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バーチャルリアリティーがもたらす未来No.3

“プレゼンスてんこ盛り”を食べて、VRの魅力を知る

2017/02/08

国内におけるVRのエバンジェリストと言っても過言ではない3人が集結。
VRの過去を知っているからこそVRの未来が語れる。 
彼らのバーチャルこそが、次のリアリティーなのかもしれない。

左から足立光氏、近藤義仁氏、久保田瞬氏
左から足立光氏、近藤義仁氏、久保田瞬氏
 

最初の衝撃

近藤:足立さんと初めてお会いしたのは3年ほど前でしたっけ? オキュラスの初期型ヘッドマウントディスプレー(HMD)「DK1」を体験してもらったんですよね。

足立:初音ミクと握手したのは、もう衝撃的でした。

近藤:初対面だったのに足立さん、「いやあ、俺の時代がやっと来た」って大興奮、見ながら涙を流してましたね(笑)。

足立:「ありがとう」って泣いていたんです(笑)。VRをいろいろ見てきたれけど、あれは私の想定を超えていた。VRが市場を活性化する次のメディアになる、新しいビジネスモデルができると確信した瞬間でした。「俺の居場所はここだ!」と思いました。

近藤:そう言っていただけてうれしいですね。VRって皆まず視覚的に驚くのだけれど、その次に何をするかというと、手を入れてみるんですね。でも、VR空間にその手は現れない。ああ、映像だったんだなって、そこで没入感が途切れる。でも、そこでミクが手を握ってくれると、現実との境が消える。

足立:その次に衝撃を受けたのが、2015年の東京ゲームショウでオキュラスの「Toybox」と出合ったとき。VRの中で手を自由に動かして、2人で遊ぶことができる。これでVRはキャズムを超えて、一挙にメインストリームに来るぞ、と思った。

今、VRへの投資が世界中で拍車が掛かっていますね。ちょっと前まで本当にぱっとしない映像しかなかったのに、一挙にクオリティーが上がってきた。

近藤:例えばオキュラスのフェリックス&ポール・スタジオとか、すごいクオリティーの映像を作っていますね。でも、やはりいいものを作るにはそれなりにお金が掛かります。

近藤義仁氏
 

足立:映画のように、製作委員会と協賛企業で予算を集めていいコンテンツを作っていくというのもありでしょう。放送局や出版社など、今のメディアも次のフェーズに行く時期が来ていると思います。あと、広告をどう絡めていくかですね。

近藤:かつてラジオしかなかったところにテレビが出てきたときもそうだったと思うけど、テレビとVRを同じ文法や広告手法で考えるのはまずいですね。広告は、今後どんどんパーソナル化すると思う。

久保田:VRのホーム画面も、カスタマイズできるようになるのでは。さらに、バーチャルで「あ、この椅子いいじゃん」と思ったら、実際にリアルでも買える仕組みが出てきたり。

足立:一番理想的なのは、広告が、完成度が高く見ていて楽しいコンテンツそのものになること。これからどんどん出てくると思う。あと、VR空間ならではの出し方があると思うんです。バーチャル空間で看板に広告を出したり、キャラクターが製品を使ったり身に着けたりするとか。今後どんどん事例をつくっていきたいですね。

「生ガキ」と「VR傷害事故」

近藤:でも、今はどんどん種をまく時期。あまりマネタイズありきで考えるべきではないと思っています。インターネットがなかったら生きていけない、と思う人は既にいっぱいいますよね。VRもおそらく、一度知っちゃうと戻れない便利なインフラになっていく。

足立:でも、まずは体験してみないことには始まらない。だから、私たちはVR THEATERのような、多くの人たちに気軽に体験してもらえるようなロケーションVRに力を入れています。街に出たら身近にすぐタッチ・アンド・トライできるような場があって、何回か通っているうちに自分の好きなコンテンツを発見してくれたらいいなと思います。

近藤:僕はちょっと違って、いきなりしょっぱなから最高レベルの体験で脳みそをしびれさせたら、次は100人連れてきちゃう、というふうにしたい。

足立:最初に何を見るか、というのは本当に大事です。粗悪なのを見ちゃうと、VR酔いしたりする。

近藤:僕は「生ガキ」といっているんだけど、おいしいよって言われて初めて食べて、それで食あたりを起こしたらもう二度と受け付けない。VRも同じで、初めてのコンテンツで酔ってしまったら、アレルギーになってしまう。

でも、VR酔いしにくいように作ろうとすると、今度は作家性が犠牲になりかねない。カメラを思う通りに動かしたいディレクターとせめぎ合いになってしまったりします。

僕は、コンテンツをレーティングすればいいと思っているんです。カレー屋さんみたいに、甘口、中辛、辛口、20辛(笑)。初めての人は甘口から食べてもらって、「酔わない、まだいけるわ」と思ったら中辛、辛口とチャレンジできるような仕組みをつくってあげる。

足立光氏
 

足立:そうですね。でも、数値化は難しいんですよね。うちに電通サイエンスジャムという国内関係会社があって、脳波を計測して感性を数値化する技術を開発しているのですが、そういうのを取り入れていくのもあるかもしれない。酔いの問題だけでなく、VRはコンテンツと一対一の関係で向き合うので、心身に非常に大きな影響が及ぶこともあります。

近藤:今、イベントや広告キャンペーンなどで飛び道具的にVRを使うことが多くなっていて、演出がどんどんエスカレートしているのが気になっています。アドベンチャーやホラー系とか、過剰にびっくりさせたりする。何かしらの自主規制というか、ガイドラインを早急に設けないと、事故が起きかねない。

