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リスキリングのススメ。DXの本質は“既存人材のトランスフォーメーション”にある!No.2

DXの鍵を握るのは出産や育児でキャリアを離れた“潜在人材”だ!

2021/12/14

潜在人材のリスキリングと「ワーク・ライフ・インテグレーション」

「DX(デジタルトランスフォーメーション)人材が不足している」と言われる一方で、既存職種の多くがコンピューターやロボットに置き換えられていくこれからの時代。

この表裏一体の二つの課題への本質的な解決策が、「既存人材のデジタルトランスフォーメーション」、すなわちリスキリング(能力再開発)です。

……というのが前回のお話でしたが、リスキリングは既存人材(社員)のトランスフォーメーションや満足度の向上だけに貢献するものではありません。

今回は「出産」「育児」「配偶者の転勤」「介護」などさまざまな事情で今はキャリアの第一線から一歩引いている“潜在人材”たちのトランスフォーメーションについて、電通のデータ・テクノロジーセンターで海外の先端データソリューション企業の事業開発に携わる小栗亜樹がお話しします。

特に鍵を握るのは、出産などのライフイベントのためにキャリアを離れる女性たちです。

【第1回】“DX騒ぎ”に隠された、既存人材リスキリング(能力再開発)の重要性

<目次>
家庭事情でキャリアを離れた“潜在人材”の活躍促進が日本の成長の鍵
企業はどうしたら“潜在人材”を獲得し、生かすことができるのか?
コロナ禍で加速する「ジョブ型雇用時代」。生き抜くスキルを習得するには?
働き方が劇的に変わる!「ワーク・ライフ・インテグレーション」の時代へ

家庭事情でキャリアを離れた“潜在人材”の活躍促進が日本の成長の鍵

2021年4月、私は2度目の育児休業からフルタイム社員として現職に復帰しました。

少し古いデータですが、国立社会保障・人口問題研究所「第15回出生動向基本調査(夫婦調査)」によると、私のような出産後に「戻る職場のある人」は、出産前に仕事をしていた人の53.1%(2015年時点)、つまり約半数の有職女性は、出産を機に「退職」しています。

日本経済の活性化に女性の活躍推進が不可欠と叫ばれる一方、約2人に1人が現場から消える。この大きな落とし穴は深刻です。しかし、その理由は「出産」といったライフイベントに起因しているため、単純に落とし穴をふさぐことが解決につながるわけではありません。

彼女たちが復帰を望む時に再び戻れるような「扉」が求められています。小さなマリオがひょこっと不安げに戻るのではなく、スター状態のマリオのように、希望と自信と共に開かれるべき扉が。

その「扉」こそが、リスキリングです。自分に合った働き方を選べるようなデジタルスキルを身につけることが、一度キャリアを離れた人たちの、人生の可能性と選択肢を拡張するのです。

冒頭で出産を機に2人に1人が現場から消える状況は深刻とお伝えしましたが、パートタイムや派遣社員など非正規雇用者の第1子出産後の就業継続率は25.2%とさらに低く、4人のうち3人が現場から消えているというのが現状です。

内閣府の男女共同参画局による「男女共同参画白書 平成30年版」によれば、女性は全労働者の55.5%が、男性は全労働者の21.9%が「非正規雇用」です。女性の非正規雇用者率は男性の2倍以上と多く、さらに今後は第四次産業革命に伴う「事務職」の減少も、女性の選択肢に大きく影響を及ぼすと考えられます。

ここで、私自身のお話をさせてください。私は過去に一度、夫のアフリカへの海外赴任により、上司に辞職を申し出たことがあります。

「辞めなくてもいいんじゃない?」と休職を勧められましたが、当時の電通にはまだ配偶者の海外赴任に伴う休職制度や再雇用制度がありませんでした(現在は導入されています)。私費留学による休職制度が使えないか調べましたが、夫の赴任先の近くに通えそうな大学はありません。結局このときは夫が転職することになり、アフリカ行きは立ち消えに。私はキャリア継続に至りました。

その後、2度の産休・育休期間中にキャリアブレイクを経験し、復帰する場所があるにも関わらず焦燥感に悩まされました。出産後数カ月間は特に、育児に忙殺されて、まともに何かを考える時間はなく、インプットする余裕は全くない体力勝負の毎日。

時間の経過とともに、自分の持つ仕事関連の知見は時代遅れのものになり、仕事において自分が出せる価値はもうないように感じ、完全に自信を失っていました。なんとかその焦燥感を打破しようと、「家にいながらにして復帰後に生かせそうなスキルを習得する方法」を探しましたが、なかなか見つかりません。

そのため、業務領域とは全く関係なかったのですが、“ママ”という新しい肩書にしがみつく形で、第1子育休中に独学で保育士資格を取得しました。コロナ渦だった第2子育休中には、国際モンテッソーリ協会が発行するアシスタント教師資格をオンラインで取得し、結果的に保育業界で「リスキリング」していました。

