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データ × マーケティングの最前線No.4

【今さら聞けない】DMPの最新事情(後編)

2016/04/15

急速にテクノロジーとの融合が進む広告・マーケティング業界は、今後どのように変わっていくのか。電通でデジタルマーケティングに取り組む若手プランナーが「データ×マーケティング」を軸に、最新の知見を解説していく。

前編に引き続きDMPの導入・運用をテーマに、Legolissの酒井克明氏、電通の近藤康一朗氏と荒川拓氏の3人が最前線での試行錯誤と将来への展望を語った。

この座談会の前編はこちら

※第1回「【今さら聞けない】 オーディエンスデータの最新事情(前編)
※第2回「【今さら聞けない】 オーディエンスデータの最新事情(後編)

広告とデータをつなぐために必要なクリエーティビティー

荒川:今後はさらに扱うデータの幅も確実に広がってくるので、そうなるとDMPを牽引できる人や、DMPを用いた画期的な提案が欲しいということになってきます。

従来のマーケティングでも、データ分析はなされていたわけですが、とくにDMPのようなアドテク領域では、技術への理解が鍵になってきますよね。僕は技術側から入ったのでラッキーかもしれないのですが、そもそもの技術に対する理解が浅いと、やはり提案の幅も広がりにくい。当然ながら、日々登場する新しい技術やサービスへのキャッチアップも欠かせません。さらには、そうしたテクノロジーを使いこなす上で、常に数字にもとづく意思決定を重ねていく必要があります。

同じ広告業界でも、クリエーティブ畑の方はなかなか理解しづらい領域なのではないかと思います。

近藤:アドテクの話をしていて、この人はよくできそう、という人は、基本的にある技術でできること/できないことの境界線をよく分かっています。新しい技術ならあれもこれもできる、と盲信している人はだいたいうまくいきません。

酒井:私が入ったころの広告業界といえば「IPアドレスってなんですか?」って人ばかりでしたが、今は数字や技術に強い若手も増えていますよね。その一方で、数字を見れる人も今度はクリエーティブを見ない傾向があったりしますね。よく言われる右脳派左脳派の話ですが、この2つをバランスよくできる人はいないと思われがちですよね。

近藤:せっかくデータに強い担当者がいて、セグメントもキッチリ切れているのに、なぜかクリエーティブが1個だけでまったく出し分けになっていないなど、残念な例もあったりしますね。

荒川:やはり、テクノロジーとマーケティング両方がきちんと分かる人は少ないのでしょうか…。

酒井: データってウソをついてしまう側面もありますよね。レポートの切り口によって全然違う分析結果を導き出してしまう可能性を秘めています。そうなると、数字を見るにも「センス」が必要で、データを使って何を証明したいのか、何を発見したいのか仮説を持ってデータを扱える人でないとデータにもてあそばれてしまう。

近藤:分析は、それこそかなり個々人のセンスと経験で成果が変わる仕事だと思います。ある数字が2倍になった場合、それをどう評価・判断するのかといったレンズの当て方も、そこに至るまでのコンテクストによって全く異なります。

DMPに関しては、セグメントの作り方も同じ側面があります。珍しくもなんともないページの来訪をオーディエンスのマークにするんだったら、来訪頻度などを考慮に入れないといけないし、すごく特殊なページであれば、そこだけ切り取って独立したセグメントにした方がよかったり。

酒井:サードパーティー系のデータセラー型DMPも、売り物のデータセグメントを作るときは、最初に「●●に興味をもったオーディエンス」といった視点で、ある程度自動化した手法でユーザーが参照したサイトをURLやメタキーワードなどを使ってリスト化します。

その段階ではゴソっとデータを持ってきても、そこからどう不純物をそぎ落としていくかという人力の工程が次にあるったりするんですよね。上がってきたリストを目視でよく確認すると、目的にそぐわない「なんだこのURL?」みたいなものが混じっていることもあります。そういうことから、システムをベースに作り出されたデータを全面的に信じるということは、データに日々触れている立場としてはあり得ません。

近藤:ツールなどもそうですが、実際にはマーケターとしての基本的な素養や、セグメントをウェブの行動履歴やそのほかのデータでいかに代弁させるかを考える能力の方が、ずっと大きいということですよね。

総合広告会社がDMPから何を見るのか?

