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企業メセナ協議会が「GBFund」2011-2015の報告会開く

2016/07/28

    企業メセナ協議会は7月14日、「東日本大震災 芸術・文化による復興支援ファンド『GBFund』2011-2015報告会」を、東京・汐留の電通ホールで開いた。

    東日本大震災 芸術・文化による復興支援ファンド『GBFund』2011-2015報告会

    東日本大震災を機に、2011年3月に同協議会が立ち上げたGBFund(G=芸術、B=文化、F=復興、ファンド)は、被災地や被災者を対象として行われる芸術・文化活動などを、個人や企業、団体からの寄付をもとに助成・支援してきた。設立から5年の節目に、同ファンドの成果について共有するとともに、助成活動の紹介や検証によって見いだされた復興支援の在り方について意見を交わした。

    初めに、ニッセイ基礎研究所芸術文化プロジェクト室准主任研究員の大澤寅雄氏と同協議会プログラム・オフィサーの佐藤華名子氏が、「GBFund検証結果報告」を行った。

    大澤氏(左)と佐藤氏
    大澤氏(左)と佐藤氏

    11年からの累積寄付額は、約1億5000万円を超えた。申請の締め切りから3週間後に選考を行い、決定から支払いまでの期間は1週間程度と早期の支援を実現。申請から資金の振り込みまで事務局のスタッフが丁寧にアドバイスを行い、円滑で速やかな助成ができるように努めたことなどを報告。検証の結果、助成を受けた団体から高い評価を受けた。

    その経験は、4月14日の熊本地震発災をうけて4月20日に立ち上げたGBFund熊本・大分にも生かしている。 ファンドの検証を通じて、地域の伝統芸能による「地域コミュニティー再生」への期待が指摘されるとともに、これから取り組むべきことの一つとして、記憶の記録を含めた、被災記録のアーカイブ支援に取り組む必要性に言及した。

    大澤氏は検証チームリーダーとして事務局スタッフの対応などを報告
    大澤氏は検証チームリーダーとして事務局スタッフの対応などを報告

    続いて、助成活動プレゼンテーションが行われた。

    山形国際ドキュメンタリー映画祭で311ドキュメンタリーフィルム・アーカイブ担当責任者を務める畑あゆみ氏が同映画祭や震災後の事業について解説した。

    同映画祭は、1989年に山形市市制100周年を記念して設立された文化事業。11年からは、「東日本大震災記録映画上映」や「311ドキュメンタリーフィルム・アーカイブ」などを行っている。

    ドキュメンタリー映画のアーカイブについて報告する畑氏
    ドキュメンタリー映画のアーカイブについて報告する畑氏

    ジャパン・コンテンポラリーダンス・ネットワーク(JCDN)のエグゼクティブ・ディレクター、佐東範一氏は、11年3月の震災以降、ダンスアーティストによる復興支援プロジェクト「からだをほぐせば、こころもほぐれる」を被災地で開始。ダンサーらが郷土芸能を現地で教えてもらう「習いに行くぜ! 東北へ」は、ダンサーにも大きな気付きをもたらすとともに人と人の交流を活性化した。

    14年からは、「三陸国際芸術祭」を立ち上げ、郷土芸能を通じて自然と人の豊かさを伝えるプログラムを推進していると紹介した。

    三陸国際芸術祭について話す佐東氏
    三陸国際芸術祭について話す佐東氏

    最後にパネルディスカッションが行われた。
    リアス・アーク美術館学芸係長の山内宏泰氏、全日本郷土芸能協会事務局次長の小岩秀太郎氏、セゾン文化財団常務理事の片山正夫氏に、畑、佐東両氏が加わった。モデレーターは、大澤氏が務めた。

    パネルディスカッション

    大澤氏は冒頭、「東日本大震災で津波の被害を受けた地域は、過去にも大きな津波が起きている。今回の震災では過去に伝えられてきたものを生かせなかったのではないか」と問い掛けた。

    これを受けて山内氏は、宮城県気仙沼市にあるリアス・アーク美術館では、東日本大震災を災害史、災害文化の視点から考えるためのさまざまな資料を常設展示していることを紹介。通常助成基金を得るには申請側の負担が大きいが、GBFundの手続きが受益者の立場を考慮していることを評価していると語った。アーカイブについては、記録データをただ蓄積するのではなく、活用し続ける姿勢や体制が重要だと強調した。

    山内氏
    山内氏

    小岩氏は、郷土芸能や祭りの振興、育成を行う活動内容について紹介。被災地域間、そして広く外部との支援ネットワークが拡大している。郷土芸能が外の世界と関わることは地域再生につながり、GBFundの「百祭復興」に期待していると語った。

    小岩氏
    小岩氏

    大澤氏は、佐東氏と小岩氏の出会いのきっかけをつくったエピソードを披露。

    佐東氏は、大澤氏や小岩氏との出会いがファンド申請につながるなど、人と人の縁が重要で、一人一人の活動だけでなく、文化関係者がそれを盛り上げていくために何をすべきかを考える必要があると話した。

    ネットワークの重要性が浮き彫りになったことを受けて、大澤氏は、地域の活動をサポートする地域版アーツカウンシルに言及し、GBFundを生かすポイントを聞いた。

    片山氏は、同ファンド選考委員の立場から、GBFundは文化やアート復興を支援する最初のファンドで、世界でも類例をみない。申請者も選考側も経験がなかった。アーカイブをはじめ、活動への支援は継続とシステム化が大切で、日本の文化政策でも意識的に取り組むべき課題。JCDNのような中間支援組織へのサポートは非常に重要だと指摘した。

    また、支援のためには資金が必要で、補助金だけでなく、個人の寄付のモチベーションを知ることが大事だ。GBFundで得た知見で、個人の寄付理由が分かった。潜在的な個人寄付者は、地域版アーツカウンシルを構想する際にもキーになるので、今後に活用したい。

    片山氏
    片山氏

    畑氏は、永年保存を前提としたアーカイブには限界があるが、100年後にも有効な活用ができるような仕組みづくりが課題。山形では定期上映を行っているが、他の場所でも上映できるように取り組んでいきたいと述べた。

    大澤氏は最後に、「100年後、200年後をイメージし、震災復興だけでなく、これからの日本の芸術・文化、社会の在り方まで構想を語ってもらい、課題も見えてきた。GBFundへの期待の大きさが感じられた」と締めくくった。