以上は私という一個人の例ですが、同じようなキャリアブレイクの悩みを抱える女性は多いのではないでしょうか。

求められるスキルが常に変わり続ける現代において、ビジネスの現場で必要とされるDXスキルを習得することが、多くの女性たちにとって自信や自己肯定感につながり、本来の自分の強みや魅力を再発見する重要な機会となります。そして、後述しますが、自分の「理想の働き方」の実現にも一歩近づけるのです。

なお、「育児」「介護」「配偶者の転勤」に関しては、これまで主に女性の問題として語られてきました。しかし、男性の育休取得推進等による男性の働き方の変化もあり、本当の意味での男女平等が推進された近い将来においては、多くの男性もこれまでの女性同様に直面する問題です。

今回の記事では、あくまでも現状に即して女性にフォーカスしていますが、本来は男女を問わないトピックであることは留意したいところです。


企業はどうしたら“潜在人材”を獲得し、生かすことができるのか?

リスキリングで最新のDXスキルを身につけた人材が新しいステージとして目指す企業の側にも、新たな課題が突き付けられています。

日本では配置転換しながら経験を積ませる「ポテンシャル採用」「メンバーシップ型雇用」が中心でしたが、最近では職務や勤務場所などが事前に決まっている「ジョブ型雇用」を提示するケースが、大手企業でも増えてきています。

そしてジョブ型雇用への挑戦者たちは、「名のある企業に所属すること」や「与えられた仕事をすること」よりも、「やりたい仕事をやりたい形で実現すること」や「家庭や趣味などのプライベートを含めた総合的な人生の充実」を求めています。

例えば、引っ越しを伴う転勤を会社から命じられた場合、あなたはどうするでしょうか?これまでの日本社会においては、たとえ単身赴任であったとしても、辞令を受け入れるのが多数派だったと思います。

一方、私が大学時代を過ごしたアメリカの場合、「引っ越しを伴う望まない転勤」を求められた人は、辞職を選択し、その街で生活を続けられる方法を模索することが多いのです。

この選択の違いは、まさに「ジョブ型雇用の人材」と「メンバーシップ型雇用の人材」の思考の違いだと私は考えています。

ですから、企業が“優秀な人材”を獲得するためには、多様な雇用の形が求められているのです。

多様な雇用の形は、新型コロナウイルスの影響で導入が進んだ「リモートワーク」をはじめ、「副業」「兼業」「フレックスタイム制」「短時間勤務」「アプレンティスシップ(※)」など多岐にわたります。

※アプレンティスシップ
賃金をもらいながらスキルを学ぶ、職人的な「徒弟制度」システムを、幅広い企業や職種に応用する制度。


アメリカでは新型コロナウイルスの影響で、長期間にわたり学校がオンライン授業へと切り替わり、多くの子育て世帯において、子どもたちが1日中家で過ごすようになりました。また、保育施設が長期間にわたり休園したことで、家庭内での保育が必要になりました。全体的に日本よりも子育て世帯の日常への負担と影響は大きく、結果として多くの人が退職に追い込まれました。

アメリカの経済学誌「ハーバード・ビジネス・レビュー」(※)によれば、新型コロナウイルスを引き金とする家庭事情でキャリアを離れた人たちを対象に、「Return-to-Work Programs」(仕事への復帰プログラム)を提供するアメリカ企業が増えてきています。

参考記事:Jennifer Jordan and Michael Sorell, "Return-to-Work Programs Come of Age," Harvard Business Review,  September–October 2021.(邦訳「優れた専門人材のキャリア再開をどう支援すべきか」、DHBR2021年12月号) 
 

コロナ禍以前から、出産や育児をきっかけに仕事を離れた人材をターゲットとした「リターンシッププログラム」を提供するアメリカ企業は増えていましたが、新型コロナウイルスが原因で退職したスキル人材の獲得のため、多くの企業が動き出していることがうかがえます。

「仕事への復帰プログラム」は、通常8週間~半年という期間で実施されます。実務を行いながら、オリエンテーション、専門性の向上を目的としたトレーニング、シニアリーダーとの交流、メンターセッション、バディーセッションなどを行います。

プログラム修了後は、雇用者とプログラム参加者の双方が希望する場合、正社員として採用するという、「段階を踏んだ雇用」を可能にしています。

雇用者は「本当に欲しい人材なのか」、プログラム参加者は「本当にやりたい仕事なのか」を確認する「試用期間」を設けることで、期待値のずれやカルチャーフィットに起因するトラブルを避けることができます。

両者の具体的なメリットは以下の通り。

  • 雇用者……スペックの定義づけが難しい新しいスキルが求められるポジションへも積極的に雇用を検討できる
  • プログラム参加者……自分のスキルにマッチした最適なポジションに積極的にアプローチできる

また、結果として不採用となった場合でも、「仕事への復帰プログラム」を通して得た業務経験から、止まっていた履歴書に新しい項目を追加でき、次の一歩へとポジティブにつなげられるわけです。

かつては「親が決めた縁談で、初めて会う人と結婚する」なんて時代もありましたが、自分で結婚相手を決める時、結婚からではなくデートから、もしくはカジュアルなチャットから始まるものではないでしょうか?