酒井: データをどう見るかに関しては、以前ホテルのマーケティングを担当していたころにこんなことがありました。新しい出店先を決めるための分析で、予約者のリストを参照していました。ホテル業界って特殊で予約者のデータと宿泊者のデータが一致しないんですね。なので、実際どういう方が宿泊しているのか現場を見ないと分からないと思って、ホテルの駐車場に車をとめて泊まり込みで実際に来る客層を観察しました(笑)。

そうすると、駐車場で見た人の中には、宿泊時の記帳で明らかに本当のことを書いていないという人も実際にいたわけですね。例えば車のナンバーと記帳した住所が違うとか、「ああこの人は出張者でレンタカーで来たんだな」とか、現場に行って初めて見えることもあるわけです。

先ほど話したような「データはウソをつく」データだけを信じていてはいけないというのは、そこで分かったことが大きかったです。

近藤:実際に見たり行ったりしないと分からないという感覚は、総合広告会社の間では、身にしみついてますよね。クリエーティブ部門は特にそうですが、必ず顧客の商品があればお店まで足を運んで、購入されている様子を観察したり、実際に使ってみたりするのが当たり前です。

酒井: あくまで私の経験ではありますが、インターネット専業の広告会社だと、商品が並んでいる現場に行ったり、実際に商品を自分で買って試したりすることは当時少なかったです。他にもユーザーアンケートはバイアスが掛かっていると思っている一方で、ウェブの行動データはウソをつかないという前提でいることも少なくありません。実際には、アンケートにも行動データにも、適当な回答なりクリックなりが必ず混じっています。

先の話にも通じますが、別に専業がどうとか総合がどうとかではなく、やはりデータの中に現れるバイアスに対して、分析する立場の人間が実際に現場に行って検証したり、手にとることで感じ、考える力を持ったりということが必要です。

人材という面では、ブランドだけでなく広告会社からも「DMP教えてくれ!」と相談を受けたり、勉強会に伺ったりすることが増えています。そういった場では「広告を運用する者の使命ってなんだと思います?」と聞くことにしているのですが、だいたい「パフォーマンスを上げることっす!」みたいな返事が返ってくるんですね。

そこでさらに「じゃあパフォーマンスってなんですか?」って聞くとだいたい、「えーと…」となるんです。「広告会社は広告をつくってそのメッセージを確実に消費者に届けることが仕事なのだから、消費者を動かしてなんぼですよね」と話すのですが、つまり「『動かす』ということを念頭に消費者と向き合い、データやテクノロジーをうまく使って日々接触方法をチューニングすること」が使命だと私は思っています。

「消費者が動いた」の定義についても、広告のクリック、商品名の認知、商品の好意度、購買意欲など、ちゃんと突き詰めていくとやるべきことが見えてきますよね。

盲目的に最終成果のコンバージョンばかりを指標にすると、運用の幅も小さくなってしまいます。先の勉強会の中で、続けて「仮に『心が動いた』ことを数値にするとしたら、どんなKPIを立てますか?」と聞いたこともありました。心が動いたことを指標化するのは実際難しいのですが、日々コンバージョンばかり追ってる人はクリックtoコンバージョンばかりに気を取られているのでまあこういったことは思い浮かばないんです。

近藤:まずは、ビューアビリティーのようにインプレッションを精緻化することもできますし、ターゲット絞り込みやアドフラウド排除などをしながら手を入れられる部分が山ほどありますね。

酒井: ええ。本当のターゲットへ適切なリーチが行えているかどうかに絞って、コンバージョンではなくリーチでチューニングをかけるだけでも、けっこうパフォーマンスは上がります。

データをプラットフォーム化せずに、カスタマイズする理由

酒井:ところで電通は、なぜ自社でデータを持たないのですか?

