究極のメディア表現がコミュニケーションを変貌させる
2017/02/06
メディアと現実が溶け合うとき
バーチャルリアリティー(VR)という新たなイノベーションがもたらされようとしている。
2020年にはAR(拡張現実)と合わせて世界で14兆円まで市場が拡大するとの予想(Digi-Capital、2016年1月)もある中、その成長をけん引するのは、実はコミュニケーション領域なのではないだろうか。
わずか数年後、コミュニケーションの在り方は、多くの人々の想像をはるかに超えた変化を遂げているかもしれない。
連載初回は、ライブを通じて過去前例がないほどの壮大なVRエンターテインメントの実績をつくり上げた「ももいろクローバーZ」(ももクロ)に、早くからVRの可能性に注目してきた電通デジタルプラットフォームセンターの足立光氏がVRの可能性とその魅力を聞いた。
VRは次のコンピューティング・プラットフォームとなる可能性を秘めている。その影響力はこれまでの想像以上に急激に広がっていて、観光、住宅、医療、福祉、広告、ニュース、ゲーム、エンターテインメントなど、既にあらゆる領域で活用されている。欧米ではこの手のスタートアップ企業に巨額の投資が集まり、中国では国家プロジェクトとして行政支援が行われている。
そもそもVRとは何なのか。それを理解する唯一の方法は、まず、“本格的なVR”を自身で体験することだ。VRを言葉で説明することは非常に難しい。「現地に赴かないと、その地の本質は分からない」ということに近い。
おそらく、多くの人がVRを3Dテレビやゲームの延長線上で捉えており、このテクノロジーの本格導入は随分先の未来と考えてはいないだろうか。 言葉にすると、「360度全天球の仮想世界が眼前に広がっている」と言うにすぎない。それなのに、なぜそこまでVRが現在、世界規模のイノベーションとなっているのだろうか。
それは見方を変えると、VRは人々にとっての新たな情報通信デバイスであり、新たな交通手段でもあり、時代に干渉しない簡易タイムマシンとも捉えることができるからだ。つまり、このテクノロジーの進展は人々の「夢の実現」に限りなく近く位置しているのかもしれない。
現状ではそのように解釈するには未解決の課題が多く残されている。しかし、これらの課題はチャンスであり、イノベーションの源だ。それ故、VRの現状とその先にあるものを探求していくことには、大きな価値があるだろう。
究極のメディア表現がコミュニケーションを変貌させる
日本の祭りをテーマとした、ももクロのライブ「桃神祭(とうじんさい)」。2日間で11万5000人を超える観客を熱狂の渦に巻き込んだ様子を収めたVRコンテンツ(公開日未定)を、対談に先立ち、本人たち自らが足立氏と体験した。
足立:体験ありがとうございます。皆さんはVRは初めてじゃないですよね。前年をしのぐ完成度の高い作品になったと思います。分かっていても想像以上のリアクションでした。
百田:VRって分かっていても異空間過ぎて、終わったら夢から覚めたよう。あーりん(佐々木)、杏果(有安)が目の前だったので、思わず手を振って声援送っちゃいました。れにちゃん(高城)、はしゃぎ過ぎでしょ!(笑)
高城:本当にライブ会場にいるみたい。VRは初めてじゃないけど、本当にやばい。ファンの上、飛んでた。あのシーンがすごかった!
足立:思わずみんなで「ひゃ~」って声を上げて(笑)。本当に臨場感があります。ももクロのライブの中でも特に桃神祭は360度どの方角を見ても見どころ満載というのが特徴です。ステージとスタジアムの全客席が一つになった全天球アートを、ファンと共につくっている。それに加えて日本の祭りが一堂に会する。この熱気はVRでしか伝わらない!とあらためて思いました。
佐々木:モノノフ(ファンのこと)の皆さんにとっても暑くて過酷なライブだったと思うんですけど、私たちがステージから見る景色は、とてもきれいなんです。暗闇に皆さんが手にするライトが輝いて、曲に合わせてピンクや黄色に変わる。光の海はもう絶景で…。この景色をモノノフの方たちにも見てもらえるのは本当にうれしいです。
足立:ステージ上にカメラを設置しているから、まさにももクロと同じ場所で、同じものが見えるんですね。
百田:本当に実際のステージと同じに感じました。そういえば、ステージの真ん中にもカメラがありましたね(笑)。前年版はカメラの周りをくるくる回ったりしました!
足立:スタジアムのど真ん中に設置したカメラですよね。「腰がねじれるくらいに百田さんと一緒にくるくる回りました!」という声もSNSに上がっていました。ももクロのライブはなかなかチケットが取れないじゃないですか。VRだとライブに行けない人も体験できる。以前、体験会でももクロのVRライブを体験したファンの一人が「ずっと行きたかった夢がかなった」と涙を流しながら喜んでいました。
佐々木:それはすごくうれしいです!
玉井:逆に私たちも、ずっと自分たちのライブを見るのが夢だった。それも生で。VRだとリアルで、本当にそこに、“もうひとつの、ももクロ”がいる。振り返ったらファンがいる。自分の好きなときに好きなところを見られて、別の人間になってライブに行けた感覚があります。
足立:私も、ももクロと一緒にライブを見るなんて、大変貴重な経験をしました。みんな同じ方向のスクリーンを見るのと違って、自分の見たいところを一緒に見られるのもVRの特徴ですね。今回は特別に観客の皆さんと同時に、同じ空間を共有するという体験をしていただきました。
有安:本当に楽しかったです。その場にいるのと同じ光景が広がっていて、あの日を思い出して、なんだか懐かしい気持ちになりました。
足立:まるでタイムマシンに乗ってあの日のステージに戻ったような感覚かもしれませんね。海外有名アーティストのライブのVRもいろいろ見てきていますが、どれも内容がステージから客席への一方向。今回のVRのように、ステージとファンが双方向で一体となったVR作品は、私は他に見たことがありません。日本のライブVRの金字塔として世界中の人々にも体験してもらいたいクオリティーです。
ももクロ:はい!ありがとうございます!