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Experience Driven ShowcaseNo.63

心理学は、もっとビジネスに活用できる!:DaiGo(前編)

2016/05/09

「会いたい人に、会いに行く!」第7弾は、メンタリストのDaiGoさんに、電通イベント&スペース・デザイン局の日塔史さんが会いました。最近では心理学の知見を活用して、ビジネス開発や企業のコンサルティングも行っているDaiGoさん。日塔さんは自らが興味ある人工知能研究や、「体験価値向上」のためのコミュニケーション戦略をメンタリズムとコネクトする可能性を探ってきました。

取材構成:金原亜紀 電通イベント&スペース・デザイン局
(左より)日塔氏、DaiGo氏
 

 

人生の目的は「知識の最大化」

日塔:僕は人工知能をテーマにしたプロジェクトチームをつくったり、今は電通イベント&スペース・デザイン局エクスペリエンス・テクノロジー部という部署で、イベントや空間の体験価値を上げるテクノロジー施策を模索中です。

DaiGoさんに会いたかった理由は4点あります。まず、人工知能を研究されていたというところ。そして、リアルな体験価値の実践をされているところです。3番目としては、サブリミナルというかサブコンシャスというか、メンタリストとして潜在意識の強さを知っているところ。もう一つ、DaiGoさんはさまざまな学術論文をたくさん読まれているので、ビジネスとアカデミズムの領域で、電通の仕事とも接点があるとうれしいなと思っています。

DaiGo:なるほど。僕の人生の目的は「知識の最大化」で、本をひたすら読むだけで生きていきたいと、もともと考えていました。まず大学のとき最初に決めたことは何かというと、就活をしないと決めた。だから大学に残って研究するか、自分で何かやるしかないと思ったのです。
大学では最近もてはやされているアルゴリズム系の研究ではなくて、材料科学、マテリアルサイエンスを学んで金属の研究をしていました。磁性体の研究ですね。

日塔:金属ですか、へーっ!

DaiGo:僕が慶応の理工学部で研究していたスピングラスという金属は、磁性体と非磁性体が混在している。普通は磁石というのは上を向いているか下を向いているかの作用だけなので、0と1の値しかとれない。ところがスピングラスの場合は、立体的な箱の中にマンガンの粒がいっぱい入っているような状態で、磁石がいろんな方向を向いているから無数の値をとれる。

二値記憶、四つ磁石が並んでいた場合は、2通り×2通り×2通り×2通りなので、16通りの情報しか記録できませんよね。ところがスピングラスの場合は、理論上はあらゆる方向の原子のスピンがとれる。つまり記憶容量が無限なんです。それを「多値記憶」と言います。

もう一つの面白い特徴は、ネットワーク記憶という性質で、磁性体のマンガン一個一個が、相互作用で結び付いている。マンガンの原子を他の方向に無理やりピュッと動かすと、一つが動いたことによって、他の原子も、くるんくるんと動くのです。それを「スピン相互作用」と言います。同じようなエネルギー構造を数学的に持っているのが、ニューラルネットワークです。

日塔:なるほど、これの数理モデルがニューラルネットワーク。

DaiGo:つまり人間の脳みたいに考える人工知能として、応用できるんじゃないかと言われていた。今はいろんな問題があって、このままじゃ難しいだろうとなっていますが。ただ、人間のニューロンも、電気信号が入ってきたら、基本的には次に電気を伝えるか伝えないかという選択だけじゃないですか。それが複雑なネットワークをつくっているから、本来は磁石と同じ構造です、人間の脳は。それが三次元で結び付いていくことによって、人間の個性をつくっているのです。

 

電脳をつくって、自分を移植してみたかった

DaiGo:でも、もともとは人工知能がつくりたいというより、アニメの「攻殻機動隊」が大好きで、今日も家を出るまで、攻殻機動隊のパーカーを着てこようか迷っていたくらいなんです(笑)。

日塔:攻殻機動隊をお好きなんですか! 今、「攻殻機動隊 REALIZE PROJECT」というのがあって、その立ち上げを少しだけお手伝いさせて頂きました。

DaiGo:僕は、攻殻機動隊を見て「電脳をつくろう」と思ったのです。自分の脳をそこに移しちゃおうと。子どもの頃からやりたいことがいっぱいあったので、100年ぐらい生きたとしても、死ぬまでにやりたいことを全然達成できないから、電脳に自分を移しちゃって体を義体化すればそれでいいと思っていました。

今も同じようなことを考えています。僕はたくさん新しい知識を手に入れることが好きなので、死なないでずっと電脳の中でいろんなことを知ることができたら、もうそれでいいやというのがあって。電脳をつくりたいから、大学では材料系の研究室に入ったのです。

