電通ライブがつくる「真実の瞬間」No.1
「ライブマーケティング」は、街全体が舞台!(前編)
2017/01/30
電通グループに2017年1月4日、イベント&スペース領域では日本最大規模の実績とケーパビリティーを持つ新会社「電通ライブ」が誕生しました。電通ライブが掲げる「MOMENT OF TRUTH=真実の瞬間」をテーマにしたこの連載では、電通ライブ社員と社内外のクリエーティブなトップランナーが、さまざまなビジョンを読者の皆さまと共有していきます。初回は、電通ライブの内藤純副社長が、ライゾマティクスの齋藤精一さん、柴田陽子事務所の柴田陽子さんと語り合いました。
取材・編集構成:金原亜紀 電通ライブ クリエーティブユニット第2クリエーティブルーム
電通ライブが目指す、「真実の瞬間」をつくるライブマーケティング
内藤:1月4日に、電通ライブという会社がスタートしました。
齋藤&柴田:おめでとうございます!
内藤:ありがとうございます。電通のイベント&スペース・デザイン局という部署と、電通テックのイベント部門が一緒になって、新たにイベント&スペース領域を強めていこうという考えなのですが、電通ライブとして標榜しているのがライブマーケティングです。
ライブマーケティングにはいろいろ捉え方があるのですが、例えばかつてのマスマーケティングは、テレビ、ラジオ、新聞や雑誌が主に担ってきました。デジタル革命以降それだけでは広告が効かなくなってきたということで、近年は齋藤さんがやられているようなデジタルマーケティングやそれを使った表現が注目されてきました。
個人がいろいろなレイヤーの情報を入手できるようになってきて、さらにその情報は拡散するので情報量はあふれている。そういった状況では逆説的に言えば、人はなかなか情報のみでは動かなくなっているんじゃないかと。
となると、やはり人を動かす基本は「人と人とのコミュニケーション」や「リアルな出会いの場の演出」で、ある種の感動体験、感動共感を通してこそ、いろいろなモノやコトが動いていくのではないかということで、その一連の動きをライブマーケティングと名付けています。
電通ライブのスローガンは、「MOMENT OF TRUTH(真実の瞬間)」なんです。ちょっと映画のタイトルみたいですけれど。
柴田:そのスローガン、すごくいいですよね。
情報にあふれ整理できないとき、人は心に届くものだけの中から人間性を形成する
内藤:ありがとうございます。このような「ライブマーケティング」について、お二人はどのように考えていますか。
齋藤:僕も世代的にはマスマーケティングを浴びて育ちましたが、21世紀の最大の発明は、スマートフォンとパソコンがこれだけ小さくなったのと、あとは衛星、要はGPSですね。それがこれだけ発達したのが、21世紀の僕たち人間の生活を大きく変えたと思います。
前に電通の営業の方に、「打ち合わせを8時間やっているのと、そこにいる営業や僕たち全員で新橋駅にティッシュを配りに行くのと、どちらの方が費用対効果として高いかな」という疑問を投げ掛けたことがあります。会議ばかりしていてもしょうがない。
ライゾマティクスを立ち上げて2、3年目、今から7、8年前のころはデジタルマーケティング、要はウェブバナーとかで、例えば柴田さんがイチゴについて調べていたら、できるだけイチゴに近いものを横のバナーに出してあげたりするなんてことをやっていた。追随型というんですが。
マスマーケティングで行う全投下型の広告が弱くなってきた、CMだけでは効果が出ないと言われ始めて、デジタル技術で情報をパーソナライズし、個人にカスタムして情報をお渡しするという流れにきていますけれど、僕はこの2年くらい、それはそれでちょっと落とし穴があるなと気付き始めているんです。
柴田:そういう手法にも、受け手は慣れてきちゃいますよね。
齋藤:そう、いつも見慣れている風景だから、変わりがなくなってきちゃう。僕が今すごく、ライブマーケティングという言葉が響くなと思ったのは、そこのリアルな体験が何をもたらしてくれるのかが大事。
いくらテレビが、さらにVRが何かを訴えようが、音や何かのエフェクトがありつつも、最終的には人間の体がどうそれに共鳴して、そして実際に体感して、それが最終的に拡散していく方が、情報を伝達する広告として一番プリミティブな状態の優れたシステムだと思う。ライブマーケティングというのはそういう意味で、一番今当てはまるのかなと。
