前代未聞の「視聴者同時参加型テレビCM」
~テレビの力、そして新たなCM手法の挑戦~
2016/11/11
日本テレビ系「踊る!さんま御殿!!」枠内で、9月20、27の両日、「絶対押すなよ! 氷結ゲット〜ダチョウ倶楽部のあの王道ネタにみんなで参加!〜」と銘打って各日とも1回のみオンエアされたテレビCM。参加視聴者は先着順によりコンビニで氷結1本を無料で受け取れるキャンペーンです。わずか60秒×2回、しかもライブでスマートフォンを使って参加するという制約の中で、「絶対押すなよ!」の連呼に反応し、約600万ものタップ数を記録。合計15万本のサンプリング商品を先着で得られる応募権利がすべて申し込み完了となり、成功を収めました。
視聴者同時参加という新たなテレビCMにチャレンジした、HAROiDの田中謙一郎氏、電通ビジネス・クリエーション・センター事業開発室の春田英明氏、電通ラジオテレビ局の新保泰史氏に、その手法、具体的な反響、成功の要因、そして今後の展望などについて聞きました。
テレビCMにスマホで参加。タップ数に応じて“氷風呂”の氷が割れる
─ キャンペーンはどのような仕組みでしたか。
新保:テレビCMを起点として、スマホを媒介にコンビニへの来店を促すという仕組みです。これまでにない、全く新しい仕掛けによって実現しました。CMにはダチョウ倶楽部さんが登場し、熱湯風呂ならぬ、氷に覆われた氷結風呂にまたがって「絶対押すなよ!」という王道ネタをやる。その氷はCGでスマホで参加すると、そのタップに応じて実際のCMの氷がリアルタイムで連動して割れていきます。最後には、上島さんが熱湯ならぬ氷のお風呂にみんなに押されて落ちるという進行です。
春田:参加した視聴者は先着順でクーポンコードが取得でき、それをコンビニの店頭の情報端末に入力するとキリンの氷結を1本もらえるクーポンが発券されるというのが基本的な流れです。
新保:オンエアは日本テレビ系で毎週火曜日の午後8時から9時にキリンが提供した60秒のCM枠を活用しました。最初はこの枠を確保するところから動きました。通常なら60秒CMを放送して終わりなのですが、今回はテレビCMを見た人がセカンドスクリーンのスマホで参加する、そしてコンビニに行ってもらうという、単にテレビCMを見て終わりではなく、実行動に移してしてもらう企画になっています。
重要ステークホルダーのコンビニにクライアント自ら送客。Win-Winの関係を構築
─ キャンペーンを立ち上げた背景は?
春田:商品の認知度を高めたり、キャンペーンの世界観を伝えるという通常のテレビCMの効果にプラスして、リアルな売りに直結させたい、ということがクライアントの課題でした。
今回連動させた、コンビニ各チェーンは、キリンにとって重要なステークホルダーです。そこへの送客を図ることも営業支援の観点から重要なミッションでした。
新保:それとキリンにとっては、コンビニに販売スペースを確保することが重要でした。そこで、テレビを使って話題を喚起し、コンビニに足を運んでもらう。集客できれば販売スペースを継続的に確保する交渉材料になりますし、コンビニといい関係をつくれるのではないかと期待しました。
HAROiDと電通のタッグで生み出された、視聴者同時参加の“一大イベント”
─ 今までにない試みだったと思いますが、技術的側面はどうでしたか。
田中:HAROiDが設立時から目指していたのは、いわゆるO2O2O(オンエア・ツー・オンライン・ツー・オフライン)です。テレビからネットを通じて店頭へ導くというように、テレビの新しい価値をつくることを一つのゴールにしています。すでにHAROiDではデータ放送やスマホを使った参加型番組のシステムを日々運用しているので、運用ノウハウやシステムが構築されていました。
新保:60秒のテレビCMを流す中で、CG加工された氷をスマホでタップし、視聴者の行動に合わせて割れていくのはライブ(生放送)で行われました。視聴者が自ら行動を起こし自ら参加する、しかも全国一斉に。テレビとのシナジーを生みやすいのが、HAROiDの技術なのだと実感しました。
田中:氷のCGでは苦労しました。いかにリアリティーを持たせるか。視聴者のスマホのタップ数に応じて、いい感じに割れていくようにしなければなりませんし。そのためには、全視聴者のスマホからのタップをリアルタイムに全て取得し、それを集計し、テレビに描画することを実現する必要があります。システムとクリエーティブを高いレベルで両立することが求められます。
春田:技術的にはHAROiDでないと実現できない部分がたくさんありました。要するに、テレビでみんなが同時に参加するという、一種の“大イベント”をやったわけです。同時にやるというのは、すごく難しい技術なんです。
─ 告知はどのようにしたのですか。
新保:番組の中では、何時何分にCMが流れるかなどは言えないので、事前告知として、キャンペーンサイトを立ち上げたり、LINEやTwitter、Facebookなどで広告を展開。さらにクライアントのFacebookも活用するなど、ウェブ上での告知が中心でした。
田中:テレビCMとスマホ、そしてコンビニをつなげるという画期的な企画でしたから、各種ニュース媒体でも記事としてかなり取り上げてもらったことも後押しとなっています。
「絶対押すなよ!」というギャグネタをギミックに、「分かりやすさ」を徹底
─ クリエーティブはどのように決まったのですか。
