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AI革命の「大分岐」で広告業界が動く~人を動かす次世代エージェントNo.4

AIとの“対話”が需要を生み出す!人を動かす「VPA」とは?

2016/07/04

前回はAIと広告産業について考察し、「需要(欲求)自体を創造する」という広告業界が強みとしていた役割に回帰することを提言しました。今回はそれをさらにサービス化するためのモデルを提言します。VPAとは何でしょうか?

エモーションドリブン~IoTが可能にする新しい形

それでは、テクノロジーの力で「欲求外在型の需要創出モデル」を実現するためにはどのようにしたらよいだろうか。ITコンサルタントの入江宏志氏は、利用者の欲求(デマンド)が顕在化してから取り組む形を「デマンドドリブン型」、欲求が潜在状態で明確になっていない段階で人の動きを捉える形を「イベントドリブン型」、そして新しくIoTよって各種センサーから取得できる生体情報や脳波のデータによって可能になるのが「エモーションドリブン型」である、としている(※7)。これに当てはめると過去の需要に基づく「欲求内在型の供給最適モデル」が「デマンドドリブン型」に、未来の需要を新しく創出する「欲求外在型の需要創出モデル」が「イベントドリブン型」と「エモーションドリブン型」に対応する【図】。

【図】「欲求内在型の供給最適モデル」と「欲求外在型の需要創出モデル」  (出典:入江宏志氏の図を参考に筆者作成)
 
 
【図】「欲求内在型の供給最適モデル」と「欲求外在型の需要創出モデル」
(出典:入江宏志氏の図を参考に筆者作成)
 

さらに入江氏は、一般に行動や感情による記憶のほうが人間に定着しやすいため、①「イベントや感情に訴求する方法」が大切になり、②「要求が形成される前に行動さらには感情を感知できる仕組み」を構築することが今後重要になってくる、としている。本稿では、②の仕組みにあたる部分をIoT、①の方法にあたる部分および感情や欲求そのものを作り上げる仕組みをAIで実現するために、広告業界の新しいエージェントモデルを提案する。

VPAとは~プラットフォーム企業が取り組むAIのインターフェース

オムニコム系メディア・エージェンシーのPHD社は2015年6月のカンヌライオンズで「Sentience : The Coming AI Revolution」というセミナーを行い、その直後に同名の書籍を発行した(※8)。そこでマーケティングの中心となるAIのモデルがVPA(Virtual Personal Assistant)である。VPAとは、Siri(Apple)、Google Now(Google)、Cortana(Microsoft)、Alexa(Amazon)などのサービスの総称で、主要なプラットフォーム企業がこぞって次世代コミュニケーションのインターフェースとして(つまりメディアとして)力を入れている。VPAの特徴は、自然言語での「音声」コミュニケーションを指向していることであり、その背景には機械学習や深層学習などのAI技術の急速な進化が寄与している。その進化系のイメージとして挙げられるのが映画『her/世界でひとつの彼女』で登場する汎用人工知能型OS「サマンサ」だろう。

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サマンサは身体をもたないバーチャルな個人向けアシスタントなのでまさしくVPAだ。画像すらない「声」だけの存在だが、その声で主人公セオドアとやりとりし、「感情」を動かし、セオドアは恋に落ちてしまう。ポイントは、人間的にふるまうAIが本当に感情をもつか否かにかかわらず、人間の欲望を喚起し、ある種の感情や行動を誘導してしまうことだ。現実の世界でも擬似的な人格をもつプログラムと人間のコミュニケーションに関する議論の歴史は古く、1966年にMITのジョセフ・ワイゼンバウム氏が開発した会話プログラム(ELIZA)にさかのぼり、その後このような人格を擬似的にシミュレートできるプログラムは「人工無脳」と呼ばれている。AIが人を「動かす」力は、すでにELIZAの時代にワイゼンバウムはあまりに短時間のうちに人間とコンピュータが感情的交流をもつことに脅威を覚えたし、日本の人工知能学会の倫理委員会で心をもつ(ようにみえる)AIがソーシャルゲームの課金のような形で悪用される可能性が議論されるほどに強力なものとなっている。ネットマーケティングの現在のLPO(ランディングページ最適化)でのコンバージョンにあたる部分において、VPAが自然言語の対話でお薦めやQ&A、契約などの一連の活動を行い、営業行為を自動かつ強力に推し進めるかも知れない。悪用されれば大変なことだがむしろ政府や軍事で秘密裏に応用される方が恐ろしく、広告業界などの民間機関が合意された規制の下、透明性をもちながら推進することで民主的な技術の応用が可能だと考える。

それでは、もしPHD社がいうようにVPAが次世代マーケティングのインターフェースになるとしたら、広告業界はVPAにどのように取り組んだらよいのだろうか。現在、SiriやGoogle Nowの優位性はスマホ(タブレット含む)のOSをAppleとGoogleが提供していて、スマホのセンサーやデータを有利に活用できることである。現在は個人が活用しているセンサー(GPSなど)は現実的にはスマホの中くらいにしかなく、その情報をアウトプットする(地図で現在位置を確認する)のもスマホが中心である。つまり、センサー情報のインプットもアウトプットもスマホで完結しており、かつ今発売されているさまざまなIoTツールも、センサーは各ツールの中にあるとしてもスマホとの連動を重視するものが多い。現在は「IoT=スマホ」であり、データの集約がスマホ完結で進むためAppleとGoogleなどの優位性が高いといえる(クラウド上のカレンダーやメールサービスとのデータ統合も可能なので、なおさらです)。しかしこのスマホ依存のエコシステムは、スマホが物理的なデバイス依存であるがゆえに本当の意味では「バーチャル」ではなく、スマホがあまりにデバイスとして優れているがために、「イノベーションのジレンマ」があると考えられる。

※7:インプレスIT Leaders,入江宏志「IoTが導く第3のドリブンは“エモーション(感情)”」(2015.7.6.)(http://it.impressbm.co.jp/articles/-/12539) ,2015.9.24
※8:PHD, Sentience: The Coming AI Revolution and the Implications for Marketing(PHD, 2015)