広告の未来とは
2016/08/10
AIやVRなどの活用で、これからは今までにない広告の可能性が開ける。サイバーカルチャーの論客として活躍してきた米WIRED創刊編集長ケヴィン・ケリー氏と電通デジタルCEO の大山俊哉氏が広告の未来について語り合った。
大山:ケリーさんの新著『<インターネット>の次に来るもの』を非常に興味深く読みました。産業革命に匹敵する時代の変化の転換点が訪れ、何十年も変化が続くという指摘には大いに感銘を受けました。
ケリー:デジタル世界は今、ここ数十年の開発でテクノロジーの基本的要素がそろいました。特に広告やブランディングの基本となる、人々のアテンションを扱うテクノロジーがいろいろ進歩し大変化が起きると考えています。
大山:広告でもデジタルの活用で、2020年ぐらいまでに、テレビやデジタルサイネージでも細かいターゲティング広告を打つことが可能になると思います。
しかしこの業界に、大手コンサル会社やIT企業までが参入してきて、広告会社の競争力が低下する懸念があります。デジタルの世界は変化が急激で深いと感じます。そうした新しい世界に対応するために最近、電通デジタルを設立しました。
ケリー:私はこの本の中で、デジタル時代の新しい広告の可能性についても触れています。例えば、あるブランドのプロダクトをインフルエンサーに無償提供してネットで広めてもらうというやり方は、すでに使われている手法です。
また大きな影響を持ちそうなのは、口コミを活用して広告を広げていく仕組みです。広告に埋め込まれたデータでトラッキングでき、それに付随してマイクロペイメントのシステムが使われることで、これまでリーチできなかった場所に対しても広く広告が流れる仕組みです。
もっと重要なのは、広告を一般の人々が作り出す時代が来るということです。ネットには一般人が大量に投稿しており、何十億人ものファンが、自由に広告を作って流してくれる時代が来ないとは言い切れないと思います。
こうした新しい広告を効率よく配信するのは、大手のプラットフォームです。いずれは、Facebookやテンセントなどが手掛けるはずです。御社も検討すべきです。
大山:われわれは、クライアントにカスタマイズしたソリューションを提供する側にいるので、いろいろなプラットフォーマーやスタートアップ企業と一緒になって創っていきたいと思います。
ケリー:一番手でなくてもいいのです。Facebookが最初のソーシャルメディアではなかったように。
大山:現在一番関心を持っているのは、人工知能(AI)の可能性です。
まずは広告の配信をするときに、求めている人を探し出して的確に届けられるようにすることに応用できないかと考えています。配信精度が上がれば、まずは大きな効果が期待できます。その次にはクリエーティブにも応用し、AIが今までのノウハウを学習して、気の利いた広告を作ってくれたらと思います。
ケリー:広告のクリエーティブは難しいですが、20年以内には、AIがアシストするようなツールができると思います。
一方で、データをマッチングするようなプロセスでは、5年以内には使えるようになるでしょうね。パーソナライズしたり、インフルエンサーの様子をマッピングしたりするといった、手間がかかる仕事には早晩関わってくると思います。
AIのソフトはすでにクラウドで販売されており、すぐにでも実験を始めることが可能です。今後を見定めるためにも、いろいろな種類のサービスを試してみるのがいいと思います。
大山:ケリーさんは、バーチャルリアリティー(VR)についても強調されていましたが。
ケリー:VRはFacebookがオキュラスを買収したり、マジックリープ社が資金を調達したりと動きが活発です。大手のネット企業は、VRが未来のソーシャルプラットフォームの鍵を握っていると考えているからです。
まだデバイスが十分な数販売されておらず、コンテンツができていないという問題を抱えていいますが、10年以内には文化の中にしっかりと埋め込まれていると思います。
大山:やはりコンテンツが大事ですね。最近日本では、動画配信大手の英パフォーム社がJリーグの放送権を買ったという報道がありました。選手が胸元にカメラを装備して迫力のある映像を撮り、それを個別にスマホで配信できるようになれば、従来よりも高額な放送権に見合うだけのコンテンツができる可能性がありますね。
ケリー:VRというのは、そういったインタラクションを増やす方法です。全身を使うことになり、非常に強力なインタラクションが起こることで、より多くのアテンションが生まれ、広告の新しい手法や可能性にもつながっていくと思います。
話題のポケモンGOは、こうしたイノベーションが起きるきっかけになっています。こうした世界に新たに広告も進出していくことが可能になりました。
大山:配信の仕方や、表現の仕方など、アテンションの捉え方などをきちんとすれば、広告はまだ非常に伸びるチャンスがあると確信しました。
電通デジタルの社員がこれからの10年から20年をちゃんとやっていけるよう、今日お聞きしたことを伝えていきたいと思います。どうもありがとうございました。
対談の完全版は電通デジタルのウェブサイトをご覧ください。
https://www.dentsudigital.co.jp/topics/2016/0810-00013/