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Experience Driven ShowcaseNo.68

デジタルコミュニケーションで、人類を前進させる:杉山知之(後編)

2016/06/14

「会いたい人に、会いに行く!」第9弾は、デジタルハリウッド大学の杉山知之学長に、電通イベント&スペース・デザイン局の金子正明さんが会いに行きました。日本のコンテンツ産業を支える才能を、多く生み出してきた杉山さん。金子さんは自らも、人生の転機でデジタルハリウッドに入学し、その後も仕事と学びで結び付いています。IoT社会の実現が近づく今、スピード感を持ってプログラムの更新や産学協同プロジェクトを進めるデジタルハリウッドの取り組みと哲学を聞きました。

取材・編集構成:金原亜紀 電通イベント&スペース・デザイン局
(左より)杉山氏、金子氏

 

デジタル教育だからこそ、むしろ「アナログであること」をきちんと教える

杉山:新しく開校した「G’s ACADEMY」は何かというと、技術に強いハッカーみたいな人をつくっていくというよりは、こういう事業をやりたい、こういう解決方法があるはずというのを、プログラミングで表現する人をつくるのが目的で、そうすれば起業数もおのずと多くなるはずです。

金子:今はクリエーティブ職もデータドリブンの計測と解析に向き合いながらという時代ですよね。教育でも何かそのことによる変化はあるんですか。

杉山:そこはあまりないですね。逆にデータドリブンになればなるほど、身体感覚がきっと重要だと思っているので、大学ではアナログ的な教育をより充実させている面もあるんです。自分が人間であるということ、人間の性能とか、手先の感覚とか、皮膚感とか、そういうものまでデジタル化できる世の中だからこそ、そこをもう一回ちゃんと自分で考えておく。

プロになれば全て計測とかデータドリブンを信じる世界となるので、学生のうちに自分で身体感覚を確かめておくのが大切です。じゃないと本当に、エンジニアリングと身体感覚や感性、その双方をくっつけることができない。

金子:イベントづくり、商業空間づくり、街づくりで、デジタルハリウッド出身の面白いアーティストはいますか。僕も、新しい才能と知り合って組みたいので(笑)。

杉山:浅田真理さんとか。

金子:東急プラザ銀座のインスタレーションをやっていた人ですね。

杉山:3フロア展開のHINKA RINKA(ヒンカリンカ)のコーナーで、メインのエレベーター前3カ所に勝利の女神「サモトラケのニケ」をモチーフにしたオブジェを置いたんです。インタラクティブなメディアアート作品です。彼女はこれまでにいろいろな仕事をしてきましたが本学の院生でもあるのです。

勝利の女神「サモトラケのニケ」をモチーフにしたオブジェ

杉山:平田元吉さん(※1)という、ファッションとデジタルテクノロジーに取り組んでいる人も面白いですよ。

(※1)平田元吉…モード・ファクトリー・ドット・コム代表。デジタルハリウッド大学院メディアサイエンス研究所 杉山研究室研究員。「FashionTech Summit #001」発起人兼トータルディレクター。
メディアアンビショントーキョーの一環として開催した「FashionTech Summit」で講演をする平田元吉さん
 

杉山:大学の卒業制作であるにもかかわらず、プロを使う子も多いんです。中国から来た女子学生の林子依さんが、日本のファッションが大好きで、カワイイ系のテキスタイルをつくって着物にしたんですが、30年間日本の着物メーカーの下請けをやっているという中国の工場に頼んで、全部細かく指示してつくらせて、それを自分でつくったウェブサイトで売る、みたいなことをやっている。そして、それが卒業制作でもあるんです。

林子依さんの作品「chéri」

金子:完全に商売ですね(笑)。

杉山:そうなんですよ。卒業制作で、一個商売をつくったということですよね。出来上がった物もかわいかったんですけれど、僕はそういう一連の動きをむしろ評価している。だから表現がうまい子は、あっという間に実際の仕事をもらえるので、大学2年生ぐらいで出ていこうとする。そういう学生は卒業までいさせるのが大変(笑)。

今、人類は72億人ぐらいいますが、実は30歳以下の人が半分以上なんですよ。だから18歳の子には、「30歳以下の人たちに受け入れられることだけやれば、十二分に食えるから」と言ってます。大人が何と言っても関係ない、デジタルコミュニケーションという闘える武器さえあれば。まさに60年代後半にアメリカの若者が叫んだ「Don’t trust anyone over 30.」みたいな感じです(笑)。

金子:今の卒業生は、これから世界規模で闘うということですね。

杉山:そうです。日本にいるから少子高齢化で閉塞感があるけど、アジアなんかは若い人だらけだよって言うんです。若い人はみんなゲームやるし、アニメ見るしコンテンツ大好きだよね、子どもたちには教育コンテンツが必ず要るでしょ、という話をしている。みんな多いに納得してくれます。

 

非人間的なことは全部コンピューターにやらせて、人間自体の限界点を超える

金子:ICT、クリエーティブ、ビジネスを全部掛け算でやるとうたっていらっしゃいます。未来はどうなるでしょうね、この三つの掛け算で。杉山先生の目からどう見えていますか?

杉山:これまでは、それぞれの産業が人間社会をくまなく埋めて、すき間がないようになってきたように見えました。けど人がデジタルを使って働くことによって、ここまでくまなく回っていた事象の中に人がやらないでよい分野の穴がポコポコ開いて、人から見るとすかすかになってくるんですよ。それでも一応、網みたいには囲まれている。

そのすかすかの中で、職業を失っているという人もいたり、目標が分からないという人もいるかもしれないけれど、仕事がマシンに取って代わられていくことによって、人間は労働という拘束から出られる感じになってきているというビジュアライゼーションなんです、僕の頭の中の未来は。

もっと人間らしいこととか、もっと人だからこそ喜べることの世界に、むしろどんどん人が進出できる時代なんじゃないかな。そして進出していく先に、また新しいビジネスもつくれるという感覚を持っています。だから、エンジニアリングとデザインとビジネスの融合というのは、そのための当たり前の基本パッケージです。

コンテンツにこだわるのはなぜかというと、最終的には人間に対してやっている仕事なら、そのビシネスというのは人の心を動かすというのが全て。そこのノウハウは、エンターテインメント産業、日本でいえばコンテンツ産業にたまっているはずだと思うからです。

文学、美術、いろんなものの表現の脈々とした流れがあって、その流れを単なる個人の芸術というのを超えた形で表出し、人類にさまざまな意味で貢献していくというのが「ICT✕クリエーティブ✕ビジネス」の未来というビジョンを持っています。ここまで人間は行けるんだという限界点を広げるところに、挑戦していくしかない。

金子:やっと人間が目指していったところへ行ける道具が、そろってきたぞという感じですね。

杉山:昔は社会的な規範に頼って生きていられたし、この人の教えさえ守れば幸せに生きられる、そんなふうに自分を区切ることができたけど、そこのたがを外されちゃって、一人一人の人間が自分自身で自分の地平線をつくっていかなきゃいけない時代なんです。

どんなに大変でも、ただ精神的に内にこもって修業するというのではなくて、ポジティブにそんな近未来に打って出るための武器として、僕はデジタルコミュニケーションが役立つと25年前から思っているんです。やっとそういう時代がきたかなと。

そういう時代に面白がってトライする若い人を、できるだけ多く生み出すというのが僕の最後の役目と思っています。大変です。でも、しんどいのが逆に面白いですよ。つまり、挑戦できているという証しなのですから。

<了>