Experience Driven ShowcaseNo.70
動画再生5億回!中国人が熱狂する日本人「山下智博」って誰?
2016/06/21
JRAが訪日中国人向け施策の一環としてイベントを実施。このインバウンド顧客向けのイベントには、メディア規制の強い中国で、リアルな日本の若者文化をネットで伝え続ける中国全土で大ブレーク中の山下智博さんを起用した。
今回は、中国の若者が熱狂する山下さんにこのイベントを企画した電通プロモーション・プロデュース局(現第14営業局)の山本暁野さんがインタビューしました。今後、日本と中国の文化の懸け橋として、山下さんから見た中国や、彼が一人の日本人としてどんな日本を伝えていきたいのか、その思いを聞きました。
取材・編集構成:金原亜紀 電通イベント&スペース・デザイン局
2014年の中国で、いきなり熱狂的な「山下ブーム」出現
山本:山下さんは2012年に中国に行かれて、2014年のクリスマスに「紳士の大体一分間」という動画をアップして、5カ月で何と再生回数が1億突破という脅威の数字をつくりました。素朴な疑問ですが、2014年の段階ではまだ、中国のネットでは文字コンテンツが主流だった中で、なぜ動画コンテンツで日本の魅力を紹介していく手法を選んだのですか。
山下:若者に「ふだん、どういうところで情報収集するの?」みたいな話を聞くと、日本に興味がある人って大体アニメから入っていくので、最初から動画志向なんです。中国の「ビリビリ動画」というところを見てみると、「ニコニコ動画」と同じようなシステムになっています。だから2012年には既に動画が来ているんだなという感じはありました。
※ビリビリ動画:中国の若者で大人気の動画共有サイト。
山本:山下さんのおっしゃる若者というのは、大体いくつくらいの方ですか。
山下:僕の動画を見てくれている人は、大学生を中心に20歳前後ですね。下は、たまに小学生も見ている。だから僕も最近、ちょっと気を引き締めています(笑)。当初想定したのは高校生と、大学を卒業したぐらいの20代前後の人たち。
山本:山下さんの動画は「紳士の大体一分間」が一番有名ですが、何で1分間なのですか。中国人は短気だからこうなったとか、ネットの動画は中国では1分間が主流とか?
山下:始めたころは短い動画は主流じゃなくて、当時日本ではYouTubeで短い動画を毎日更新というのがはやっていたんですけど、中国では全然はやってなかったんです。どちらかというと週に1回、30分ぐらいの長いものを上げて、みんなでそれを楽しみに見るという感じ。
2012~14 年に急速にスマホを持つ人が増え始めて、ネットの環境とか市街地のWi-Fiの環境もものすごい勢いで整い始めたので、世界的な流れが中国でも起こるんじゃないかと思って、毎日短い動画をアップしたらどうなるかという実験を始めました。「毎日1分間で、日本の文化と日本語を勉強できる」というものをつ くったのですが、ジャスト1分間になったことが一回もないので「大体一分間」という題名なんです。中国人の「大体」って幅が広いんです(笑)。気持ちは1分間ですけど、伝えたいことが多過ぎて間を削ったりするので、ものすごくテンポが速い。結局「1分」くらいでやったら、みんなからもっと長くしてという要望もあって、落ちついたのが3分~5分ぐらい。
山本:しゃべりがやたらに早くて、切りかえも早くて、巻き込まれる感じだなと思います。
山下:多分それが今の中国の流行なのです、テンポが速いのは。パパパパパッと進んでいく。スマホは画面が小さいので、そこからどういうふうに視線をそらさせないかを考えています。
中国ネットでは、「生放送」が次に来る!
