

また、インターネットの本格的な普及は、いわゆる“IT系”の新興企業の急成長を促し、新世代の経営者による新しい経営手法が一般化される契機となりました。彼らの成長性と、収益性重視かつスピーディーな経営判断は、事業への投資・撤退、企業買収・売却を“当然の手段”として社会的に認知させました。

それと同時に、それまでは半ばタブーとされた、巨大化した組織にメスを入れて再配置する“外科手術的な施策”を許容する、社会的な雰囲気を醸成することになりました。

10年前~2010年代前半 リーマンショックと震災の時代。持ち株会社制への移行が進行時代背景2008年のリーマンショックは、国内・海外を問わず、あらゆる市場を急速に冷え込ませました。世界的な信用収縮によって企業や家計への融資が絞られ、金融機関は不良債権処理に苦心する中で、貸出先の企業に対して厳しい姿勢で臨みました。

特に自動車、電機、精密機器などの輸出依存度の高い製造業は、米欧の輸出先の需要急減に直面して深刻な打撃を受け、大規模な減産や人員整理を伴う抜本的なコスト削減と、経営リソースの効率化を迫られました。

また、2011年の東日本大震災は、震災復興の長期化とエネルギー政策の不可逆的な変化など、今に至るまで企業活動全般に大きな爪痕を残しています。

グループ組織再編のトレンドすでに海外市場に進出して相応の年数を経ていた企業は、急速な市場環境変化に伴い、現地販路や生産拠点の見直し、それに伴う地域持ち株会社や子会社の統廃合など、地域ごとの管理体制の見直しを図りました。

これまで長く現地で育まれてきた組織を大幅に見直すことは、当然ながらグループガバナンスを変えることになり、本社の求心力を高める“内向きの変革”を進める企業が目立ちました。

財務体質の強化と経営のスリム化を目的とする“守備的な再編”は、非中核事業の売却と、コア事業への経営資源の集中投下をより一層加速させます。成熟市場における勝ち残りを求めた企業間の競争は、M&A市場の活況をもたらしました。

企業は、大きな投資を伴うM&Aの戦略的意図や投資の進捗(しんちょく)における株主への説明責任を担保するために、複雑なグループ構造の簡素化・再編成を進めました。その際の手段として、持ち株会社制へ移行するケースが多く見られました。

最近~2020年代前半 コロナ禍がDXを加速させ、データ時代が到来時代背景新型コロナウイルスの影響は人々の暮らしや生活全般に甚大な影響を与え、生活者/労働者が極端な行動制約を課されたことで、あらゆる企業活動が壊滅的な打撃を受けました。

それまでのリアル偏重型の働き方は半ば強制的に見直され、企業活動全般にリモートワークが急速に普及。それらと並行してDX(デジタルトランスフォーメーション)投資の加速、危機管理体制とセキュリティの強化、データの利活用、IT組織の見直しなど、企業活動におけるデジタルシフトが加速度的に進展しました。

グループ組織再編のトレンド企業活動全般へのDXが進行してさまざまな業務で扱われるデータの重要性が高まり、またそれらのデータを解析・利活用する手段が具現化したことで、ITやデジタル分野での競争力をいかに高めるかが、最重要経営課題として認識されるようになりました。

今、企業はグループ各社の経営状況から実務の最前線に至るまで、さまざまなデータを活用しており、またそれらのデータを経営のかじ取りにつなげられる人材の育成や組織化を行っています。

また、新技術開発に秀でたスタートアップとの資本提携・業務連携や、それらを核としたグループ会社の再編を行うことで、新技術の用途開発とグループ活動への実装に取り組んでいます。

コーポレート機能効率化・高度化のトレンド

企業が生産性向上施策として最初に着手するのは、昔も今も「固定費および間接費の抑制」です。企業のIT活用が一般化した20年前から現在まで、コーポレート機能効率化はグループ組織再編の中心的命題の一つであり続けています。

グループ組織再編のトレンド

 多くの企業でERP(※)導入が進められてマネジメント情報が可視化されるようになったことで、企業の業務効率化への取り組みは加速しました。

※ERP(エンタープライズ・リソース・プランニング)=「ヒト、モノ、カネ、情報」と呼ばれるような経営資源の一元管理により、経営の効率化を図る手法および概念。

 

ERP導入プロジェクトは、業務の棚卸しや標準化、業務フローの見直しなどを併せて進めることが多くなります。そうした活動は、BPO(ビジネス・プロセス・アウトソーシング)やSSC(シェアード・サービス・センター)活用の機運を高めることになりました。これらはオフショアに代表されるIT領域、コールセンター、会計や人事給与などのバックオフィス業務などで、業務効率化とコスト削減施策として採用されました。

BPOやSSCを管掌する会社は、本体とは別の法人であるため、給与体系や人事制度を本体とは別にすることができ、この点で人件費抑制施策としても機能しました。

また、1999年と2004年の労働者派遣法改正によって業務範囲的にも業種的にも派遣労働の範囲が大幅に拡大したことで、相対的に人件費の高い正社員から、主にバックオフィス業務や定型業務を担う人員として派遣社員へと業務移管が進められたことも背景にあります。

