「その瞬間、その場所、その人」に届ける
2016/12/05
アウト・オブ・ホームの名の通り、屋外や電車内など家の外で接触するあらゆるメディア領域をカバーするOOH。ブランド体験からリーセンシー(購入直前の広告視認)効果に至るまで多様な機能を担い、リーチ効率も非常に高い。だが、個々の媒体単位でのデジタルサイネージ化が進む一方、街中に散らばるメディアを束ねることは難しく、空き枠の管理や広告素材の規格、効果指標も一元化が困難だった。
そのOOHメディアに今、デジタル・トランスフォーメーションの波が押し寄せている。生活者が常時モバイルデバイスでつながり続けている時代を迎え、「その瞬間、その場所、その人」に向けたコミュニケーションを、媒体社の垣根を越えて実施することが可能になってきた。具現化しつつある「ダイナミック・デジタルOOH」、その先端を紹介していく。
ターゲティングの精度はここまで高まった
「マチログ」発進 携帯の基地局データでターゲットの居場所を把握
もともと“ケータイ”文化が発達し通信環境も整っている日本は、世界でも有数のモバイル先進国。その位置情報テクノロジーとOOHは極めて高い親和性を持つ。
全国に張り巡らされた携帯の基地局は、電話やメールを着信させるために携帯電話の位置を周期的に把握する。ドコモ・インサイトマーケティング、位置情報・統計情報分析のマイクロベース、電通(アウト・オブ・ホーム・メディア局&人の流れラボ)が協働する「マチログ」ではこの秋、NTTドコモの基地局データから特定エリアの人口を推計する「モバイル空間統計」と独自の分析技術を掛け合わせることで、人の流れを25メートルメッシュ単位の「マイクロジオデータ*」で明らかにすることに成功。今まで数値化・可視化が難しかった屋外広告への接触が、性・年齢・時間帯別に集計できるようになった。NTTドコモの契約者は約7000万人と、データの代表性も十分に確保できている。東京・渋谷からスタートし、東京の他地域、大阪、名古屋など、大都市部の7地区に拡大予定だ。
*空間解像度やリアルタイム性の高い位置情報データの総称
AIが高速移動中の車種を即時に判定
日々進化するAI(人工知能)の応用も進む。今年9月、電通とクラウディアン、Quanta Cloud Technology Japan、スマートインサイトは、JESCO CNSの協力の下、ディープラーニングを活用したOOH実証実験に成功した。
車種について膨大な情報を学習したAIが、ビデオカメラで捉えた走行中の車のメーカー名やモデル名、年式までも分析・判定。データを即時に反映し、その車種の所有者に向けた広告を、道路近くに設置されたデジタルサイネージに表示する。判別の精度は95%以上。道路の時間帯別・車種別通行量も自動的に数値化できるため、媒体効果のより正確な把握につながると期待されている。
ネット広告の効果を分析、結果をOOHに反映
世界に目を広げると、ネット広告の効果データをスピーディーにOOHに反映する新たな試みも始まっている。英ユーロスターはこの春、新型車両e320のプロモーションで五つのターゲット層に合わせて異なるクリエーティブ表現を用意。まずユーチューブで動画広告を配信し、モバイルでの反響の大きかった層や場所、時間帯に合わせてOOHを掲出した。電通イージス・ネットワーク傘下のカラ、ポスタースコープ、アイプロスペクトが共同で取り組んだ。
OOHとモバイルの相乗効果に期待
従来は多額の費用がかかったり、あるいは限定的であったりしたOOHオーディエンスデータの収集も、今回紹介したようにモバイルを活用することで効率的かつ汎用(はんよう)的に把握できる時代になってきた。
さらに、モバイル広告単体でキャンペーンを実施したときに比べ、OOH広告を組み合わせて実施した場合には、広告認知率で約2倍、モバイル広告のクリック率においては約1.6倍の効果があったという英国での調査結果も出ている。元来OOH広告は幅広いリーチを獲得でき、視認率の高いメディアであることから、モバイル広告と組み合わせることにより、このような高い相乗効果が期待できるのだと考えている。ロケーションごとのオーディエンスの把握が可能となった現在、従来型のメディアで捕捉が難しいターゲットに対しても、OOHで認知を広げ、モバイルで刈り取る(リターゲティングする)マーケティングスタイルが主流になってくるだろう。
外部データとの連携で
最適なクリエーティブをリアルタイムに配信
デジタル化されたOOH(DOOH)のさらなる進化形が、世界で急速な拡大を見せる「ダイナミックDOOH」だ。外部データとの動的・即時な連携で、ロケーションやターゲットに合わせて最適化したクリエーティブ表現を配信することを指す。
このダイナミックDOOHの領域で世界の先陣をいくのが、電通イージス・ネットワーク傘下のOOH専門エージェンシー、ポスタースコープ。同社の保有するプラットフォーム「LIVEPOSTER」(ライブポスター)を活用することで、天候、交通情報、SNS、在庫データなどあらゆるデータと連動し、媒体社やフォーマットの違い、さらには国境を超えて、広告をリアルタイムで一括配信する。まさに「その瞬間、その場所、その人」をピンポイントで狙える強力なOOHコンテンツ・マネジメントシステムだ。日本でもネットワークの構築が急速に進められており、主要な大型街頭ビジョンや駅構内などで実施準備が進められている。
Case 1.