新保:やはり、60秒という短い時間の中で、参加を促すものなので、パッと見て分かりやすい方が参加しやすいのではないかということは頭にありましたね。また、生放送で実施するので、インフォマーシャルとして日本テレビに制作してもらわなくてはなりません。クライアント、日本テレビ、HAROiDが協力して、クリエーティブをつくる結び付けは大切でした。
春田:最終的にはスマホを持ってコンビニに来店してもらう必要がある。テレビを見ている状態でスマホを取り出し、何らかのアクションをする。そこにクーポンを出したときのインパクトも大切でした。これがまず一つのコンセプトです。そして、やはり氷結というブランドの世界観である氷を登場させることになりました。
新保:定番中の定番である「絶対押すなよ!」というギャグネタを、こういうギミックで使うことで新しいエンターテインメントになるのはないかというのもありました。そうしたいくつかの組み合わせで、全員で議論していく中で誕生したクリエーティブです。
田中:普段は熱湯風呂に落とすのを、氷結ということで氷を割らせてそこに落とす。タップするという行動に移させるときに、「押すなよ!」といって押させる。そういうゲーム的な要素もあって、しかも自分がタップしたのが、テレビ画面に即座にカウントされて出てくる。視聴者みんなの力でやるので、参加感があるわけです。
新保:ただ、いろいろな案が出てきて、会議でもみんな悩みました。当然タレントのスケジュールもありますし。そこでダチョウ倶楽部というプランが出てきたときに、「それがいい!」と結構盛り上がりました。キリンサイドでもOK頂いた時は、面白いCMが出来そうなワクワク感はありましたね。
春田:コンビニなど流通サイドを含めて関与する人が多い中で、「ダチョウ倶楽部が出てきて氷が割れて落ちるんですよ」と本当に一行で内容を伝えることは分かりやすい表現だったと思います。シンプルで力強い企画であったためにコミュニケーションもスムーズにできたのではないかと思います。
タップ数は600万回。視聴者が自ら動く、能動的なテレビCM手法を確立
─ オンエア当日の苦労や、その後の反響は。
新保:CM中のスマホタップ数でいうと、各日とも約300万回。60秒の中で前振りが40秒くらいしかありませんから、実際は20秒ほどの間にみんなが必死になって押しまくってくれたということですね。
春田:参加者には先着順で1回目は8万本、2回目は7万本のサンプルを用意していました。CM終了後、改めてスマホでクーポンコードを取得する仕組みです。それで、合計15万本分、全てが応募で埋まりました。特にスピード感がすごかったのが2回目で、翌日のお昼前にはもう全て発行できたんです。
新保:一般的にテレビというと、基本的にお茶の間で見る、どちらかというと受動的なスタイルで見ている、という印象が強いかもしれません。それを今回の企画では、テレビCMを通して能動的に行動させることができ、最終的には店舗に足を運んでもらえた、というテレビメディアの新しい可能性を感じました。そして、これからもさまざまな広がりがあることを改めて実感しました。
CMで視聴者同時参加の一大イベントをつくる。その可能性を証明
─ 今回のキャンペーンが成功した要因をどのように感じていますか。
新保:前代未聞の「視聴者同時参加テレビCM」として展開したわけですが、改めてテレビというメディアの力を再認識しました。視聴率を毎分で見ると、偶然かもしれませんがCMオンエア前に視聴率が上がっています。その背景には、PRをいくつか実施しましたが、キリンからのLINE告知も効果があったと思います。テレビを見るきっかけを身近なものから促してあげる。テレビCMが参加型コンテンツとして認められれば、視聴者は興味を持って能動的に見てくれる。企画次第で、行動を喚起させ、最終的には流通にもつながっていくということを経験できました。
田中:われわれとしてもテレビのパワーのすごさを感じました。例えばスポーツ中継とか、番組でいうと24時間テレビなどは国民的なイベントになっていますよね。そういう、みんなが集まる、みんなが見る、みんなが感じるということを、テレビCMで生み出すことができた。
テレビCMでもイベントがつくれる、お祭りがつくれる、ということを感じましたね。
春田:デジタルや技術というと、効率の向上といった方向で考えられがちです。加えて今回はそれらが、ものすごく面白いものを生むことに貢献した事例ともいえます。エンターテインメントになったんです。
テレビの力、技術の力、それを掛け合わせてエンターテインメントとしてのCMができた。それが全く新しい形でしたので、視聴者にすごく刺さったのではないかと思っています。
新保:テレビに合う形のデジタル展開だったと思います。60秒という時間の制約があって、しかもその日1回しかやらないし、オンエア時間も分からない。それが来たときに、「今、参加しなきゃ!」という「今」感が大事かと思いました。こちらとしては、今この瞬間に、今見ているあなたに届けているわけです。しかも先着順というギミックもある。余計に気分的にあおられて、みんなが参加してくれたのだと思います。
視聴者がテレビCMのオンエアを待つ。そのとき、テレビCMはコンテンツになり、さらに効果を数字として見える化
─ 2週連続で展開したことの意味・効果はどのように感じていますか。
