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グローバル最前線No.2

日本と海外をつなぐビジネス
〜日本のテレビ番組を海外で放送するワクワクジャパン〜

2016/11/15

グローバル化が進む中で、企業がアプローチすべき市場も海外へと広がっている。本特集では海外展開を行う企業にインタビュー。具体的な事例を交えながら、グローバル戦略における成功のポイントを浮き彫りにしていく。

 

民放からケーブルテレビまで、国内で放送されるさまざまなテレビ番組。それらを一つのチャンネルに再編成し、海外で放送しているのがワクワクジャパンだ。2014年のインドネシアからスタート。東南アジアを中心に6つの国と地域(16年10月現在)で放送しており、拡大を続けている。日本のコンテンツ発信が広がる背景にはどういった仕組みがあるのか。ワクワクジャパン マーケティング部長の山口裕二氏に聞いた。

アジアから開始した理由は「両方面のニーズ」

 

─ まずはワクワクジャパンの事業について、概要をお聞かせください。

山口:日本のコンテンツを24時間365日、海外で放送するチャンネルです。番組編成は国によって異なりますが、基本的には、日本のドラマから「ちびまる子ちゃん」などのアニメ、スポーツから音楽番組まで、ジャンルを問わず放送しています。ドラマは制作された時代を限定していません。NHKの朝ドラなども、「おしん」「あまちゃん」「ごちそうさん」の3本立てなどで流していますね。

─ 日本のあらゆる放送局から番組が集まっている形ですね。

山口:さらにチャンネルの背骨となっているのが、日本のローカル局の番組や旅番組、カワイイカルチャーの特集など、日本を伝えるコンテンツです。オリジナル番組も制作しています。

─ ワクワクジャパンでは、全ての番組を国ごとに現地の言葉に変えて放送しているそうですね。

山口:インドネシアならインドネシア語、シンガポールなら英語、ミャンマーならミャンマー語など、日本のコンテンツを現地の言葉で届けています。これが最もユニークなところであり、この事業で大変なところです。特にアジア各国は使用言語が分かれており、この部分のローカライズコストが高いんですね。インドネシア語やミャンマー語などがその例です。

インドネシアのウェブページ
 

─ これまでの歩みを振り返ると、14年2月にまずインドネシアで放送開始。その後、ミャンマー、シンガポール、タイと拡大し、16年9月に台湾、10月にスリランカでも放送開始されています。

山口:現在はアジア中心ですが、欧米などでの放送も今後展開していく予定です。ただその中で、まずアジアから始めていこうと考えました。

─ ローカライズコストが高いというお話でしたが、それでもアジアから始めたのはなぜでしょうか。

山口:ワクワクジャパンの収入のひとつに、広告ビジネスが挙げられます。その点から考えたとき、アジア各国は日本に対する興味や愛着が強く、インバウンドニーズがありました。「日本ファンを増やす」というチャンネルの目的にもつながります。一方、アジアに進出した日本企業の多くが現地の人々にアプローチできるコミュニケーションツールがなく苦労していました。そういったアウトバウンドニーズも確認できたため、両方を踏まえてアジアから始めた形です。

企業や大学にとって、ワクワクジャパンが便利だった理由

 

─ インバウンドニーズとアウトバウンドニーズの両面がアジア各国にあったということですね。まずは、インバウンドニーズについて具体的に教えてください。

山口:やはりニーズは上昇を続けています。訪日旅行者は2000万人に達していますが、例えば台湾だけで380万人を数えます。また、インドネシアの旅行客も、ワクワクジャパンが進出した14年ごろは10万人ほどでしたが、今は30万〜40万人に増えているんですね。

その中で、ワクワクジャパンはあくまで有料放送ですから、決して国民の大多数が見るわけではありません。ただ、お金を払ってテレビを見る人はその国の富裕層です。そして、日本に来たり、日本食を食べたりする人、つまりインバウンドニーズの中心となるのも富裕層です。実際、自主調査で評価がいいのは、日本のローカル番組。そもそも訪日に先立ち日本を知りたい富裕層が見ているので、そういった反応になっています。これは、後ほど話すアウトバウンドニーズにもつながります。