欲しいプレゼントをさりげなくアピール
例年過熱するクリスマス商戦。しかし、英家電量販店カリーズPCワールドによると66%の人が欲しくないものをもらっており、喜ばれないプレゼントに9億ポンドもの予算が使われているという。この“無駄”を救うために、同社は2015年のクリスマスに向けて、生活者が愛する相手に自分が欲しい製品をさりげなく伝えるキャンペーン、「スペア・ザ・アクト」を実施した。
キャンペーンでは25歳から44歳をターゲットに、自分が欲しい同社製品と相手の目に触れる可能性の高い場所や時間帯を公式サイトで募集。投稿を反映した315件のパーソナルメッセージが、英全土の700ものスクリーンにライブポスターを活用して配信された。キャンペーンは他媒体やSNSなどを通じて拡散。メッセージを目にした54%が「希望された製品を購入する可能性が高い」と答え、カリーズPCワールドの売り上げは前年比105%を記録した。
Case 2.
“その日、最初の一杯”を近くのパブで
英ディアジオのカクテル用リキュール・ピムスのキャンペーン「ピムスライブ」では、“その日、最初の一杯”を促すために天気、気温、そして最寄りのパブの空席情報を活用して客足につなげた。パブの各店舗に設置された端末が空席情報をリアルタイムに把握。空席情報、天気、気温に応じたメッセージをライブポスターが自動的に生成し、パブ近くのデジタルサイネージに5分ごとに表示する仕組みだ。
このキャンペーンにより、パブでのピムスの売り上げは前年比13%増加。店舗によっては94%もの売り上げ増になったところも現れたという。
Case 3.
“リアルタイムマップ”で楽々レンタサイクル
サンタンデール銀行がスポンサードする英ロンドンのレンタサイクルでは、市内750を超えるレンタル拠点の場所と自転車の在庫状況を“リアルタイムマップ”としてライブポスターが発信。観光客などの利用者は空いている自転車がある場所を探し回る必要がなくなり、利便性が格段に向上。その結果、キャンペーン前に比べてブランド認知は19%、サービスの利用率は16%高まった。
「ライブポスター」が
ダイナミック・デジタルOOHを加速する
ポスタースコープUK(電通出向) ベンジャミン・ミルン氏
グローバルで拡大するOOH市場。DOOHの隆盛がその成長をけん引しています。先陣を切る英国では、ネットワーク化の浸透やスクリーン数の増加などを背景に、2019年までにDOOHがOOH市場の過半数に至ると予測されています。
ダイナミック・デジタルOOHは、次世代OOHの要。ライブポスターがその潮流を加速します。その強みは「その瞬間、その場所、その人」に最適なメッセージを大規模かつ同時に配信できること。英国マイクロソフトのCortanaキャンペーンでは、天気や場所のみならず、移動手段や各種イベント情報などに応じて、1万を超えるバリエーションのコピーをライブポスターで自動生成した結果、購買意欲が67%も上昇しました。英調査機関VirtuoCityの調査でもライブポスターを使ったキャンペーンの優位性が示されています。
欧米でスタートしたライブポスターですが、シンガポールや香港などアジアでの実績も形になり始めています。日本でも、媒体社との調整などを重ね、実施に向けてまさに準備が整いつつあります。2020年に向けて大きく進化を遂げようとする日本で、ライブポスターが果たす役割は大きいと確信しています。