日塔:人工知能の研究者と話をすると、もうでき上がったものじゃなくて、まだでき上がってないものを彼らは追求しているわけです。実現したものは、人工知能じゃないと言われてしまう。裏が分かっちゃうからということだと思うのですが。マンガンの性質を利用した新素材によって現在のハードディスクの仕組みではなく、無限のストレージをもつデバイスみたいなものをつくろうとしていたということですか。

DaiGo:そうですね。今の人工知能というのは、「人間のように動く」機械ですよね。そうじゃなくて、僕は「人間の心を入れる箱」をつくりたかったのです。

東北大の金属材料研究所というところの齊藤英治教授は、もともとは慶応の先生で僕はその研究室に入りたかったんですけど、僕が入る年に東北大学に行かれてしまった。先生の話で一番好きなのは、僕らが分かっている物理学というのは、真空の物理学だと。空気中はほとんど真空と同じなので、物理法則はコントロールできない。でも適切な系、金属、材料の中の物理法則というのは、材料さえちゃんとデザインすればコントロールできると。だから僕らは物理法則を操ることができるんだという話に、僕はすごく感動した。

日塔:なるほど。DaiGoさんがテレビ番組の「ソロモン流」に出演されたとき、物理的に自分の脳の意識をデバイスに移したいとおっしゃっていました。そのようなマインドアップロードは本当に可能だと思いますか。

DaiGo:まず僕が、普通の研究者や、ビジネスをやられる方と一番違うのは、できるかどうかあまり考えないことです。やりたいことを決めて、どうやったらできるかを考え続けていく。

日塔:できるかどうか自体は、問題じゃないということですね。

DaiGo:そうです。だって、やりたいことをできなかったら、僕は生きている意味がなくなっちゃいますから。自分の夢が実現しない世界に生き残る意味はありますかといったら、ないと思う。逆にできないと思わないようにしています。

 

心理学を、エンターテインメントよりは、ビジネスや人のために使いたい

DaiGo:純粋なメンタリスト、心理学を使ったり統計学を利用したりするメンタリストは、できることが非常に限られます。例えばものを当てる場合でも、ペンとか色を当てたりするのも、8色ぐらいが限度なのです。ダレン・ブラウン(※1)みたいに何百ある色の中から当てたりはできない。

※1「ダレン・ブラウン」
イギリスのメンタリスト。2000年頃からテレビ番組で活躍し始め、怪しさのつきまとうメンタリズムの世界に科学を持ち込み、裏のテクニックを公開するスタイルで衝撃を与えた。

 

日塔:ダレン・ブラウンはそれができるんですか。

DaiGo:彼はエンターテイナーだから、トリックも使えるので。でも僕はトリックは面白くないしやりたくない。僕は心理学をエンターテインメントではなく、ビジネスや人のためになるところで使いたいのです。

「アナザースカイ」というテレビ番組に出させてもらって、オックスフォード大学を訪ねたのですが、普通は学生以外入れないところも全部入れてもらえて、それで僕はもう完全に感化されてしまって。オックスフォードでインタビューしたのがエレーヌ・フォックスさんという、元エセックス大学で最大規模の脳科学心理学研究センターをつくった人で、その方が「遺伝子と心理学」という研究をしていまして。つまり人間の心理を決めている遺伝子は何なのかという研究です。

レイニーブレーン、サニーブレーンと言われているのですが、ポジティブな人とネガティブな人の違いは何なのかというと、セロトニントランスポーター遺伝子という、気分を安定させるセロトニンの再回収をつかさどる遺伝子の違いなのです。

実は僕、ジェネシスヘルスケア(※2)という遺伝子検査会社の顧問もやっているんですが、オックスフォードから帰ってきてすぐ来た仕事が、その会社のPRの仕事だったので驚きました。マイセルフという遺伝子検査があって、日本で唯一だと思うんですが、性格を分析してくれる遺伝子検査キットです。

※2「ジェネシスヘルスケア株式会社」
日本における遺伝子研究及び解析に特化した検査会社(民間及び医療向け)の最大手。http://genesis-healthcare.jp/

 

基本的には、日本の遺伝子検査会社は、パテントなどの関係で、日本で唾液を取って、それをアメリカに送るのです。でもこの会社は、研究所を千葉に持っていて、国内で全部検査できます。顧問としては新しい商品を出すときにどういうふうな出し方をすればいいかとか、ネット広告をつくるときに心理学を利用してどういうコピーや色を使うと反応率が上がるかをアドバイスしています。

また、イグニスという会社で「with」(※3)というマッチングサービスをやっています。今までのマッチングサービスは年収とか見た目で人をマッチングさせるんですが、「with」は心理学を利用して、気が合う人や感性が合う人をマッチングさせるものです。

※3「with」
DaiGo氏の監修の下、心理学や統計学の手法を応用することで、従来の機械的なマッチングでは提供できないユーザー体験を目指してイグニスが開発したマッチングサービス。https://with.is/

 

<後編につづく>