人工知能が小説を書く時代にNo.1
AIが小説を書く時代の「創作」とは
2016/04/26
人工知能(AI)が注目を集める今、結果がこのほど発表された文学賞、日経「星新一賞」に、AIによる小説が応募されました。文学という領域において、AIは一体どこまで進化しているのか。AIが小説を書く時代の「創作」はどのような姿になるのか。プロジェクトを推進する公立はこだて未来大の松原仁教授と、芥川賞作家でお笑い芸人の又吉直樹氏、電通の吉崎圭一氏が語り合いました。
文学賞にも作品を応募。AI小説の意義とは
吉崎:2013年に始まった日本唯一の理系文学賞、日経「星新一賞」では、AIによる小説の応募も受け付けてきました。3回目の今回は、AIによる創作だと確認された作品が11点もあったそうです。松原教授のAI小説チーム「きまぐれ人工知能プロジェクト 作家ですのよ」からも2作品が応募。12年にスタートしたプロジェクトとのことですが、3年で応募に至ったのは驚きでした。そもそもなぜ、AIに小説を書かせようと考えられたのでしょうか。
松原:30年以上前からAIを研究してきて、「難しい問題をAIに解決させる」技術はかなり高いレベルまで到達しました。将棋や囲碁でプロに勝ったのがその例です。ただ一方で、知能には「新しく創造する」という面もあります。この分野の研究は進んでいませんでした。理由は、非常に難しいから。でも、そろそろこの分野に踏み込むべきだと考えました。
吉崎:プロジェクトでは、“ショートショートの名手”故星新一氏の小説スタイルの再現を目指していると聞いています。これはなぜでしょうか。
松原:実は、スタートのきっかけになったのが星さんのお嬢さま(星マリナ氏)でした。お話ししているときに「もし父が今も生きていたら、コンピューターに小説を書かせる物語で、ショートショートをつくるはず」とおっしゃったのです。その流れで「AIで小説をつくってみては」と提案されて。あらためて考えると、星さんの残したショートショートは分かりやすいオチがあり、時代背景や人間関係が複雑ではない。AIに適していると思えました。それで「星さんのような小説をつくるところから始めよう」と。星さんのショートショート作品のデータを分析して、それを基にAIが創作する形です。プロジェクト名も、星さんの名作『きまぐれロボット』『殺し屋ですのよ』から付けさせていただきました。
吉崎:又吉さんはAIが小説を書いたと聞いてどう思われましたか。
又吉:「もう書けたんか」という感じでしたね。驚きよりも「どういうものを書くんやろ」「どうやって書くんやろ」という興味が強かった。将棋や囲碁でAIが強いのはニュースで知っていましたが、文章となると、ある程度はできても、最後は人間が文法を直さないと難しいのではないかなと。
松原:そうですね。重要なところはまだ人間が補助しているのですが、文章をつくる部分に関してはAIでできるようになってきています。私たちの場合は、ストーリーのアイデアや枠組みを人間が与えて、それをAIが文章化する形ですね。役割分担はまだ、人間が8割、AIは2割という段階ですが。
(※詳しいAIの創作方法は、下部を参照)
吉崎:又吉さんは、どのような方法で小説を書くのでしょうか。
又吉:僕の場合は、まずは設定を決めます。その後は、見つけた言葉と相性のいい言葉がつながって物語ができていく形ですね。『火花』の場合は、書いていく中で登場人物のせりふを拾っていったら、どんどんそれが人物描写に反映されたんです。よく「勝手に登場人物が動きだす」といいますよね。これは作家によって意見が分かれるらしいのですが、僕の場合、『火花』のときもめちゃくちゃ動きだしました(笑)。
AI特有の「ズレ」が研究の大きな鍵に
吉崎:今回はショートショートでしたが、中編・長編小説をAIが書くことも可能でしょうか。
松原:現段階だと、長い小説をAIにつくらせるのは難しいんですね。文章を連ねていくと、だんだんズレが生まれていく。同じAIが文章を書いているはずなのに、ちょっとずつ違和感が増していくんです。一文一文は意味が通っていても、同じ書き手のものとしてはズレを感じてしまう。
又吉:何でそういったズレが出てくるんですか。
松原:逆にいうと、なぜ人間はズレないのか…。そもそもAIはまだ文章のトーンや自分らしさをきちんと持っていません。いわば、文章が偶然の重なり合いでできている状態。なので、その偶然が違う方向にいくと、文体が変わってしまうんですね。
又吉:そのズレというか、文章が変わっていく破れ目みたいなものを生かすことができたら面白そうですけどね。例えば、好きな人にラブレターを送ることになってAIに書いてもらう。すると、前半の文章はええ感じやけど、最後は相手をののしるような文章になっているとか(笑)。AIがつくる小説はズレるかもしれないけど、その設定を人間がまた引き受けたら、今までつくれなかったものが生まれる可能性がある。もちろん、いつかAIだけで完全なものを書ける時が来るかもしれないですけど、この途中経過でも十分面白そうですよね。
▶︎「きまぐれ人工知能プロジェクト 作家ですのよ」の創作手法
故星新一氏は、関係のない単語やキーワードをいくつか組み合わせて、そこからショートショートのストーリーを練っていた。プロジェクトでは、この技法にAIで挑戦、試行錯誤した。松原教授は「落語の三題ばなしに近い」と表現する。現在は、1000を超える星作品をデータベース化。主人公の名前や設定、展開などをインプットし、AIがさまざまに組み合わせて文章化し小説としてアウトプットしていく。物語の大きな展開(序盤の状況説明や終盤にオチをつくるなど)は人間が与え、それに沿ってAIが創作する形。
今回の応募作品は、同プロジェクトサイト(www.fun.ac.jp/~kimagure_ai/)で公開している。