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AI革命の「大分岐」で広告業界が動く~人を動かす次世代エージェントNo.5

InputとOutputを分離してつなげ!「次世代エージェント」とは?

2016/07/11

前回は広告業界が強みを発揮するための「エモーションドリブン」のモデルの提言と、それを具現化する「VPA」について述べました。そのような世界で広告業界はどのようなコミュニケーションを構築したらよいのでしょうか?スマホに代わるエコシステムへのチャレンジについて解説します。

IoTが進める未来のエコシステム~インプットとアウトプットの分離モデル

IoTのエコシステムを考える上で、テキスト、音声、画像、センサー等で何かしらの情報インプットを行うインターフェースを「インプットメディア」、それらのインプットに基づく情報を活用したり、世間にある一般情報(ニュースやエンターテイメント)を見たり聞いたりできるインターフェースを「アウトプットメディア」と呼ぶとする。スマホは「インプット・アウトプット一体型」のデバイスとして極端なほどに優れているのだ。

しかしこれからIoTが進み、インプットメディアもアウトプットメディアも多様化してきて陳腐化のスピードも速くなってくると、スマホは相対的な存在になるだろう。つまり、自分に役立つ自分自身の情報をインプットできるセンサーや端末がウェアラブル、家の中、学校、会社、病院、街にも広がると、スマホだけで何もかも済まそうとは思わなくなるし、同様に自分にカスタマイズされたアウトプットが家のスマートテレビ、会社のPC、自分のスマホとタブレット、街のデジタルサイネージなどでVPAを介してシームレスに受け取ることができるようになれば、スマホはやはり数多い選択肢のなかの一つにすぎなくなる。今は情報をスマホに集約すればするほど買替えのハードルは高くなるしなくしたり壊したりすると大きなダメージを受ける。しかし情報の集約が完全にバーチャル(端末に依存しないクラウドベース)になったら、端末側に「個人認証」の仕組みを組み込むことでどの端末でも一瞬でアクセスできるようになるだろう(例:様々な種類の対応端末に手をかざしたり、話しかけたりすると生体認証で同一の自分専用の管理画面やVPAが現れるなど)。このような「インプットとアウトプットの分離」がIoTの発達には欠かせないと考えられ、もし社会がこのような方向に進むなら広告業界は既存のプラットフォーム企業や特定端末にしばられない中立的な形で未来のコミュニケーションそのものをデザインできるし、サービスやモノの需要と供給をマッチングするという広告ビジネスをそのコミュニケーションに乗せることができる。

次世代エージェント~インプットとアウトプットをつなぐもの

それでは、分離したインプットとアウトプットをつなぐものは何か。それこそが次世代のエージェントとなるわけだが、IoT時代の情報流通の新しいコミュニケーションモデルは以下の通りとなると考えている【図】。

【図】情報流通の新しいコミュニケーションモデル(筆者作成)
【図】情報流通の新しいコミュニケーションモデル(筆者作成)

まずはインプットメディアを通していかにユーザーの良質なパーソナルデータを取得するかが課題になるが、そのポイントは「利便性」と「安全性」である。

最初に「利便性」だが、例えばGoogle Photosは便利かつ「無料でここまでできるのか」という驚きがあるから、価値ある個人情報を提供してしまう(GmailやカレンダーなどGoogleサービスのほとんどが同様です)。しかし、もしGoogleだけに完結せずFacebook、Amazon、Appleの自分自身のデータを全部ひとつに統合できたら、さらに便利で驚きのあるサービスができるのではないか。現在はIDの統合やデータ連携の取り組みはあるものの、依然としてプラットフォーム企業同士のデータの囲い込み合戦は激化している。その一方で、個人情報の所有権の議論が欧米を中心に盛り上がっていて、日本でも複数の金融機関の取引情報を自分自身で統合し、管理できるアプリも登場している。このように「個人情報の所有権は原則的にその個人にある」との理念に基づき、政府や企業が保有するデータを一般個人に開放する動きは「スマート・ディスクロージャー」と呼ばれていて(※9)、ユーザーが自分で複数業者に蓄積されている個人情報を統合する試みがはじまっている。さらには法令等で事業者が保有する個人情報をユーザー個人が電子的に利活用できる形で公開することが義務付けられる可能性もあるだろう。

次に「安全性」であるが、クラウドの仕組みが発達する一方で、その安全性は必ずしも担保されているわけではなく、クラウド上に貴重な情報を蓄積すればするほどハッキングや情報漏洩のリスクは高まっていくだろう。そのような中で、東京大学の橋田浩一氏は「分散PDS」という仕組みを提唱している(※10)。PDSとは「Personal Data Store」のことで個人が本人のデータを蓄積・管理し、他人と限定的に共有して活用することを可能にする仕組みである。今は、個人情報は各事業者のサーバに蓄積されているため自分でコントロールできず、その事業者を信頼するしかない。しかしPDSではユーザー側には自分で自分の複数事業者の情報を統合できるメリットがあることはもちろんのこと、事業者側にも必要な時にだけユーザーのサーバにアクセスして必要な情報だけを取得すればよい(管理がやっかいな個人情報をもつ必要がない)ため、管理コストが格段に下がるという大きなメリットがある。さらにユーザーのほうは、安全性を高めるために個人情報を複数の異なる事業者のサーバに分けて保存しつつ「秘密分散」(複数のピースファイルを作成し、特定数のピースをそろえなければ元ファイルを復元できない技術)を活用することで、自分自身でしかデータを復元できない仕組みを担保することができるので、これを「分散PDS」と呼んでいる。

※9:Business Intelligence for everybody「米国政府が推進する、消費者のためのオープンガバメント・イニシアティブ "Smart Disclosure"」(2013.1.23.)
http://bi4everybody.com/2013/01/smart-disclosure/), 2015.9.24.
※10:橋田浩一「分散PDS による個人データの自己管理」,『Japio YEAR BOOK 2013』(日本特許情報機構,2013),pp.142-151.