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オフィスポNo.8

新しい電通の仕事:『仕事場』をデザインする(前編)

2016/04/27

「日本は“ストレス先進国”なのに、ブレークタイムの使い方に関しては“後進国”」。そう語る電通の奥村誠浩さんが中心となり現在提唱しているのが、昼休みなどの休憩時にオフィスで運動を楽しむ「オフィスポ」。その活動に共感し、ともに普及活動をしているBUTAI PROJECT齋藤圭祐さんとともに、「オフィスポ」誕生の経緯から実現したい未来について語り合いました。

スポーツでオフィスが変わる?

――まず、「オフィスポ」が誕生した経緯から教えてください。

奥村:最近、「ワークライフバランス」という言葉がよく使われています。でも、人生の半分以上の時間を“ワーク”に費やしている人も多いと思うんです。

齋藤:日本の場合は特にそうですよね。

奥村:実質、ライフ=ワーク。となると、仕事(ワーク)が楽しくないと人生(ライフ)も楽しくないといえます。なのに、日本の社会はストレスフルでなかなか仕事を楽しめるような環境ではありません。そうした状況を改善したいという思いから誕生したのが、仕事のブレークタイム中に手軽な運動を楽しむ「オフィスポ」です。

齋藤:現代は表面に見えない、潜在的なうつ病が増えています。自覚症状もないから、気付いたときには重症化して退職、ということもよくあります。

奥村:それはすごく悲しいことです。

齋藤:そうですね。

奥村:もしかしたら自分が仕事でイライラしていて、その負のオーラが周りの誰かにとって、ストレスになった可能性だってありますから。

齋藤:確かにそうですね。他人のイライラが自分にまで伝染して気分がめいった経験は、僕もあります。

奥村:同じような経験が自分にもあるから、他人に対しても負のオーラを発しても大丈夫だろうと、自分本位になっていることもあると思うんです。

齋藤:本当は、いつもみんなで仲良く楽しく働ければいいんでしょうけど、決して簡単ではないですよね。自分が一番大事、という感情に走ってしまう瞬間も絶対あるでしょうし。

奥村:そうなんですよ。じゃあ、その中で、どうやってメンタルバランスを取るのかという課題が出てきます。そんなときに、僕は元々チームスポーツをやっていた人間なので、「スポーツが問題解決の糸口になるかも」と思ったんです。

齋藤:体を動かすとストレス発散になりますし、ひとつのことをみんなで行うと一体感も生まれますよね。仕事以外の共通話題ができるって大切かなと。

奥村:ええ。決して、オフィスポで全てを解決しようと考えているわけではなくて、「オフィスポがブレークタイムの在り方を考える“きっかけ”」になってくれればいいと思ってるんです。

秘訣は「ハードルを下げる」こと

――ストレスチェックの義務化も、「オフィスポ」普及の追い風になっている印象です。

齋藤:行政が、現代人が抱えるストレスについてより問題意識を持って動き始めたという意味では、ひとつスイッチが押された感じはしますよね。

奥村:最近は“健康経営”という言葉があります。これは、従業員の健康管理を経営課題として捉えることで、会社の生産性を向上させるという考え方なんですが、まだまだ浸透していないな、というのが個人的な印象です。健康経営が広がれば、もっとオフィスポも自然と広がっていくと期待しています。

齋藤:そうですね。あと奥村さんともよく話しますけど、企業として健康経営を目的として動いてしまっていないかなと。本来、企業は業績を上げつづけ、イノベーションを創りつづけることが軸にあるはずです。表層的な健康施策は、目的がズレて、逆に従業員が疲弊する恐れあります。

奥村:そうですね。健康経営という言葉を知っていても、社内で実践されるのは啓発イベントだったりすることもありますよね。

齋藤:堅めのセミナーだったりとか。そうなると、例えば若手の営業マンとかはやっぱり興味を持てないですよ。オフィスポはそこをすごくシンプルに、ピュアで気軽なものとして提供しているのが魅力だと思います。

