Experience Driven ShowcaseNo.64
心理学は、もっとビジネスに活用できる!:DaiGo(後編)
2016/05/10
「会いたい人に、会いに行く!」第7弾は、メンタリストのDaiGoさんに、電通イベント&スペース・デザイン局の日塔史さんが会いました。最近では心理学の知見を活用して、ビジネス開発や企業のコンサルティングも行っているDaiGoさん。日塔さんは自らが興味ある人工知能研究や、「体験価値向上」のためのコミュニケーション戦略をメンタリズムとコネクトする可能性を探ってきました。
取材構成:金原亜紀 電通イベント&スペース・デザイン局
「自分の見たい世界」を見せるサービスをつくる
日塔:DaiGoさんがメンタリズムをパフォーマンスするに当たって、視覚とか聴覚とか、いろんな感覚を駆使されていますよね。
DaiGo:確かに視覚的なものはすごく大事だと思います。結局メンタリズムというのは、もともと目に見えないもの、形にならないものという意味なのです。心という形がないものを形にしなくちゃいけない。心理戦をしたりとか、人の心を読むパフォーマンスをやったりすることによって、「心を見られた」と感じさせるのがパフォーマンスの骨子なので。
日塔:五感と言いますけど、感覚は連動しているので「いまこの感覚だけを使っている」というのは難しいですね。
DaiGo:体験を高めるために、視覚を使った方がいいとか、聴覚を使った方がいいとか分解する人たちがいるんですが、結局楽しいときというのはフロー状態に入って没頭していて、行動に感覚や全ての注意が向いているから、今自分が楽しんでいるという感覚すらないわけですよ。後から思い返してみてはじめて楽しいという。
日塔:人工知能で人間の感覚器官が拡張されていくようなイメージを持っています。僕たちがびっくりするようなDaiGoさんのテクニックも、もしかして誰でも使えるような機械でできるようになったりとか、さらにはそれを応用して社会に役立つようなソリューションにできるといいなと思って。
DaiGo:それはできると思いますよ。ところが人間は、特に心理に関する分析に関しては、正確な分析を求めている人はほとんどいない(笑)。理由は簡単で、みんな自分の見たい世界だけを見たいのです。聞きたいことしか聞きたくない。だから結局、見たい世界を見せてあげるというのが、僕がサービスをつくるときに考えるやり方です。簡単に言ったら、超甘い言葉にするということですね。そういう文章の書き方を人工知能に学ばせる。
昔イギリスにサイキックダイヤルというサービスがあって、簡単に言うと、オペレーターがいっぱいいて、オペレーターの横にカードがたくさん置いてあるんです。相談者の情報を何歳とか、結婚をしている、していないとか聞いて、聞くたびにカードを1枚ずつ手にとっていく。何個か聞いたら、あとはオペレーターが上からカードを読み上げるだけ。そうすると、いわゆる心を読まれている、霊能力者に自分の未来を教えてもらったという感覚を与えることができるサービスです。めちゃくちゃもうかったらしいけれど、それの人工知能版は多分できますね。
「人間って地球に必要ないんじゃない?」と人工知能に言われたら
DaiGo:人は、自分よりもすばらしい生物というか、意識体というか、人工知能というものをつくって消えていくんじゃないかな。子どもを求めなくなる夫婦も出てくると思いますよ。僕が遺伝子検査ビジネスをやっていて思うのは、例えば夫婦の遺伝子を取り出して、その遺伝子をランダムに合成して、子どもになり得る人の遺伝子データをつくったとしますよね。そこから性格の遺伝子にフィーチャーして、子どもの性格をつくって機械化して、それをロボットという形で子どもとして生まれさせて、擬似的に育てていく。
病気もしないし文句も言わないし、食事も求めない。でもそれは、遺伝情報が伝わっているという意味では、生きているわけですよ。遺伝子を残すという意味では。それは生物として何か問題あるの?ということ。人間は結局、便利さには勝てないのです。最初はいろんな人が文句言いますけど。
日塔:確かに。
DaiGo:もちろん未完成な人工知能だった場合は問題ですよ。ところが完成された人工知能が代行してくれたら、みんなそれを求めると思います、最終的に代行した先にあるのは、意思決定そのものの代行に行きつくので、人工知能が感情的な判断もできるようになったら、まさに映画「ターミネーター」のスカイネットの世界ですよね。
日塔:やばいですねえ。
DaiGo:「人間って地球に必要ないんじゃない?」って人工知能に思われたら終わりですよ(笑)。
DaiGo:僕はさっきもお話しした通り、電脳に自分の心を乗り換えたいと思っているので、どちらかというと宇宙派の方ですね。
日塔:マインドをアップロードされたときに、自分自身の意識の連続性とか、もしかしたらコピーができてしまうことはどう思いますか。
