宇宙産業はあらゆる産業に影響を及ぼす
2016/07/19
「宇宙」への視線が熱さを増している。そんな中、広告コミュニケーションの世界には、さまざまな企業と宇宙のマッチングをあれこれ模索し推進しているプランナーやチームが存在します。ここでは、現場で活躍中の電通のコミュニケーター3人に、企業と宇宙のコラボレーションの実践事例や可能性を聞いてみました。3人目となる今回は、電通パブリック・アカウント・センターの片山俊大氏が宇宙産業の可能性について語ります。
経済活動の状況も細かく見えてくる
UAEで行われたエネルギーの展示会において、日本の宇宙技術が紹介されました(※コラム参照)。私は縁あってこの作業をお手伝いさせていただき開発の最前線を知ったことで、「宇宙産業の持つ可能性」を痛感。20年前のインターネットと同様で、さまざまなものを変える力を秘めていると確信しました。宇宙産業はこれから、あらゆる産業に影響を及ぼすはずです。
現在、日本の民間ベンチャーが取り組む宇宙技術は、大きな注目を集めています。ひとつが、超小型衛星の開発。それまで数百億円かかっていた製作費を数億円にまで削減しました。大量生産すれば、さらにコストは下がります。
同様に、衛星を打ち上げる超小型ロケットの開発も進んでいます。こちらも低コストの量産型ロケットで、実用化すれば超小型衛星をどんどん打ち上げられる未来が訪れるでしょう。日本の民間ベンチャーでは、その実用化がもう見えているんですね。
実現すると、衛星からさまざまなビッグデータが送られてきます。また、数年後には、政府主導で国産GPSによる位置情報が数センチ単位で分かるようになるといわれています。さらに、衛星写真も日ごとに更新される。すると、人の経済活動の状況などが今までと比べものにならないほど細かく見えてきます。
官民連携の良いサイクルを生み一層の発展へ
これは、マーケティングにも大きな変化をもたらします。交通や駐車場の状況などをモニターし、小売の出店計画などのエリアマーケティングに活用することが可能になります。あるいは、位置情報が細かく出るので、人のいる場所に合わせてネット広告を変えてみる。その他には、農作物の生育状況を細かく調べる。農作物は先物価格と関連しますから、金融市場をも動かします。このように、宇宙からのビッグデータでマーケティングや企業の意思決定の在り方も変わるはず。日本の民間ベンチャーが開発する超小型衛星や超小型ロケット、政府主導の国産GPSは、これだけの可能性を担っています。
もちろん、それは企業の戦略を多様にしますし、企業が自前で超小型衛星を持つケースもあるでしょう。衛星を打ち上げるロケットについても、打ち上げ時のイベントに企業が協賛したり、衛星とロケットを企業が一式購入して、宇宙での実験やデータ取得を全て自社で実施することも考えられます。その意味で、企業が今から彼らを支援していくことも未来のために重要かもしれません。
民間の宇宙技術が進むと、やがて外交交渉でも力を発揮するでしょう。宇宙インフラ輸出など、UAEの事例に近いことが起きたりするはずです。官需から生まれた宇宙技術が、民間で産業として発展し、そしてまた政府の外交交渉へと生かされていく。そういった官民連携の良いサイクルが生まれると考えています。
昨年11月と今年1月に中東UAEアブダビで開催されたエネルギー関連の展示会に、「資源エネルギーのための宇宙技術」をテーマとした日本のパビリオンが相次いで出展された。UAEは一昨年「宇宙庁」を創設。建国50周年の2021年には火星探査を開始すると発表している。JAXAおよび各種ベンチャー企業も含めた日本の宇宙開発技術を同国発展のために活用したいというメッセージは大きな反響を呼んだ。同展示会にはUAEの首長家や国営企業幹部をはじめ多くの来場者が訪れ、併せて開催された両国政府主催の宇宙関連イベントも活況を呈した。石油資源などで関係の深い日本とUAE。その一層の関係強化にも「宇宙」は役立っている。