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オフィスポNo.9

新しい電通の仕事:『仕事場』をデザインする(後編)

2016/04/28

運動をするとリフレッシュできる。このことに明確な根拠はないが、異論を唱える人は少ないだろう。「オフィスポ」を通じてブレークタイムに軽度の運動を行えば、気分をリフレッシュできるのはもちろん、仕事の効率化、さらには社内コミュニケーションも活性化することができる。今回、「オフィスポ」の発案者である電通・奥村誠浩さんと、その活動に共感し、ともに普及活動をしているBUTAI PROJECT齋藤圭祐さんが改めて「オフィスポ」について語り合った。
[前編はこちら]

会議室がトップアスリートとの出会いの場に

――オフィスポには、「活動を通じてマイナースポーツで活躍する選手たちを応援する」という側面もあるそうですね。

奥村:日本には世界で活躍するマイナースポーツの選手が多くいるんです。例えば、フリーダイビングの世界歴代3位の記録保持者である岡本美鈴さん。彼女のことを知っている人は残念ながら少ないと思います。また、スポーツスタッキングという競技の世界チャンピオンも瀬尾剛さんという方です。彼らはいわば、まだ知られてないスーパースター。彼らと交流を深める中で、オフィスポにマイナースポーツの存在は欠かせないと感じるようになりました。

齋藤:そうですよね。キクササイズを行ったときには女性のムエタイ選手をお招きしました。すると参加者から「次はいつ試合あるんですか?見に行きたい!」など声が出てくる。オフィスポを通じて、マイナースポーツのことを知ってもらえるというのは、すごくいい機会になりますよね。

奥村:一度指導を受ければ、応援したくなるものですし、そういう輪が広がっていくといいなと思っています。

齋藤:僕は友人に、アイススレッジホッケーのパラリンピック銀メダリストの選手がいます。彼の車いすのテクニックや腕の力には驚きますよ。それ以上に行動力が並じゃないのですが(笑)。以前、ブラインドサッカーの体験会に参加したときも、目の見えないはずの選手が「そこの方はこっちに」とか指示を出すんです。視覚以外の感覚で人の位置を認識してファシリテートし、これはすごい空間認識能力だなと思いましたね。そしてそれを目撃した瞬間から、すごい!かっこいい!ってなるんです。他の参加者の彼らを見る目は一変します。

奥村:本当にそうですね。企業にとっても、障がいを持つ方への理解を深めることは大切で、そういった機会を求めているニーズはあるはずなんです。

齋藤:ちょっと距離があると思っている人は多いかもしれないですね。僕の場合は体験から始まって、友人になり、彼らと普通に飲みに行ったりもする距離感だから、余計にそう感じます。

奥村:それはあるかもしれないですね。もっとカジュアルに彼らと触れ合える場を提供することも、「オフィスポ」にとって重要なミッションだと思います。

健康をデザインする

――オフィスポは「予防医学」の一種と考えてもいいのでしょうか?

奥村:はい。領域としては、予防医学の範疇だと思います。これまで専門家しかいなかったこのフィールドに、僕らのような素人が足を踏み入れた。そこに意義があると思っています。

齋藤:それはありますよね。

奥村:“オフィスポ”という言葉を生み出したことで、齋藤さんのように興味や関心を持ってくれる人も多く現れました。ストレスという問題を日本社会が抱えているのに、それを解決する体制が整備されていない現状があります。ニーズはあるはずなのに、それが満たされていないことに違和感を覚えているのは自分だけはない、そのことを今回、再認識することができました。

――異業種から予防医学の分野に参入することで、何か状況は変わりそうですか?

奥村:日本の企業の体質は昨日今日でできたものではないですから、そう簡単に何かが大きく変わるというのは難しいと思います。企業には社員も含め、守るべきものがたくさんありますから。業績も伸ばさなくてはいけませんし、株主とも向き合わなければいけません。オフィスポを実践するには、費用対効果を検討する必要もあります。

齋藤:ブレークタイムに、会議室で気分転換に運動する。本当はシンプルなんですけどね。

奥村:そういう意味でいうと、まずはマインドから変えていけたらいいですよね。オフィスポに共感してくれる企業が増えることで、「ブレークタイムの在り方を多くの企業が考える」ようになる。そうなれば、何か変化が起きるかもしれません。

齋藤:ブレークタイムの過ごし方によって生産性が変化する、という共通認識も生まれるといいですね。

奥村:それも僕らみたいな異業種だからこそ、自由な提案ができる部分もあると思います。科学的なデータを持ち出すのではなく、「楽しいし、気持ちいいですよ」という理由で企業に持ち込むことを許される。オフィスポの活動が成功するかどうかはまだ分かりませんが、行動なくしてイノベーションはありえません。まずは活動を続けること、そこに意義があると思っています。

齋藤:そうですね。僕も、オフィスポが何かのきっかけになれば、という思いは強いですね。

奥村:自分も含めやっぱり「ライフ=ワーク」という人が多いのが現実なので、仕事もそうですけど、オフィスに愛着が持てるといいなと思うんです。オフィスにいる時間を笑顔で過ごせる。そうなれば、毎日はもっと楽しくなりますよね。オフィスポは気軽に参加できて、全員でとても楽しい時間を過ごせるので、一度体験してもらえれば、仕事場でも簡単に笑顔はつくれるということを実感してもらえると思います。

齋藤:僕は、究極的には人として「不健康でも、豊かである」ことなんじゃないかなって。健康でないと豊かになれないのかというと、そうではないと思います。体であれ、心であれ、不健康な部分を誰しもが持っています。それでも自分の意志でアクションして、納得したことを積み重ねていけば人は豊かになれるはずなんです。。オフィスポはそのきっかけとなること、「ブレークタイムを通じて、自分自身を振り返る」ということをカラダで気付かせてくれます。それも魅力のひとつだと感じています。

奥村:そうですね。オフィスポはストレスをなくすのではなく「遊ぶ」という考え方に近いんですよね。ただ、業務内容は部署によって違います。営業職で得意先と常に折衝している人もいれば、社内でそれを支えようとする人事部や総務部の人たちもいます。なのに、人事部のプログラムといえば、営業の人たちからは堅い印象を持たれがちで。本当は人事の人たちも面白いことをやりたいと思っているんです。事実、そういった相談も多く受けています。その中でオフィスポは、社員の人たちも楽しいし、企画サイドの人事部の人たちも、自分たちも参加できるから楽しい、という全員が楽しいコンテンツなんですよ。

齋藤:本当にそうですね。企画サイドもついでに健康にならないと。

奥村:ただ、僕は電通という会社の人間だから、ここからさらに発明をしなくてはいけないと思っています。それについては今も、さまざまな企業の方たちと話をしているところです。例えばオフィスの環境をよくするグッズや何か新しいツールかもしれません。それを一緒に考えていけるような人たちとの出会いが、これからきっと多く待っていると思うので、それがすごく楽しみですね。

齋藤:今回の対談を通じて、賛同してくれる人がまた増えるといいですね。

奥村:そうですね。アイデアは一人で抱えていると、自分の中でしか成長しない。だから、オフィスポもいろいろな人に知ってもらって、まずは空気として「ブレークタイムの在り方についてみんなが考える」ようになることが大切だと感じています。情報を発信すれば、目に留めてくれる人もいます。そこには責任も生まれますから、僕はその責任をちゃんと背負いながら、オフィスポの普及に今後も力を注いでいきたいと思っています。

[前編はこちら]