人工知能が小説を書く時代にNo.2
AIは小説を楽しめるのか?
2016/04/27
人工知能(AI)が注目を集める今、結果がこのほど発表された文学賞、日経「星新一賞」に、AIによる小説が応募されました。文学という領域において、AIは一体どこまで進化しているのか。AIが小説を書く時代の「創作」はどのような姿になるのか。プロジェクトを推進する公立はこだて未来大の松原仁教授、芥川賞作家でお笑い芸人の又吉直樹氏、電通の吉崎圭一氏による鼎談の後編です。
AIの特徴はランダム力。人間の創造性を高める期待も?
吉崎:AIの創作研究は他分野でも進んでいますよね。例えば音楽では、コンピューターの作曲とバッハの作品を聞かせて、どちらがバッハの曲かアンケートを取る。すると、コンピューターの書いた作品を「バッハの曲」と答える人が多かったという結果も出たりします。
松原:詩などの研究も進んでいて、過去の有名な詩のワードをたくさんインプットし、その中からコンピューターに組み合わせを任せる。すると、千に一つくらいは「おおっ」というものができます。音楽や詩は小説などより選択肢が少ないので、ランダムに選んでも成立しやすいし、「前衛的」といえば評価できないこともない。
又吉:もしコンピューターがランダムに言葉を選んで俳句や詩をつくったとして、ちゃんとした作品は少ないかもしれないですけど、一見微妙な作品も、作家が創作するヒントにはなりそうですよね。「あ、このワードとこのワードをぶつけて整えたら作品になる」とひらめいたり。そもそも全然違う単語をランダムに持ってきて発想するのは、人間が苦手な作業だと思うんです。無関係なものを持ってくる勇気ってないですから。何か意味を持たせてしまうというか。
松原:又吉さんがおっしゃるように、人間の創造性を高めるというか、補完するようにAIが働くというのは、ひとつのあるべき姿なのかなとは思いますね。
吉崎:又吉さんは、そういう形でAIが手伝うことについてどんなイメージを持ちますか。書いているときにAIが選択肢を出したらちょっと助かるとか。
又吉:選択肢を出してくれたら絶対助かるでしょうね。でも、アイデアを出す方法は、作家の方や芸人って独自に手に入れていると思うんです。新聞を読んでみるとか、辞書を開いて引っ掛かる単語を探すとか。それってアイデアのヒント探しですよね。作家の方がよく散歩するというのも同じで、音が聞こえたり、季節を感じたり、疲れてきたり、変化が起きるから、その変化に対する自分の反応として、いろんな発想が出てくるんでしょう。
吉崎:辞書を開いてみるのとコンピューターがランダムにワードを選ぶのはちょっと似ていますけど、作家の体が伴っているかどうかという違いがあるのでしょうね。
松原:多分そこが、作家の身体性というか特徴が作品に反映されるところで、何らかの変化からアイデアを考えても、やはり作家の作風や統一感が維持されている。一方で、AIは良くも悪くも本当にランダムなものを持ってくる。それが先ほどいった「ズレ」につながるのでしょう。
吉崎:人間には身体性があり、AIはランダム力がある。これは両者の明らかな違いといえそうですが、又吉さんとしては、ランダムの得意なAIが小説の世界に入ってくることには、嫌な感じはしないということでしょうか。
又吉:僕は本を読むのがすごく好きなので、むちゃくちゃ面白い物語ができて、それがAI小説だと聞いたら絶対読みます。興味があるし。極端な話、途中までめっちゃ面白くて、最後の50ページくらいが「あれ、これ夏目漱石の作品とまるまる一緒や」とか。そんなズレのある小説も面白いじゃないですか。もちろんそれは問題になるんですけど(笑)。いずれにせよ、僕はAI小説を読んでみたいと思いますね。
AIは小説を楽しめるのか? 未知の領域に踏み込んだAI
吉崎:アイデア出しの話などを聞いてみると、そもそも「なぜ人は小説を書くのか」という動機に行き着く気がします。又吉さんは、なぜ小説を書こうと思ったのですか。
又吉:僕も最初はそこが分からなくて…。出版社の方に「小説を書きませんか」と言われたとき、「僕が書く理由を教えてください」とお願いしたくらいで(笑)。素晴らしい作家さんはたくさんいますから。そしたら、他の作家とは違う体験をしてきているし、芸人という立ち位置からしても「僕にしか書かれへんものがある」と説明いただいて。ずっと言ってくれたので、だんだんそうなのかなと思ってきて(笑)。
