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電通兆候研究所「シンプタンク」のそろそろこれキますよ。No.1

【予言】
医学はマーケティングとつながってゆく。 

2016/07/26

SYMPTANK=SYMPTOM+THINK TANK 電通兆候研究所「シンjavascript:void(0)プタンク」のそろそろこれキますよ

電通社員たちが“謎の紙上研究員”として、世の中のキザシ(SYMPTOM)をあれこれ探っていくコーナーです。

今回のテーマ「あたらしい医学」/【予言】医学は、マーケティングとつながってゆく。/研究員No.9 比留間雅人

健康になりたければ、腹八分目にとどめるべきだ。適度な運動が必要。十分な休息も大事…。そんなことは分かっているんです。健診結果が悪かったことだって忘れてませんよ。保健師に言われる内容も承知。どうせ「1キロ相当の脂肪塊の模型」でしょ。
何もかもが分かっているんです。
なのに、いざ医師やヘルスケア事業者の立場に立つと「この人は、知らないからやらないんだ」と思い込んでしまう。
「知らないからやらない」のではなく「知っているからやらない」ということを、嫌というほど知っているはずなんですが…。
ということでどうすればよいのか、データサイエンティストにして予防医学の専門家でもある石川善樹さんに聞きました。

石川善樹氏(左)と、比留間雅人氏
石川善樹氏(左)と、比留間雅人氏
 

やる気のない時が変われるチャンス

 

石川:人はなぜ太るのか。この十数年考え尽くしてきましたが、結論としては「食べるから」です(笑)。

比留間:当たり前ですね(笑)。

石川:ではなぜ食べるのか。「おいしい」からですよね。ここまで考えて、答えが出ました。おいしいものは「脂と糖」か「うま味」か。脂と糖は「もっと食べたい」という欲求を生み出しますが、うま味は「満足感」を生むので食欲を抑えられる。ところで舌の細胞は10日程度で変わります。ということは2週間、昆布茶とか飲めば、うま味で満足できる味覚になり、自然と痩せられるなと思ったのです

比留間:なるほど、10日間頑張ればいいんですね?

石川:いや、頑張っちゃダメ。いずれ反動がきて失敗します。いつの間にか変わっている、というのが理想。なので僕がダイエットのサポートをするときは、本人のやる気がうせてきているのを見定めてから始めます。とにかく意思を必要としないこと。究極的には、その人に合った健康的な料理を常に作ってくれる「シェフロボット」があればいいなと思いまして、今そのプロトタイプを開発中です。

比留間:変わってから自覚する。実践が先で、認識が後。そうですよねと思いつつも、その、ロボットが料理っていっても、あくまで「健康的な料理」でしょ。味気なさそうというか、魅力的でないような…。

石川:もちろん、おいしくて健康的な料理です。というか、普段僕らが一つの料理に使っている食材の種類の数はだいたい9点なんです。で、料理に使われる全ての食材から9点選ぶという組み合わせを計算すると、人類が経験している料理はごく一部の組み合わせにすぎないことが分かります。なので、おいしくて健康的な料理はまだまだいろいろ考えられるんですよ。

データと計算機技術で思い込みの外へ

 

比留間:僕らが知っていることの外に実はものすごい広がりがある、と。

石川:そうですね。人間の脳は、少ないサンプルにあまりにも多くのパターンを読み込んじゃう。それは強みでもあり、弱みでもあるんですが、見つけたパターンを全てだと思い込む。

比留間:それは分かるなぁ。そういう短絡と思い込みをいかに乗り越えるかは、文系・理系問わず論理的思考の命題ですよね。

石川:で、データや計算機技術は、そのバイアスを乗り越えるために有効です。

比留間:なるほど。

石川:もう少し言うと、「限界」を数式で定義できると、コンピューターが生み出す創造性は人間を超えていきます。

比留間:へ?

石川:例えばエンジンだと、燃焼効率には限界があるという、カルノーの定理があります。科学はこうして限界を定義することで、それに近づくためのテクノロジーを発展させてきました。同様に創造性においても限界を定義できれば、人間が創ったものの定量的な評価や、さらなる飛躍のための示唆を得ることができます

石川善樹氏

この取材後、パリで開催される計算機創造学(computational creativity)の学会に行ってきます。iPhoneからキャッチコピーまで、このアイデアは「100点中何点のクリエーティビティーなのか」を方程式にして、定量化したいと思っています。すると、きっと人間の創造の限界を突破できるようにもなるはずです!

 

医学は「行動変容」でマーケティングに近づく

超高齢化社会、どうしたって医療や介護の質・量共に現状維持は難しいでしょう。なので、自ら健康改善に励み、社会全体で予防を徹底させることが至上命題になっています。しかし、人は「分かっちゃいるけど、やらない」。となると、これからの医療には、これまでのような医学の最先端知識だけでなく、行動変容の知見も必要になります。

それは具体的にどういうことか。石川さんは「やる気が失敗の原因」という仮説に基づき「無自覚の行動変容」という戦略を立て、数多くある「人体に関する科学的知識」の中から、「うま味は糖質・脂質に取って代わることができる」「舌の細胞は10日間で入れ替わる」という知識を選びました。行動変容の視点から、既にある知識の意義を再発見し、新しいソリューションをつくったといえます。そして「健康的な食事はおいしくない」という僕らの思い込みを確率論の視点から崩し、新しい可能性の探索に誘う。

ここでふと思います。知識や理念や理想ではなく、感情や衝動、習慣など、人間の「しょうもなさ」が支配している日常生活において、行動変容の技術を積み重ねてきたのがマーケティング・コミュニケーションです。もしかすると、医学とマーケティング・コミュニケーションの接点から、新しい時代の医療が生まれてくるのではないかと、マーケターの端くれとしてそぞろに湧き立つ気持ちもあったりします。

もっとも、その先兵が石川善樹さんという予防医学の専門家だ、ということにちょっとばかり嫉妬も感じますが。

比留間研究員からのお知らせ

マーケティングの知見や技術を、医療・ヘルスケア領域でどう生かせるのか、各領域の専門家の皆さんと対話の場を「ウェルネス・クロッシング(仮称)」として始める予定です。

比留間雅人氏