足立:私、ホラー、大の苦手なんです。見るときは、いつでもHMDを外せるように準備しているつもりが、没入すると忘れちゃう。お得意さまの前で「ギャー」と椅子から転げ落ちたこともある(笑)。

近藤:そう、目をつぶればいいのに、つぶれない。当たり前で、人間は危険が迫ってきたら本能的に目を開いてしまうようにできている。VRは本能を増幅する装置なんです。自宅のリビングでテレビを見るのと違って、一人全然違う世界にぶっ飛ばされて逃げ場がない。パニックになることもあります。

ホラーにもいろいろあって「貞子」みたいな心理的なものと、お化け屋敷的なびっくり系があるけど、後者は、うわーって転んで頭打って救急車で運ばれかねない。「VRで傷害事故発生」と世間を騒がせた瞬間、必ず規制は厳しくなります。

久保田:バンダイナムコの体験施設「VR ZONE」のように、誰かと一緒に体験する仕組みだとパニックも緩和されたりしますよね。そういうアイデアや知見がたまりつつあるフェーズなのかもしれません。

久保田瞬氏
 

足立:昔は何千万円もしたゲームエンジンが、今や無料で、学生でも使えたりするものが出てきていて、YouTubeなどで簡単に作って投稿するようになってきている。規制は難しいかもしれませんね。でも、ユーザーがレーティングすることで、自浄作用が働くかも。

次はソーシャルVR

近藤:今のVRコンテンツの課題は、どうリピートさせるかということ。ゲームだとVRじゃなくては、という絶対的な必然性がないし、体験型だとすごくても一度やったら十分だったりする。

足立:アバターじゃないけど、チャットやコミュニティーでの交流には大きな可能性があると思ってます。Toyboxは本当に面白かった。VRは、ソーシャルな場を提供するだけでもいいと思うんです。例えばみんながチェスで遊んだり、そうしたらボードゲームが見直されたりして。私は、次はソーシャルVRだと考えています。

近藤:確かに、VRで世界中の人が自宅に居ながらにして楽しんだり、コミュニケーションできたりする。でもその一方で、問題も出てきていますね。

足立:ソーシャルセクハラ、などですね。パーソナルスペースに女性がログインしたら変な人がいた、みたいな。

久保田:今年くらいから聞くようになりましたよね。あと、いじめとか。ずっと殴り続けるなど、現実には不可能なことがVR空間ではやりたい放題できる。現実以上に精神的なダメージを与える可能性もあります。

足立:今、インターネットが抱えている問題とも共通しますね。身元が分かるような仕組みがいるのかもしれない。

近藤:でも問題はあるかもしれないけど、もう「ネットやってますか?」なんて聞くのは失礼で、当たり前。それと同じで、VRも浸透していけばいずれ空気のような存在になる。その頃には「VR」という言葉すら消えてなくなって、田舎のおばあちゃんが遠くから、孫の運動会を応援していたりする。

足立:そういう話をすると、すごく興味を持ってもらえるんですよね。20代なら初音ミクが響くけど、60歳で子どもがもう大学生で家を出ている人なら「子どもと一緒にテーブル囲んでご飯食べていた昔に戻れますよ」というと、おおっと向いてくれる。

近藤:一発、自分に合った体験をすると、今までVRに嫌悪感を抱いていた人が途端にエバンジェリストになったりする。外出していても「ああ、もう、早く帰ってHMD着けたい!」みたいになったりして。それぞれに合うものをお薦めしてくれる、“日本VRソムリエ会”をつくったらいいんじゃない(笑)。

左から足立光氏、近藤義仁氏、久保田瞬氏
 

VRの本質は「プレゼンス」

近藤:僕がVRに人生をかけようと思ったのは、VRにおいて「プレゼンス」を感じたからです。今、SNSとかで360度動画もどんどん増えている。でも、それで「VRやったことある」と言われたら、漫画「美味しんぼ」の山岡みたいに「本当のVRをお見せしましょう、明日来てください」と言いたくなる(笑)。

360度見渡せることが、VRの本質ではないと考えています。本当にハイエンドのVRは、プレゼンスがすごい。日本語にするのが難しいけど、まるで現実にそこに存在してるかのような、あるいは自分がそこに行ったかのような「そこにある感」。この「プレゼンス」がこそがVRの本質で、存在価値だと思っています。足立さんが初音ミクと握手して目が合って、現実との境が消えたのは、プレゼンスを感じたから。

足立:例えば、ディズニーランドやユニバーサル・スタジオ・ジャパンで、アトラクションに入る前の動線もそうですね。

近藤:そう、それがプレゼンスを高める上での導入の演出、「魔法」なんですね。ディズニーランドでミッキーマウスがいたら、中に人がいるなんて思わない。だまされに行くわけです。VRもそういう魔法にかけられたような、脳がだまされたような感覚がある。

久保田:「ガラスのようなもの」と言ってましたね。

近藤:そう、魔法だから壊れるのも一瞬なんです。ずっとここにいたい、と思わせるのがすごく大事で、「これCGかな」なんて思った瞬間、ガラスがパリン、と割れる。すごく気を使う必要があります。

とにかくプレゼンスを感じてほしいし、プレゼンスがあるものをつくってほしい。まずは、プレゼンスてんこ盛りの料理を食べて、VRの可能性を知ってほしいですね。