DaiGo:全く同じコピーをつくったときに、自分を自分たらしめるものが何かこっち側に残ったら、多分それが魂というやつなんだと思うんですけど。攻殻機動隊的に言えば、ゴーストというやつですね。ただ、コピーしてみないと実際どうなるのかはわからない。例えば人って、頭をポンとたたかれたら、脳細胞が100個死ぬとか、200個死ぬとか言うじゃないですか。
日塔:言いますね。
DaiGo:でも、無数にあるので、それぐらい死んでも全然問題ない。それと同じことになるんじゃないかと思います。つまり今までは、ニューロン一個一個というのを僕らは意識しないし、それが死んだところで自分の人格は壊れないじゃないですか。自分を自分として保てる。コピー一個一個がニューロンのような役割を果たすような状態になってしまったら、その一つが死んだり失われたりしたときに、自我というものは消えてなくなるの?ということ。
日塔:人工知能の世界ではエージェントという考え方がモデルとしてあります。マーヴィン・ミンスキー(※1)が「心の社会」というのを書いていて、人間の心の機構はインプットとアウトプットで自立するいろんなエージェントの集合体であると。細胞の話と似ていますよね。だから、僕たちは同時にいろんな判断を、いろんな側面でしています。五感もいろいろあって、何かを食べて熱いと思っているけど、同時に甘いと思っていたりする。
※1「マーヴィン・ミンスキー」
アメリカの科学者。MITの人工知能研究所の創設者で、「AIの父」として知られている。本年1月に死去(88歳)。
DaiGo:コンピューター画面に他の人の見ている視点がずっと映っていたとしても、自分は自分で別に保てるじゃないですか。そもそも心脳問題になっちゃいますが、意識が何なのか、どこに宿るかということがまだ分かっていないですけれど。自分のコピーをつくって、いまいちぴんとこなかったら、何かうまくいかなかったねと剥がせばいいんですよ。
心理学のエビデンスを、誰もきちんと試していない
日塔:DaiGoさんは実学としてのメンタリズムをされたいとおっしゃっていて、広告やマーケティングとも非常に親和性が高いと思いますけれど、メンタリズムがコミュニケーションに与える可能性をどう考えていますか。
DaiGo:メンタリズム自体は、これだと決まったものがあるわけではない。僕は心理学を多用したり統計的な技術を使ったり、話術を使ったり、あらゆる行動を使って相手の心を動かしたい。心を読んだり推定したりするのがメンタリズムの骨子なので、僕は心理学をビジネスで使う、学問的にわかっていることを実際の社会で使うというのをやっていきたいで す。
僕は「心理学ほどもうかる学問はないだろう」といつも言っているんですけれど、多くの人は「心理学科に入ったら職がない」とか言うんですよ。臨床心理士くらいしか職業がないとか。それは違います。使い方を考えるのが重要だと思いますね。
日塔:確かに、飲み会のネタに終わっちゃうみたいに思ってしまうのは、メンタリズムの威力の割にはもったいないですね。
DaiGo:誰もきちんと試してないからなんです。数字で成果が出るんですよ、全部。だから、ちゃんと数字で戦えばいいと思いますよ。
例えばある本で、車内広告を出すときに2種類出したんです、広告の効果が測れるように。QRコードとURLを出して、そこから動画のダウンロードができるようにした。反応率を測ったら、出版社側が彼らの経験に基づいてつくった広告に比べて、僕が心理学的なセオリーにのっとって科学的につくった広告は、効果に52.6倍の差が出たんです。
日塔:52.6倍!ABテストみたいな話と思いますが、極端な差ですね。
DaiGo:比べものにならないじゃないですか。数字の事実を認めていかないといけないと思う。つまり今までは、人工知能というのは決められたことしかできなかったんですね。それがディープラーニングの技術が発達することによって学ぶことも覚えた。自己進化するようになっている。
じゃあ人間はどうなったといったら、逆なんですよ。つまり経験でせっかく学べるのに、だんだん年をとってくると一貫性が働くようになっちゃうから自分自身の枠を超えられない。だから自分が言っていることが正しいと思い込んで学ばなくなるんです。未来は輪をかけて人工知能が学びの部分をやってくれるから、人間はどんどん年寄り化していきます。そうなれば本当に、人工知能に駆逐されて終わると思いますよ。
日塔:なるほど。確かにそうですね。心ってつい、自分で分かった気になれちゃうのが恐ろしいですね。
DaiGo:僕は自分の直感というか感覚を信じていない男なので、エビデンスはあるのかなというのを、どんなことであってもまず常に調べますね。
日塔:過去の常識だけにとらわれると、どんどん縮小均衡していっちゃいますからね。「アルファ碁」がよい例と思いますが、ディープラーニングなどをうまく使っていけば、縮小均衡ではなくて能力や判断の可能性、正確性を拡大していける。今日はとても面白かったです。本当にありがとうございました。
<了>