新保:2週連続には、やはり意味がありましたね。最初の週に「来週もやるから」と振っておいて翌週につなげる展開にしました。ですから翌週は、体験したことがある人は構えてくれたと思います。テレビには、視聴者の定期的な視聴行動がありますので、やはり効果が出たと感じています。
春田:Twitterを見ていると、2回目の27日には「もう流れた?」「まだ流れていない」といったやりとりがされていて。テレビCMのオンエアを待ってくれているユーザーもいるようでした。
新保:テレビCMを待ってもらえるのはうれしいことですよね。テレビCMにはコンテンツとしての価値があり、それを作れることが分かりました。今後は、よりデジタルとシナジー効果を生み出して、よりテレビCMの「コンテンツ化」を進めるという新しい道が開けるのではないか、と思っています。
春田:そういう意味では、もともとあるテレビのメディアパワーやテレビCMの力を今回の企画によって、より「見える化」できたといえますね。
新保:テレビでは、よく話題づくりということがいわれますが、話題づくりというのは数値化しにくいですよね。それが、今回の取り組みにより視聴者がどう行動したかを数字として具現化ができた。これはテレビに関わっている人間にとって、非常にうれしい結果でした。
春田:広告会社としては、そうしたデータをクライアントに見える化して届けられるのは喜びです。さらにクライアント側にとって、こうした出稿によって自社内にノウハウを蓄積できるというメリットもあると思います。
新たな取り組みに、関係者からは好評を博す
─ クライアントやコンビニサイドを含めて、反響はどうでしたか。
春田:コンビニサイドでいうと、企画説明に伺ったときからコンビニシステム担当者から「面白いね」といっていただいて、確認事項など煩雑な面もあったと思いますが、快く協力していただいて進められました。コンビニにも貢献できる可能性を秘めていると思いました。
新保:どこでもやっていない今回の取り組みは、クライアントにとっても新しいものでしたので、社内でも非常に反響があり、好評だったと聞いています。Yahoo!急上昇ランキングでは、2週とも上位(2位、4位)を獲得するなど、その日1回60秒のCMでここまで検索されることには驚きました。
その背景には、テレビの力を「見える化」することの難しさがあります。もちろん視聴率というものはありますが。それが今回は、行動として数字化できましたので、とても理解しやすいものとなりました。テレビを通してコンビニへの顧客の誘導という結果まで、データと数字をワンストップでクライアントに届けることができました。それが非常に良かったのではと思っています。
よりパワー、集客力あるテレビCMの可能性。新たなクライアント課題解決法に
─ 今後はどのような展開が考えられますか。
田中:仕組みや仕掛け、技術はこのチームで確実に用意できることができます。ですから、われわれが用意した材料を使って、いろいろなことが企画できる。クリエーティブの方とも組んで、テレビCMを使ったイベントなどにも取り組んでいきたいですね。
春田:こうした場や技術を持ったチームにアイデアが組み合わされば、実際にこれだけの人がテレビCMで盛り上がり、行動に移すということが今回の企画で証明されたと思います。そういう意味では、クライアントの課題を解決する強力な手段が一つ増えたわけです。
やり方にはいろいろあると思っています。今回のようにタップしまくるというのもあるし、何か謎をみんなで解く、あるいはチーム対抗戦など、それこそアイデア次第で可能性は広がります。ですから、いろいろな人にこのチームに参加してほしいと思っています。
新保:デジタルとソリューションを掛け合わせるとテレビCMにも本当にいろいろな出し方があると感じました。それによってテレビCMの効果を「見える化」することができた。生みの苦しみで大変なことはたくさんありましたが、さまざまな切り口でさまざまなことにトライできるベースができたと思っています。
この財産をもとに、もっと効果的、もっと違う切り口で、クライアントにとってメリットのあるテレビCMの活用を提案していきたいと思っています。60秒を全国の人が同じタイミングで見て、行動に移させることができるのは「テレビならでは」なのではないかと思います。
田中:それによってブランドのファンが増えたり、ロイヤルティーを上げていったり。今までのテレビCMとは違った使い方が生まれたということですね。
また、今回はコンビニの情報端末を活用したのですが、店内にあるコピー複合機やWi-Fiも、動いたユーザーの受け入れに利用できそうです。この点では、HAROiDの出資元でもあるビーマップという会社と密に連携しており、ソリューションの拡充をされに広げていく計画です。さらには送客する先もコンビニだけでなくスーパーなど、さまざまな業種に拡大していける。これからいろいろ試行していきたいと思っています。
春田:今回のキャンペーンでは、全国ネットでライブで同時体験しているわけです。これまでは、その人たちとつながる手段もきっかけもあまりなかった。それが今回のような仕掛けによって、実際にデジタルでつながった。もともとテレビという場として成立しているところに技術を導入していくと、つながることができる。そこに意味があって、面白い部分であると思っています。
これからもこのチームを中心に、社内に仲間を募って、さらに新しいことにトライしていきたいですね。