10年前~2010年代前半 デジタル化とグローバル化の中、BPOとSSCの役割が徐々に拡大

クラウド技術やビッグデータ分析の活用が本格化し、グループ企業内でのデジタルインフラの統合が進められたことで、経営判断の迅速化や業務プロセスの効率化がさらに進行しました。

広く普及したBPOやSSCですが、企業活動から収集されるデータの量や種類が大きく増えるに従い、その役割も変化していきます。企業はBPOやSSCの活用にあたり、コスト削減目的にとどまらず、より専門性の高い業務プロセスの組織化やサービス品質の向上に重点を置き始めました。

また、グローバル市場への進出が加速して現地での競争が激化する中で、財務やサプライチェーンの効率化を目的に、現地にSSC(リージョナルSSC)を設置する企業が増えました。リージョナルSSCによって、地域特有の商慣習や事業環境、言語や法規制の違いにも対応することが可能となりました。

最近~2020年代前半 リモートワークの普及とDX。SSCはますます重要に

コロナ禍においてビジネスパーソンの働き方は劇的に変わり、あらゆる業務でリモートワークが普及しました。リモートワークは、個々人の作業から複数人での打ち合わせに至るあらゆるビジネスシーンでデジタル化が前提となるため、業務の可視化や標準化をさらに進めやすい環境が整いました。

中でも、定型業務を担うとともに専門機能を集約したSSCは、最もDXを進めやすい環境です。例として、RPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)や、AIを活用した業務の自動化への取り組み、データアナリティクスなどが管掌範囲となります。こうしてSSCは、経営層やマネジメントの高度な意思決定をサポートし、企業全体のパフォーマンスを向上させる重要な役割を負うようになりました。

グループ組織再編におけるトレンドの移り変わり

電通グループを例に、コーポレート機能の効率化・高度化を考える

ここからは、コーポレート機能の効率化・高度化について、電通グループを例に見ていきましょう。

筆者は、コンサルティングファームを複数社経験し、コンサルタントとしてさまざまな企業のコーポレート部門も見てきました。手前みそながら、そんな筆者から見ても、電通グループはコーポレート機能をよく効率化・高度化できているケースだと思います。 

電通コーポレートワン(以降、DC1)は、電通など複数社のコーポレート部門と、グループにあったコーポレートの専門会社を統合し、2022年に設立された会社です。

電通グループ約150社と、そのクライアントやステークホルダーに対して、コーポレート機能の多くをカバーすることを目指しています。

DC1が見据えているのは単なる効率化ではなく、コーポレート部門を支える各領域の「業務の高度化」を同時に達成することです。現在、8つの事業領域で専門性を高めて、コーポレート機能を一元的に提供しています。

DC1に統合された組織には、人事、経理、法務、ITといった、いわゆるバックオフィス、管理部門的な機能の他にも、経営企画、M&A、起業支援、グループコーポレートブランディングなど、経営戦略部門も含まれているのが特徴です。

電通グループという持ち株会社の機能整理が進み、組織再編とガバナンスの強化を進めた結果、dentsu Japan(グローバルに展開する電通グループのうち、国内事業を統括する事業ブランド)の経営企画部門もDC1に組み入れて、国内グループ全体を見られる体制にするのが最も合理的だという判断から、現在の形になりました。

DC1の機能において特徴的なものの1つは、起業支援の領域にも着手していることです。

電通ではこれまで、2022年に政府が発表した「スタートアップ育成5か年計画」に対応し、電通とコーポレートベンチャーキャピタルファンドである電通ベンチャーズが共同でファンド(電通ベンチャーズSGP投資事業有限責任組合)を展開するなど、さまざまな活動を行ってきました。2024年1月、その枠組みをさらに広げて「起業」にフォーカスした新組織「起業準備室」を、DC1内に新設しました。

この背景ですが、AI・メタバースなどのテクノロジーの進化や、社会構造やライフスタイルの変化によって情報価値の高度化が進んでいます。次世代型ビジネスを創出するには、インテリジェント化する社会のニーズや未来を捉え、さまざまなパートナーとイノベーティブな事業・サービスを開発することが求められます。

そして、事業やサービスの創出にとどまらず、中長期的な視点で社会・企業・生活者がともに発展できる環境づくりと、日本のビジネスイノベーションに貢献するためには、「実装型」の起業・会社化を推進することが有効です。

そうした中、起業準備室は、電通の強みであるイノベーションと挑戦の風土を基に、「スピード」と「オープン」をキーワードとした、新たな連続起業を支援・推進する組織として位置付けられています。

事業側(電通グループの各事業会社)から寄せられる起業案件の立ち上げの段階から伴走し、独立した会社として育成するフェーズから、収益的な成長を見据えるフェーズまで、一気通貫でサポートを行えるよう取り組みを進めています。