山本:私たちのインバウンド作業の中では、クライアントからWeibo(微博)、WeChat(微信)のPR記事を書いてほしいという要求が多いです。山下さんの予測としては、2016年以降の中国では、Weibo、WeChatなどの文字中心のものよりも、動画の方が効果あるということですか。
山下:次の中国のブームは、今もう既に始まっていますが、生放送です。そこにどういうコンテンツをつくっていけるか、どういうふうに人を集めていけるか、いかに独自性を出すか。僕も定期的に始める準備をしていて、毎週火曜日を生放送の日にしようかなと思っています。それまでも例えば動画1周年記念の日とか、僕の誕生日に自宅から生放送とか、たまにやっていたんですけれど、本格的にやり始めたのは最近です。
僕の自宅で動画をつくっている仲間が3人いて、彼らと一緒に「最近こういうことが日本で話題になっているよ」というのを紹介しつつ、中国人のコメントもどんどん流れてくるので、そこで中国と日本の文化ギャップを考察しています。
例えば日本の不動産について紹介して、訳あり物件はすごく安いと。いろんな悪条件がそろっていて、日本人だったら「いやあ、よう住まんわ」みたいな感じのところを、中国の皆さんだったらどう思いますかとか。日本に比べて、結構気にしない人が多い印象でしたけれど、そういう日常の疑問もインタラクティブに向こうの反応が拾えて、キャッチボールができるのはすごく面白いですよ。
山本:今、話に出た3人の仲間は中国人ですか。
山下:今、一緒に住んでいるのは全員日本人です。
中国の若者と、リアルタイムに交流がつながっていること自体が僕の価値
山本:例えばユーザーの反応を見て、こういうふうに改善するとか、山下さん側のいろいろな工夫があると思うんですけれど、どうやって検証しているんですか。
山下:自分の動画の作り方に関しては、絶えずSNSで中国の若い人たちとつながっていられること自体がすごく大きい。何か僕がやったことに対して、肯定的な意見も否定的な意見もくれるので、毎日小さい実験やトライ・アンド・エラーがものすごくたくさんできるのです。
放っておいても、日本に興味ある人がたくさん集まってきて「これ、どうなの?」とか。例えば日本の朝の電車で、「電車に押し込む人、あれはどういう仕事なの?」とか、そういう不思議な日本を僕に聞いてくる。大体そういう質問は僕のところに集まってくるので、みんなの質問に答える形で日本を紹介しています。
山本:山下さんは本当に中国人の笑いのツボをちゃんと押さえていますが、文化の違いを超えて日本のクライアントが中国人を相手に商売をするときに、相手に自分のことを興味を持ってもらうためにはどうすればいいですか。
山下:笑いに関しては、日本独自のものというのは伝わりづらいです。特に「シュール」という概念がなかなか伝わらない。でも僕の周りの中国人ってずっとアニメとかを見ているので、キャラクターがすごく大事だと思います。
僕の“リーベンディアオスー”というキャラクターも、そんなに見た目は良くないけどかっこつけて失敗するとか、女の子に声かけて冷たくあしらわれるとか、そういうダメダメなキャラクター性が軸になっていると伝わりやすい気がします。外国人の僕が中国のネット用語を流ちょうに話すとか、中国の若者の文化のことを知っているのが、彼らにとってもすごくうれしいらしい。日本でも外国人が秋葉原大好きだったり、禅などの日本文化を勉強しに来ましたと言われると、気持ちがグッとくるわけじゃないですか。
山本:共通で分かっていることから入り口にすれば、お互いに分かりやすいと。
山下:共通言語っていう意味では、中国に行ってみて分かったんですが、今の若い人たちはインターネットがあることで、同じ映像コンテンツをめちゃくちゃ見ているわけです。若い人と話をして、アニメ番組の話になると思っていたら、いきなり「どの声優が好きだ」という深い話から始まったりして、日本人の僕らよりも流行に敏感かも。
日本人との違いで驚いたのが、日本人って面白いもののために頑張る人が多いじゃないですか。くだらないものを一生懸命やることで、みんなにたたえられるみたいな。今の中国は、お金を稼げる人がもてる。行動の最初の動機がお金を稼ぐことなのです。
僕みたいに、アホなことを全力でやっている人は当時珍しくて、ギャップを感じることが多かったのですが、最近動画の投稿主「Papi酱」の登場によって「面白いことをするとお金持ちになれる」という新しい常識が生まれました。これはものすごいことで、多分これからアホなことを本気でやる人たちがどんどん出てきて、中国ネット界も楽しいことになっていくんじゃないかと期待しています。
※Papi酱:動画投稿で中国で現在大注目のネット有名人(日本のYouTuber的な存在)
山本:フールジャパンが、フールチャイナにもなっていく!(笑)。
山下:なっていくんじゃないですかね!
日中カルチャーの交流を促進して、ノーベル平和賞を目指す?
山本:いろんな日本を紹介して理解してもらって、本当の中日友好を目指して、それでノーベル平和賞を目指すという感じですね(笑)。
山下:まさにその通り!(笑)。
山本:中国のメディア規制はどうですか? 突出した際どい表現は、やはりチェックが入りますよね?
山下:はい。Papi酱にも動画の中でスラングをしゃべったために指導が入りました。インターネット動画では普通のことなんですが、有名になり過ぎて影響力が大きくなったのが原因だと思います。そのへんの感覚は僕も肌感覚で少しずつ勘が働くというか、分かってきてはいます。
中国の大手メディアは日本の文化を積極的に報道できない空気なので、逆にいうと日本の今を紹介できていない。だからこそインターネットを中心に、若い人が日本の情報をめちゃめちゃ追い求めている。中国各地ではコミケやコスプレブームもあって、毎週末に中国のどこかの場所で、コスプレとか同人誌即売会とかをやっています。
夏休みとかだったら1週間に国内20~30カ所ぐらいで行われている。例えば日本のアニメのキャラクターのコスプレをして、今だったらアニメ「ラブライブ」とかの曲でみんなで踊るとか。一つのイベントに何万人もの人が集まってきて、それが中国全土に勝手に広がっているんです。
そういう日本ファンは、自分たちで情報を探してたどり着いて好きにやっているから、絶対離れていかない、すごく良質なファンなんです。みんな熱く日本のことを見ているし、日本の情報を知りたがっている。ますます良い関係にしていけるチャンスはあると思うし、僕自身ももっと楽しいことをどんどん発信していけると確信しています。
山本:中国にいる日本人の山下さんと、日本にいる中国人の私で、今後一緒にいろいろなプロジェクトをやっていきたいですね! 今日はありがとうございました。
<了>