近藤:自社データを持ってしまうと、それを売ることがクライアントの利益より優先される可能性があるからです。クライアントが本当に必要としてるものをその都度集めてきたり、提案したりといったソリューションこそ、本来われわれが提供するべきものだと思うんです。だからデータは自社では持たないで、必要なものを案件ベースで用意する方が、最適なものを提供できるのではないかと思います。

ただ、本当にクライアントの利益につながる自社独自の武器があれば、自社で持つべきだと思いますが、現状、そんな魔法のデータは見当たらないですね。

酒井:それは納得できます。今後はデータマーケティングの分野でもどんな仕事が必要とされるのか、状況は刻一刻変わってきます。Legolissも現状では自社プロダクトを持っていませんが、広告部分だけでなく顧客の基幹システムを作るところから、コンサルティングをしたり、データの可視化をしたりというところまで仕事の幅がずいぶん広がってきています。

幅が広がってきているからこそあえてモノを持たないという選択肢もあるでしょうし、持つという選択肢もあるでしょうね。ここは各社によって戦略が分かれるところかなと思います。

荒川:クライアントが抱える課題に応じて、武器を見つけ、また柔軟につくっていけるところが、データプロバイダーと広告会社の違いではないでしょうか。

データを保有するという話に関連して、サードパーティーデータについてはどう思われますか?自社が保有するファーストパーティーデータではリーチできないターゲットにアクセスする手段としては有効ですが、まだまだ精度に課題があり、サードパーティーであるがゆえに独自性に欠ける側面もあります。

酒井:前編でも述べましたが、サードパーティーデータに関しては、現時点ではウェブ上の閲覧履歴を元にしたCookieデータだけだとパーフェクトにはなり得ないけれど、データ流通時代を見据えて今のうちからチャレンジすることは必要ということだけは確実です。これからは、多様な会社が多様な形でデータ提供をしていきます。もし、サードパーティーと呼んで使っているものがCookieデータだけだったらマズいです。Cookieでは行動が追えないアプリの時代ということもありますし。

今ならば、いくつかのサードパーティーデータを集めて、自分たちなりにカスタマイズしたデータベースを作っていくのがいいのではと思います。それはサードパーティーいうよりセカンドパーティーと呼ばれるものに近いのかもしれませんが。

近藤:データの価値が、精度・量・汎用性・独自性で評価されるとすると、サードパーティーデータの弱点はオリジナリティーが重要視されすぎて、まだまだうまく使われていないことが多いことです。そういう意味でいくと、セカンドパーティーデータや、自分たちのオリジナルなデータの組み方を考えていく作業は、とてもこれから面白くなってくると思います。

荒川:広告会社的にいうと、これまで築いてきたメディアとのつながりもあるため、セカンドパーティーデータはやりやすい。例えばあるブランディング広告に対して、好意を抱いていない人を特定するためにいくつかのセグメントを掛け合わせたことがあります。

「嫌い」なセグメントだけでは、役立つ情報は拾えないのですが、購買意欲が高い層にフォーカスできれば、具体的にどの部分が評価されていないのか、購買層の「声」が見えてきます。こういうチューニングも、いくつかのデータを合わせることで、かなりできるようになっています。

近藤:そうですね。あと最近出てきたのは、「こういうセグメントがほしいんだよね」と言われて、それは独自のデータを作るしかないですね、というケース。そういうリクエストもじわじわ増えています。

酒井:だからこそゲーム機のようにカセットの入れ替えが重要な時代になります。

カセットはたくさん持っておいたほうが楽しいしゲームも上手くなりますよね。でも、本体となるDMPが構築できていないとカセットがいくら豊富でも意味ないですからね。どれだけ自分たちにフィットしたデータを構築していけるかが、これからDMPを成功させる際のキーになってきます。電通がこれから何をやるのか、楽しみにしてます。今回はありがとうございました。