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動画による、これからの“地方創生”No.1

ここまでやるか、バイラルムービー
~小林市~

2017/01/16

地方から発信された「動画」が、全国の注目を浴びるケースが目立っている。 自治体や住民の作った動画が、移住や観光、地域住民の生きがいなど、 さまざまな効果を生んでいるのだ。その象徴のひとつが、宮崎県小林市の動画PRプロジェクト第1弾の動画「ンダモシタン小林」は、地元の資源を生かして全国に小林市の名前を広めた。

 

この動画はどんな課題から生まれ、何をもたらしたのか。小林市の肥後正弘市長と、制作に携わった電通CDC/Dentsu Lab Tokyoコミュニケーション・プランナーの越智一仁氏が対談。同プロジェクトを振り返った。

左から肥後正弘市長、越智一仁氏
 

「西諸弁」という資源が、小林市を広めた

 

越智:私は小林市の出身で、ずっと「地元に何か還元したい」と思っていました。ですから、今回の動画シリーズに携われて本当にありがたかったです。

肥後:こちらこそ感謝ですよ。動画のおかげでさまざまな人が小林市を知り、訪れてくれるようになりました。その結果、小林市民や出身者が本当に明るくなったんですよね。県外の人との会話のきっかけになりましたし、あの動画は市の誇りです。

越智:それはうれしいです。外から評価されるのは、インナーが盛り上がる意味でも大切かもしれません。何より、小林市の認知につながったのがよかった。動画を制作する際、市長は「多くの人に小林市を知ってもらいたい」とおっしゃっていましたから。ふるさと納税が増えたり、地元の商品がブレークしたりという相乗効果も生まれていると聞きました。

 

肥後:市長としていろいろな場所に行きますが、小林市を知っている人はまずいませんでした。人口減少や高齢化の中で、移住のPRやふるさと納税を募るにも、まず小林市を知ってもらわなければ何も始まらないんです。そこで職員と相談した結果、市を紹介する動画を作ろうとなりました。小林市の美しさを伝えるには動画がよいと。

越智:今後数年の課題設定を描いたときにまずは認知をとるべきと考え、第1弾では、この地域の方言「西諸(にしもろ)弁」にスポットを当てました。私も職員の方も、市外の人に西諸弁を話して驚かれた経験があり、それを題材にしました。また小林市は、動画制作の1年前から西諸弁で「一緒に」を意味する「てなむ」に、「ブランド」を組み合わせた造語“てなんど”をキーとした「てなんど小林プロジェクト」という取り組みで、西諸弁ポスターなどを作っていましたよね。それともうまく連携することができました。

肥後:西諸弁は、小林市にとってとても大切な資源なんです。ですから、第1弾の動画ができたときは感激しました。ただ、最後の判を押す瞬間は手が震えましたよ(笑)。自治体としてこういった動画を世に出して大丈夫か、と。企業ではなく地方自治体ですから。それでも、とにかく良い作品だったのでゴーを出しました。

 

越智:第2弾以降は、三つの動画で高校生や市民と共同制作しました。コンセプトは、高校生や社会人の視点から小林市の魅力を掘り起こすこと。プロジェクトでもキャリア教育のワークショップを行っており、その取り組みが動画の考え方とマッチしたことで実現することができました。

肥後:高校生にとっては小林市を見つめ直す機会になりましたし、参加することでより地元を好きになってくれたかもしれません。それだけでなく、ロケや制作に立ち会う中で、カメラマンやヘアメークなど、さまざまな職業のプロと接しました。この体験は、きっと彼らの人生や職業選択の幅を広げたと思います。
 

「てなむ」という精神こそ、地方創生のヒント

 

越智:自治体との仕事は、どうしても距離の壁があります。でも職員の皆さんは、てなんど小林プロジェクトなどを通して、自分たちでトライ・アンド・エラーをしていました。だからこそ理解もガッツもネットワークもあり、すでにその壁を超えるだけのまちおこしの土台が温まっていたんですよね。

肥後:もともとこのプロジェクトも、市を知ってもらおうと始めたものです。ある日、若い職員から「市長、これをやらせてください」と言われてスタートしました。 

 

越智:実は私たちも、全ての動画制作においていろいろな人や団体と“てなむ”ことを大切にしました。第4弾で県外3市の「小林市長」に出演いただいたのも、それにつながります。

肥後:皆さんにご協力いただけてうれしかったですね。東京都小平市の小林市長は「今度行きます」とおっしゃってくれて。動画をきっかけに、新たな人との結び付きが生まれました。

 

越智:地元を離れても何らかの形で協力してくれるなど、外から小林市に関わる「関係人口」を増やすことも大切だと市長はおっしゃっていました。まさしく“てなむ”の精神だと思います。

肥後:地方創生で大切なのは、市民が一丸となること。誰かに依存してはだめで、市民・職員みんなが主体になって団結するべきです。今回の施策も「オール小林体制」をつくるための手段のひとつでした。これが実現すれば、きっと地方創生も「恐るるに足らず」と思えるはず。そこを目指して取り組んでいきます。


〜宮崎県小林市の動画プロジェクト〜

動画が生んだ、さまざまな人と小林市の“つながり”

2015年に始まった宮崎県小林市のPR動画制作。これまでに5作品がユーチューブで配信されている。同年8月に公開された第1弾動画「ンダモシタン小林」は、小林市の自然や水、食材といった資源を紹介しながら、地元の西諸弁をフランス語のように聞かせる仕掛けで話題になり視聴数214万回を記録。「必ず二度見する動画」として、全国に大きな反響をもたらした。

 

続く第2弾「山奥」編は、地元の小林秀峰高校の生徒がグループに分かれ、動画の企画から絵コンテ、プレゼンを実施。その中の一つが採用された。さらに第3弾の「とれたて仕立て」編では、地元の社会人を対象に同様のワークショップを行った。小林市が運営する「てなんど小林プロジェクト」のウェブサイトには、全グループのアイデアを公開。16年11月の第5弾「サバイバル下校」編も、高校生のワークショップ形式で制作された。

異色となったのは、第4弾の「小林市長ズ 小林市を語る!」シリーズだ。「小林」の姓を持つ全国の市長に声を掛け、動画内で各市とコラボレーションする企画を実現。青森県八戸市、東京都小平市、神奈川県厚木市の“小林市長”と共に動画内でそれぞれの自治体をPRした。