loading...

電通報ビジネスにもっとアイデアを。

Dentsu Design TalkNo.86

メンタリストDaiGoとファンドマネージャー房広治が語る「コンサルティングの心理学」(後編)

2017/01/14

メンタリストのDaiGoさんは、心理学のプロフェッショナル。最先端の心理学を使って、ビジネスからエンターテインメントの領域まで、幅広く活躍しています。一方の房広治さんは世界の金融界で活躍するファンドマネージャー。英国オックスフォード大学留学中には、当時オックスフォード在住のアウンサンスーチーさん宅に下宿するという珍しい経験の持ち主です。その後は金融界の花形であるインベストメントバンカーとして大型投資案件を数多く成功させ、現在はアウンサンスーチーさんと再会し、ミャンマーの成長に向けたコンサルティングや投資を手がけています。今回のデザイントークでは、二人を知る電通ビジネス・クリエーション・センターの能勢哲司さんが聞き役となり、「コンサルティングの心理学」について語り合う後編です。

(左から)房広治氏、DaiGo氏
 

M&Aにおける心理戦

DaiGo:M&Aはそもそも心理戦ですよね。オックスフォードには「ブラフィング」というテクニックがありますよね?

房:オックスフォードというよりも、英国人の知恵・テクニックですね。英国人は、本当はわかっていない質問をされても、わかっているふりをすることがよくある。また、答えると自分の都合の悪い状況では、うまく、質問をかわす。イギリス人は話すのもうまいし、交渉もうまい。

DaiGo:「ブラフ=はったり」ですよね。僕はテレビでババ抜きをしますが、パッと相手を見た瞬間に、「あなたはこういう性格なので、真ん中と両端には絶対にババはないですね」と決めつけます。そして相手の顔を観察するんです。これが「ブラフ」です。

もし図星だったら、相手は「読まれた!」と思って緊張します。決めつけに対する相手の反応を見て、心理を読んで探る。メンタリストは、「プッシュステートメント」というこの手法をよく使います。M&Aの心理戦と近いですよね。

房:私はM&Aの交渉では、相手のブラフをわりと読める方だと自分のことを思っていましたし、実際に読んできました。ですが、最初にDaiGoに会った時に、DaiGoは全然違うレベルで、自分は全然相手にならないということを思い知りました。

DaiGoがナプキンに何かを書いて、それを僕の前に置いたんです。そして「6色の中から5色を順々に選んでください」と言うので、5色を選びました。その後、DaiGoがナプキンを開いたら、私が選んだ順番がそこに書いてあったのです。これはもうDaiGoに対抗するのは無理だなと。

DaiGo:すいません…(笑)

房:結局、DaiGoの場合は、誘導しているんです。彼が予想した順番から、私が外れそうになると、考え直させて違う色を選ばせる。私は、彼の思い通りの行動を取らされていたのです。

DaiGo:みんな、自分はすべて自分の意思で決定していると思っていますが、実はそうではなく、本当は周りの環境や反応にかなり左右されているのです。

価格決定で面白い実験があります。花瓶の価格を決めてもらう実験で、事前にゲームをしてもらいます。Aグループは1から1000までの数字しか出てこないゲーム、Bグループは1000から2000の数字しか出てこないゲームです。ゲームの後で価格を付けてもらうと、Aグループは1000円以下の値段をつけ、Bグループは1000円以上の値段をつけます。値付けとはまったく関係ないゲームの数字に影響を受けているわけです。ただし、本人たちは影響を受けていることに気づいていません。これが「プライミング効果」です。

相手の感情を読む学問もあります。表情物理学では、顔の表情筋の組み合わせから感情を読み取ります。一番わかりやすいのが口のまわりにある口輪筋で、リラックスして口が軽く開いていると「YES」のサイン、緊張してきゅっと結んでいると「NO」のサインです。

広告会社の皆さまはプレゼンする時は、相手の口を観察しながら行うといいですよ。NOのサインがでたら、その部分は飛ばして、YESのサインが出ているところを厚めに説明すれば、相手の心に刺さるプレゼンや交渉ができます。

能勢:では、どうやってその技術を習得すればいいのでしょうか?自分の読みが当たっているかどうかは、相手にしかわかりませんよね。

DaiGo:練習して、正解率を上げていけばいいんです。

能勢:周りの人に練習台になってもらえばいいのですね。

DaiGo:CIAなどに表情分析のプログラムを提供している心理学者、ポール・エクマンがWebサイトで表情分析のプログラムを提供しています。そういうものを使って練習するのもいいかもしれません。

それに、ゲームの「人狼」もお勧めです。自分が嘘をついたり、相手の嘘を見破ったりしないといけませんし、最後に答え合わせができますから、いい練習になると思います。

 

行動力を高めるためには何が必要?