奥村:例えばヨガだったり、ピラティスだったり、基本的には年齢・性別問わず、誰もが参加できるものを用意しています。あえて敷居は低く設定しています。

齋藤:気軽に参加してもらうには、絶対その方がいいなと僕自身も感じています。「オフィスポをすると、科学的にこんないいことがあって、実際のデータでも…」ではなく、「なんか楽しそう」と思ってもらえることが大切です。

奥村:そうですね。「え? 会議室でサンドバッグ蹴っちゃうの?」とか、そういうインパクトは大切にしたいですね。

齋藤:そのインパクトが、まずは一度試してもらうためのフックにもなりますしね。

奥村:ええ。ストレスへの問題意識をもっと強く持たなければいけないはずなのに、なかなか社会は変わっていません。そのためにはまず、行動を起こして、周囲の意識を変革していく必要がある。ストレスチェックの義務化も健康経営も、会社の人事部や総務部の人でさえ知らないなんてことが多々あります。となると、そのためのソリューションを提供している会社なんて、もっと知られていないわけです。

齋藤:そうですね。アクションが起きやすいライトなものと、企業としてエビデンスをつくるカチッとしたもの、このサンドイッチがいいかなと思います。両方ないと困ってしまいますからね。でもまずはやはりスイッチを押すきっかけづくりかな。

奥村:働いている人たちがやってみたいと思えるものでないと、意味はないし、利用されません。だから、一見遊んでいるように見えて実はすごくいいことでした、というのが理想。理解されるまでには時間はかかるかもしれませんが。続ける中で、齋藤さんのように共感してくれる仲間やトライアル的にオフィスポを実施してくれた企業も出てきました。これは本当にうれしいことです。

――齋藤さんはなぜ、オフィスポの普及に携わろうと思ったのですか?

齋藤:ひとつはオフィスポの必要性を僕自身が身をもって感じているからです。会社員時代、非常に忙しい時期があり、朝9時から深夜まで働くという期間が半年以上も続いたことがあったんです。

奥村:そうなってくると、体もそうだけど、メンタルも疲弊してきますよね。

齋藤:ええ。僕の場合はまず、週末に家から出られなくなって、朝も起きられない、むしろ起きたくないという感じになり、「あ、これマズいかも」という感覚がありました。そこで僕は無理矢理、夜中にジムに行ったり、近所でヨガを習ったりという自分の時間をつくるようにした。それが気分転換になったし、自分のことを振り返る機会にもなった。

奥村:運動が脳やメンタルに与える影響ってありますからね。

齋藤:心のモヤモヤが消える気がします。忙しいときほど、逆に無理矢理にでも体を動かした方がいい、というのが僕の実感としてあります。思考を一旦自分から切り離して、すこし上からみる隙間をつくる感じ。その時間を会社の取り組みとして社員に提供できる。それがオフィスポです。

奥村:そうですね。

齋藤:もうひとつは、僕は結構「オフィスポが突破口になる」という可能性もあると思っています。今展開しているBUTAI PROJECTも“教育”と“健康”をキーワードにして動いたんですが、どうして堅くまじめなほうに向かってしまう。そうすると関わってくれる人の業種も限られる。オフィスポなら、それをキーに色んな人が集える可能性はあるなって。

奥村:オフィスポはウェブ動画にある「◯◯やってみた」くらいの気軽なものです。役職のある人もない人も一緒になって体験することで、同じ気持ちを共有できるので、自然と会話も増えるんですよ。

齋藤:実際に参加した人たちの満足度も総じて高いですよね。

奥村:そうですね。キクササイズをしたときは、「キックボクシングの試合を生で見たくなった」という人もいました。感想は人それぞれなんでしょうけど、笑顔でオフィスポ体験を終えるのを見るのは僕もすごくうれしいですね。

[後編に続く]