吉崎:書く側になりたい、表現する側になりたいという思いはいつからあったのですか。
又吉:子どものころからですね。ダジャレでも何でも、思いついたら人前で言ってみたいとか、反応を見たいとか。それが芸人になるきっかけなんですけど、小説などの創作活動も一緒なので、他の仕事に就いていても何かやっていたと思います。だから実際に小説を書いてみて、書いている時間は楽しかったんですけど、書いた後、すごい褒められたり文句言われたりするので、しんどいんですよね(笑)。こんなに注目浴びるとは思いませんでしたし…。
松原:そういった観点では、AIはまだ自分の作品が分かっていない。書く動機があって面白さを理解しているわけではないんです。小説の最後にオチがあるのも、人間がプログラムで枠組みを与えているから。AI自体はオチていることを意識していないんですね。理想的なのは、途中の展開部分を考えるときにも、いろいろな選択肢の中で「これなら一番楽しい」とAIが選べる形。AI自体がその筋を一番楽しい、面白いと思って選択できて、それが周りの評価と一致することです。
吉崎:それでいうと、AIが小説を読んで、面白いと思えるかどうかは大きなことですね。
松原:そうですね。私たちのプロジェクトでいえば、数百というパターンの筋が考えられる中で、どれが最も“星さんらしい作品か”を、AIが選ぶ。実はそういった研究もしていて、例えば星さんの作品を読み込みながら、「星さんらしさ」の関数を定義する。そして、AIがつくった作品にAI自らが点数を付けて、より星さんらしい作品を選ぶ。今後はこれを実現したいと考えています。
吉崎:実現したら大きく前に進みますね。
松原:あとは、そうして出来上がった作品を皆さんが「いい小説」と言ってくれるかどうか。「いい小説」の定義は難しく、将棋や囲碁のように「勝つ」という明確な答えがない。今までAIは良しあしの分かるものを開発していたけれど、その先の「良しあしが分からないもの」に足を踏み入れたということです。
新たな創作スタイル誕生の予感。将来はAIと作家が共同するかも?
吉崎:AI小説の研究は今後どういった方向に進んでいくでしょうか。
松原:とりあえず今のプロジェクトについては、もっと人間の関与を減らしたAIのショートショートをつくるという目標があります。理想のゴールは、その作品で日経「星新一賞」に入賞すること。ただ、そこまでいかなくても、われわれが一定のレベルだと思う作品をつくる地点まではいきたいですね。あとは、まだ短編でも文章のトーンがズレるんですけど、それをなくすか生かすか分かりませんが、中編・長編にチャレンジしていきたいですね。また、小松左京さんのご遺族からも作品データを頂いていて、星さんと同じような形で分析、作品化を目指しています。しかも、小松さんの未完作品『虚無回廊』を「将来、AIで書きつないでください」と言っていただいて。それは非常に難しく先の長い話なんですけど、そういうAI小説の形もあるかなと。
又吉:それができたらすごいなあ。宮沢賢治の『銀河鉄道の夜』や、夏目漱石の『明暗』など、未完の作品は多いですしね。
吉崎:「AIとの共同作業が上手な人」という、新しい創作者が生まれるかもしれませんよね。実はスマホも、記憶力などを補っているという意味ですでに体の一部ですから。
松原:作家の小説創作を支援するという意味では、現時点でも十分機能していけるということですね。
又吉:僕は、小説をAIが書くというのはすごく面白いと思いました。小説を書く人の中には、AIと一緒に考えると効率が上がるというような、新たなスタイルが出てくるかもしれません。今後も楽しみにしています。
▶︎「きまぐれ人工知能プロジェクト 作家ですのよ」の創作手法
故星新一氏は、関係のない単語やキーワードをいくつか組み合わせて、そこからショートショートのストーリーを練っていた。プロジェクトでは、この技法にAIで挑戦、試行錯誤した。松原教授は「落語の三題ばなしに近い」と表現する。現在は、1000を超える星作品をデータベース化。主人公の名前や設定、展開などをインプットし、AIがさまざまに組み合わせて文章化し小説としてアウトプットしていく。物語の大きな展開(序盤の状況説明や終盤にオチをつくるなど)は人間が与え、それに沿ってAIが創作する形。
今回の応募作品は、同プロジェクトサイト(www.fun.ac.jp/~kimagure_ai/)で公開している。