コーポレート機能を本社やSSCに統合した企業が、事業部門の新規事業立ち上げをサポートすること自体は珍しくありません。しかし、それらは、海外市場向けの規制対応等を含む法務やリスク管理、財務・資金管理、経理、人事、ITといったバックオフィス機能であることがほとんどです。起業準備室の取り組みはまだ緒に就いたばかりであり、DC1の中での位置づけも現時点ではそれほど大きくはありませんが、「起業」にまで踏み込んだ事例は珍しく、今後のコーポレート機能高度化の1つのあり方と言えるのではないでしょうか。

DC1は、電通におけるほぼ全てのコーポレート機能、電通マネジメントサービス、電通ワークスを統合して発足しました。国内グループの中核的なプラットフォームとして、グループ全体のコーポレート機能の強化をリードし、グループ各社の事業変革も支援しています。
DC1は、電通におけるほぼ全てのコーポレート機能、電通マネジメントサービス、電通ワークスを統合して発足しました。国内グループの中核的なプラットフォームとして、グループ全体のコーポレート機能の強化をリードし、グループ各社の事業変革も支援しています。

コーポレート機能をさらに高度化するため、「右脳人材」を活用する

多くのコーポレート機能は、業務標準化から機能の統合移管に至るまで、他社事例や各社固有事情をロジカルに整理・比較・分析して進めた結果今の形になっているはずです。そして今なお、高度化に向けて同様の取り組みを進めていることでしょう。

一方で、「ビジュアル」「直観的」「柔らかさ」といった要素をサポートに組み込むことは、多くのコーポレート機能の不得意とするところではないでしょうか。

コーポレート機能が、これまで以上に経営者や事業部門を先回りしてサポートすることが求められる時代においては、クリエイティブ素養の高い「右脳人材」を活用することで、さらなる高度化が図れると、私たちは考えています。

以下、いくつかの分野を例に、「右脳人材」が生きるケースを考えてみましょう。

【マーケティングおよびブランド管理】

マーケティング資料の作成やブランドメッセージの伝達において、右脳人材の創造力を生かせるシーンは多くあります。

生成AIが加速度的に進化する中で、新しいツールを活用しながら経営者の思いや企業としてのビジョン、ブランドが大切にする価値観などを反映したクリエイティブなコンテンツの作成に、右脳人材は力を発揮するはずです。

これからも通信環境の高度化、映像表現の多様化、コンテンツの管理・制御技術の進化によって、生活者が企業のマーケティング素材に触れる機会は増加していきます。それは、マーケティング素材の良し悪しが事業の成否とより直結することと同義です。そうであるならば、右脳人材のクリエイティブな素養を組織として集約・高度化することは、重要な経営的選択肢であると考えます。

【データビジュアライゼーション】

DXが進み、現場実務から経営マネジメントまで大量のデータをどう扱うかが、経営上の最重要課題の1つとなっています。ところで、データを整理・分析したアウトプットは、従前のグラフや表であることが多くないでしょうか。

分析結果が複雑になれば、それだけ読み手の理解力に委ねられることが増えます。少しの誤解が、重大な経営判断ミスを招くリスクとなりかねません。

しかし、もしそれらのデータをより視覚的に理解しやすく提示する能力を組織的に高めることができれば、そのリスクは大きく低減することになります。

データの取りまとめ手法から複数の表現パターンを用い、視覚的かつ直感的に訴えかけるビジュアルを提供する。あるいは、単なる数字やグラフの羅列にとどまらず、意思決定に役立つ「ストーリー性のあるデータ表現」を経営者に示す。そこはまさに右脳人材が強みを発揮する領域でしょう。

膨大なデータを取り扱う時代において、右脳的な発想でクリエイティブにデータを表現することは、データの理解を深めるだけでなく、戦略的な意思決定や新たな課題への気づきに貢献するはずです。

【デザイン思考を活用した業務の再設計】

コーポレート機能は組織の性質上、常に「業務プロセスの効率化」に取り組む使命を負っており、今後もその重要性が変わることはないでしょう。したがって、小さい改善から大きな変革まで、現状業務をつぶさに見つめて、改善点を洗い出すことが求められます。

しかし、すでに出来上がったプロセスに対し、その当事者である現場担当者や所管部門のメンバーが、先入観なく分析したり、新しい業務像を提示することは難しいと思います。

新しい視点で最適化する際には、右脳的な発想力で、デザイン思考を活用する必要があります。顧客や従業員の視点に立って、よりユーザーフレンドリーで直感的なプロセスやサービスを設計することが可能になるでしょう。

コーポレート機能と右脳人材

まとめ:コーポレート部門にこそ右脳人材を

右脳人材は、コーポレート機能の高度化において、創造力や直感力を生かして業務の再設計、カスタマーエクスペリエンスの向上、データビジュアライゼーションやストーリーテリング、組織文化の強化など、さまざまな分野で活躍できます。

これまでの定型業務を中心としたサポート組織から、新技術を活用した革新的でクリエイティブな価値を提案する機能を担う存在へと進化していくためには、右脳人材の活用を積極的に考える時期に来ていると、私たちは考えます。

私たち電通コンサルティングは、右脳×左脳×異能を掲げています。コンサルティング出身者の左脳的バックグラウンドだけでなく、電通グループの強みである右脳的・クリエイティブな要素を取り込み、多軸視点を大切にしています。

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