 

─ その国のテレビ事情や現地の意識調査なども行ったのでしょうか。

山口:調査はいろいろ行います。その国のプラットフォームやコンテンツの受容性など。例えば台湾は、各番組に「○歳以上」というレーティングをつけなければいけません。日本に比べると、海外は厳しいんですね。あとは宗教や法律による縛りも国ごと違います。

もちろん、マーケティングも重要です。顕著な例が、最初に進出したインドネシアですね。日本は放送事情が特殊で、有料放送は10%そこそこしか普及していませんが、世界平均では40〜50%が当たり前。先進国になるほど70〜80%へ増えていきます。インドネシアもやはり10%ほどしかなく、これから経済が発展する中で普及するポテンシャルがあると思いました。

─ 一方のアウトバウンドニーズについても、具体的な動きを教えてください。

山口:日本の自治体や企業に話を聞くと、海外でPRしたいけど「国別にパートナーを選択するのが分かりづらい、面倒くさい、具体的にどうすればいいか分からない」という声がすごく多かったんです。そこで、ワクワクジャパンが現地にリーチする役を担いました。1つのコンテンツを同時に多国に展開できる。あるクライアントからは「言い方は失礼かもしれませんが、楽(らく)で便利ですね」と言われます(笑)。でもそれが目指すところです。

顕著な取り組みが、日本の大学紹介番組です。大学とその地域を紹介する番組をオリジナルで作成。現地で放送して留学生を募るという流れです。この企画についても大学からのニーズが高く、来年まで予約が入る状況となりました。

日本で配布中のワクワクジャパンニュース
 

─ インバウンドとアウトバウンドの両方のニーズを、テレビでつないでいるということでしょうか。

山口:テレビではありますが、映像そのものがソリューションになっていると感じます。今はインターネットをはじめたくさんの情報源はありますが、その中のどれが正しいか分かりにくい。アジアの人も、日本を間違ったイメージで捉えていることがあります。例えば、秋葉原のカルチャーが日本全体の光景だと認識しているなど。その中で、テレビは目利きメディア、信頼メディアという位置付けになっています。そこに私たちが「ジャパン」というフィルターをかけて、両者のニーズをつなげる構造がつくれていると思っています。

海外で必要となる「横串」と「失敗の共有」

 

─ ワクワクジャパン自体の知名度を上げるためには、どのような施策を行ったのですか。

山口:知ってもらうためのプロモーションやイベントを現地でいろいろやりました。音楽フェスティバルやウルトラマンショー、カフェを開いて日本を楽しむスペースを3カ月運営するなど。著名なプロデューサーのお化け屋敷を空輸して、現地に設置したこともありました。これは4時間半待ちになるほどの人気でした。

海外でのプロモーションイベントの模様
 

─ 日本を知るイベントを現地で開き、その中でチャンネルについても知ってもらう形でしょうか。

山口:プロモーションやイベントと番組を連動させながら、知名度を上げていきました。音楽事務所の方も非常に協力的でしたね。ここでも海外に出たいというアウトバウンドニーズと合致していたのではないでしょうか。国によって感度は違いますが、現地イベントの番宣をチャンネルに入れるなどで、音楽事務所と私たちがウィンウィンになれたと考えています。

─ ワクワクジャパンのビジネスモデルがよく分かりました。最後に、グローバル戦略を進める上での鍵となるものを教えてください。

山口:まずは、オールジャパンでやること。日本国内だけの風習や競合関係にとらわれすぎない事が大切だと思います。それは企業内でもいえることで、企業の海外部門だけで展開することは困難で会社全体で打って出るので、社内の横串機能が必要になると感じています。

─ 社内外問わず、連携していくことが大切なんですね。

山口:あとは、失敗に寛容になることでしょうか。確実に失敗しない事業はもう誰かがやっています。私たちも失敗ばかりですから(笑)。いかに共有していくかそして、次のステップにチャレンジすることが大切だと感じています。