文学賞にも作品を応募。AI小説の意義とは
吉崎:2013年に始まった日本唯一の理系文学賞、日経「星新一賞」では、AIによる小説の応募も受け付けてきました。3回目の今回は、AIによる創作だと確認された作品が11点もあったそうです。松原教授のAI小説チーム「きまぐれ人工知能プロジェクト 作家ですのよ」からも2作品が応募。12年にスタートしたプロジェクトとのことですが、3年で応募に至ったのは驚きでした。そもそもなぜ、AIに小説を書かせようと考えられたのでしょうか。
松原:30年以上前からAIを研究してきて、「難しい問題をAIに解決させる」技術はかなり高いレベルまで到達しました。将棋や囲碁でプロに勝ったのがその例です。ただ一方で、知能には「新しく創造する」という面もあります。この分野の研究は進んでいませんでした。理由は、非常に難しいから。でも、そろそろこの分野に踏み込むべきだと考えました。
吉崎:プロジェクトでは、“ショートショートの名手”故星新一氏の小説スタイルの再現を目指していると聞いています。これはなぜでしょうか。
松原:実は、スタートのきっかけになったのが星さんのお嬢さま(星マリナ氏)でした。お話ししているときに「もし父が今も生きていたら、コンピューターに小説を書かせる物語で、ショートショートをつくるはず」とおっしゃったのです。その流れで「AIで小説をつくってみては」と提案されて。あらためて考えると、星さんの残したショートショートは分かりやすいオチがあり、時代背景や人間関係が複雑ではない。AIに適していると思えました。それで「星さんのような小説をつくるところから始めよう」と。星さんのショートショート作品のデータを分析して、それを基にAIが創作する形です。プロジェクト名も、星さんの名作『きまぐれロボット』『殺し屋ですのよ』から付けさせていただきました。
吉崎:又吉さんはAIが小説を書いたと聞いてどう思われましたか。
又吉:「もう書けたんか」という感じでしたね。驚きよりも「どういうものを書くんやろ」「どうやって書くんやろ」という興味が強かった。将棋や囲碁でAIが強いのはニュースで知っていましたが、文章となると、ある程度はできても、最後は人間が文法を直さないと難しいのではないかなと。
松原:そうですね。重要なところはまだ人間が補助しているのですが、文章をつくる部分に関してはAIでできるようになってきています。私たちの場合は、ストーリーのアイデアや枠組みを人間が与えて、それをAIが文章化する形ですね。役割分担はまだ、人間が8割、AIは2割という段階ですが。
(※詳しいAIの創作方法は、下部を参照)
吉崎:又吉さんは、どのような方法で小説を書くのでしょうか。
又吉:僕の場合は、まずは設定を決めます。その後は、見つけた言葉と相性のいい言葉がつながって物語ができていく形ですね。『火花』の場合は、書いていく中で登場人物のせりふを拾っていったら、どんどんそれが人物描写に反映されたんです。よく「勝手に登場人物が動きだす」といいますよね。これは作家によって意見が分かれるらしいのですが、僕の場合、『火花』のときもめちゃくちゃ動きだしました(笑)。