DaiGo:房さんや僕は「これでいける!」と思ったら、とりあえずやってみようとするじゃないですか。その最初の「とりあえず」ですら、怖がってできない人がかなり多いのが実情です。では、どうすると勇気が出せるのか。房さんを見て勉強になるのは、相手が「それはちょっと」と拒否しても、全然ものおじしないで、次のチャンスがあるからいいやと執着しないことです。フットワークも軽いですよね。

お気づきの方もいらっしゃるかもしれないけど、僕はオタクです。家が大好きで、行動できない人間だったんです。ある時、どういうことをすれば人間は行動力が上がるのかをネットで調べました、オタクだから(笑)。

DaiGo:僕が実践したものの一つが運動です。運動をすると何歳になっても脳が成長するんです。また、定期的に運動をすると、ネガティブな遺伝子のスイッチをオフにできて、だんだんポジティブになっていくこともわかっています。

もうひとつが、ハーバード大学のエイミー・カディ准教授が提唱する「パワーポーズ」。自分を大きく見せるように、背筋を伸ばして胸を張った良い姿勢を2分間するだけで、人間は勇気が湧いてきて、リスクをとる勇気を持てるようになります。どれくらい効果があるかというと、ギャンブルのようなゲームで実験をすると普通は8%ぐらいしかリスクを取らないのに、パワーポーズを2分間すると33%に上がります。すごく簡単な方法なので、心理戦の時などに勇気を出したい人は運動をしたり、パワーポーズをとったりしてみるといいと思います。

能勢:言われてみれば、DaiGoさんはある日を境に、いきなりライザップに通い出して、ストイックに運動に取り組み始めましたよね。運動するようになった前と後では、脳の働きや考え方が大きく変わるようなことはありましたか?

DaiGo:アイデアを出すスピードがかなり速くなりました。運動をして30分後に本の構成をしたり、ビジネスアイデアを考えたりしているのですが、運動をする前は2週間ぐらいかかっていたことを3時間ぐらいでできるようになりました。すごく不思議ですけど、運動をするようになってからは、面白いこともいろいろと考えられるようになりました。

ウィズというお見合いサービスを行う会社の男性向け広告をつくりました。「あなたの性格を読む」ということで、女性の写真を3枚ずつ見せて、どの女性がタイプなのかを当ててもらうんですけど、実は「女性の写真の間に、ゴリラの写真があったことに気が付きましたか?」というのが最終的なオチなのです。

「女性が求めるのはささいな変化に気づく力だ」というメッセージで、気づけるようになるためのヒントを与えましょう、という広告です。わりと尺の長い広告だったのですが、コンバージョンが通常の広告の10倍になりました。

これは「選択的注意」と言って、人間を特定のポイント、この場合は写真の女性ですが、そこに集中させると他のものが見えなくなる性質を利用したわけです。心理学を利用するといろいろと面白いことができます。

房:そうですね。M&Aで向き合う相手は社長です。せっかちな人が多いので、注意力は2分間ぐらいしかもちません。そこで、30分のミーティングであれば、初めの2分でわかりやすく相手の興味のあることを行う。すると、相手はもっと話を聞きたくなる。その時に、DaiGoの「ゴリラの事例」のような相手を驚かせられるネタがあると、心をわしづかみにできます。

DaiGo:ジョン・ケープルズが著書『ザ・コピーライティング』の中で、「人間の心を惹く言葉には5つの要素がある。新情報・得になること・好奇心をあおる書き方・手軽・信憑性があること」と書いています。こういう要素を、その2分間に入れることができれば、きっとうまくいくのではないでしょうか。

能勢:房さんも、DaiGoさんも、活躍の幅が広くていろんな知識をお持ちです。我々のコミュニケーション・ビジネスに参考になるところがあると思いました。本日はありがとうございました。

<了>
こちらアドタイでも対談を読めます!
企画プロデュース:電通ライブ クリエーティブユニット第2クリエーティブルーム 金原亜紀