就職も結婚と同じように、企業と人材がお互いを知るための「期間」が求められるようになっていくのだと思います。

コロナ禍で加速する「ジョブ型雇用時代」。生き抜くスキルを習得するには?

「現場で求められるスキル」と「企業の既存人材が現在持っているスキル」。この間にギャップのあるものこそが、今後転職市場においてニーズの高いスキルと考えられます。

オンラインで自分の好きな時に学習を進められる「GLOBIS」「TECH CAMP」「Udemy」などのオンライン学習プラットフォームは既に知名度が高いですが、ビジネスの現場で求められるDXスキルは“高い専門性”だけではありません。「コミュニケーション力」「プレゼンテーション力」「交渉力」「課題解決力」などの、いわゆる“ソフトスキル”も求められます。

前回ご紹介したオンライン学習プラットフォーム「OpenClassrooms」は、各コースにおいて「求められるスキルを習得できていると証明すること」で修了資格が得られる「Competency-based education」(能力ベースの教育)という考え方に基づいています。

具体的には、課題解決型の実戦形式において、受講生はゼロから提案を組み立てることが求められ、インプットしたことを「評価者に対しての英語でのプレゼンテーション」という形でアウトプットする訓練をしていきます。

デジタルをごく当たり前のものとして自在に使いこなせるように、“高い専門性”と“ソフトスキル”を同時に獲得できるプラットフォームと言えます。

そんなOpenCrassroomsのカリキュラムを活用して、未経験者でも家にいながらにしてDX人材に「リスキリング」できる学習コースと就職の機会をセットで提供するプログラム「STAIRGE」(ステアージ)も登場しています。詳しくは本記事末尾をご参照ください。

働き方が劇的に変わる!「ワーク・ライフ・インテグレーション」の時代へ

内閣府は令和2年第2回経済財政諮問会議において、女性の活躍推進の加速に向けて「男女が共に仕事と育児・介護等の二者択一を迫られることなく、能力を発揮し、働き続けることのできる環境整備が重要」と明言しています(参考URL)。

シャカリキに働くことが求められた昭和から平成を経て、「ワーク・ライフ・バランス」という言葉は日本においてようやく市民権を得てきています。しかし、働き方の変化に伴い、アメリカではさらに進んだ、「ワーク・ライフ・インテグレーション」という考え方が浸透し始めています。

ワーク・ライフ・バランスとは異なり、生活を「仕事の時間」「プライベートの時間」とはっきり分けるのではなく、緩やかな境界線を設けることで、個人の幸福や健康により良い相乗効果を生み出すアプローチとされています。

例えば、小さな子どもを持つ親の1日を想像してみましょう。

朝、家で一緒に朝食をとり、子どもたちと公園でひとしきり遊んでから保育園に送ります。

始業前の10分間のヨガで心も体も整えて、正午までリモートワークで仕事をし、昼食をとり食材の買い物に行き、午後は仕事の打ち合わせにZoomで参加。

夕方早めに子どもたちを保育園に迎えに行って、一緒に夕食をとり、子どもたちが就寝後、数時間はリモートワークで仕事をする……といった感じです。

スキルを得ることで、仕事や働き方を「選べる」ようになる。それにより、「自分と子ども」「自分と介護を必要とする親」「自分と大切にしたい趣味」など、仕事以外の活動と向き合い、持続的に両立させること。それがワーク・ライフ・インテグレーションです。

持続的に何かと何かを両立させるには、限られた貴重な時間の中で、明確な優先順位を持って向き合う必要があります。その時々の「人生の優先順位」が明確だからこそ、そして「求められるスキル」を持っているからこそ、新しい働き方が実現できるのです。

リスキリングは企業にとっても、企業で働く“既存人材”にとっても、そして今は自信や自分自身を見失いかけているかもしれない “潜在人材”にとっても、さまざまな可能性と選択肢を提供します。

今は“潜在人材”である多くの女性たちが、それぞれが理想とするキャリア形成を目指して、最適な領域でのリスキリングを経て、スター状態のマリオのように、希望と自信を胸に新しい扉を開ける未来を願っています。

リスキリングプログラム「STAIRGE」(ステアージ)
受講者募集中!(2021年12月31日まで)

STAIRGEhttps://stairge.accelerators.jp/

※電通グループはOpenClassroomsの事業開発パートナーとして日本での事業拡大の支援を行っています。事業開発支援の一環として、DAS株式会社と共に「STAIRGE」の企画・運営を担当しています。
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