柴田:確かにそうですね。「ライブ」は「リアル」という言葉に置き換えてもいいんじゃないですか。
齋藤:昔のイベントでは体験できる人数がすごく少なくて、ただ濃い体験としては個人の中に一生残っていた。CMはリーチできる人は多いけど、体験としては薄い。今のイベント的な体験はSNSとか個人メディアの発達によって、何万人から何百万人にも伝わるということが起こりますよね。だから手法が大分変わってきたのかなとも思います。
内藤:柴田さんはどうですか。
柴田:私は、思いのある料理人とか、経営者の思いを形にしようとこつこつ商業店舗や飲食店をつくってきました。それがだんだん広がるうちに商業施設一棟全部をつくったり、さらに街づくりも手掛けているんですけれど、店舗でもショッピングモールでも、物を売っているだけでは全く響かないし売れなくて。それよりも心に届く体験、一つの屋上などがもたらす効果の方が、何十倍も何百倍も大きい。
屋上がその商業施設のシンボルや集客の装置になったり、人がもたらす施設への感想の中心になったりする。人は情報にあふれて、どう整理したらいいか分からないときに、心に届くものだけの中から自分の人間性を形成していって、またそれが他の人にものを伝えるエンジンになる。場所をつくるときは、そこが本当に心まで届く内容のある深いものなのか精度を高めないと、見せかけだけのものになってしまいます。単なるトレンドではなく、非効率でもそれが人の心に行き着く真実なのだから、そこを深めていくことに答えがあると思っています。
広告予算を投資して、ライブな街やコトをつくる
内藤:なるほど。今、柴田さんが場所という話をしましたが、ライブマーケティング、真実の瞬間というときに、「じゃあその真実の瞬間って、どこなの?」となる。場所性ってあらためて大事だなと思っています。今までわれわれがやっていたイベントは、俗にいう展示会場だったり、ホテルの宴会場でのパーティーだったりが結構多かったのですが、ここ数年はそういった範疇から飛び出て、どういう場所でどういう人をターゲットに何をやるか、ということが重要だと思い始めているんです。
オリンピックまであと4年足らずになってきて、これからますます多くのお客さまが海外からやってくる。そうするとまず泊まるところをどうしようか、併せて企業のPRの場所や、それだけじゃなくて、日本自体を紹介するためにどういう場所が必要なのか。こういうことがこれからすごく問われる。
昨年、齋藤さんと「ウルトラパブリックプロジェクト」を立ち上げて、まさに街全体を舞台にして、いろいろな実験をやろうという話をしています。場所選びから始まって、そこに何を魂として入れるの?ということに真剣にトライしないと、新しい未来の感動体験はつくれないと思っています。
齋藤:2年ぐらい前にふと思ったのは、通勤電車や歩いている人がうつむいてスマホばかり一日中見ている。スマホの中の方が面白くて、日常の現実世界は面白くないと思っているんです。だからどうしてもスマホを見てしまう。僕も含めてですけれど。
「ポケモンGO」やARモノが出てきて、21世紀のすばらしい発明であるGPSとスマートフォンの組み合わせでデジタルコンテンツも場所性を持ち始めてきたけれど、みんなまだ街自体じゃなくて、スマホのバーチャルの中の方に興味がある。僕はまだ本当の街の面白さが発揮できていないような気がしている。
街づくりってすごく政治的に動くし、もちろん経済とも呼応しながら大きくなったり小さくなったりするし、特に東京はすごい速度で更地になったり建ったり新陳代謝するけれど、「ウルトラパブリックプロジェクト」ではもう一回、真っさらな目で街を見ようと。
東京だけではなくて地方も、この街はどういうふうにしたら、手あかがついていないような場所にできるのかを考えたい。今までは広告と街づくりは、全然別個の取り組みだったじゃないですか。だけどここ数年、双方がくっつき始めたような気がする。
内藤:そんな感じがしますよね。
齋藤:マスマーケティングやデジタルマーケティングって、比較的皆さん湯水のようにお金を使うんです(笑)。例えば数億円とか結構な予算をボーンとつぎ込んで、でも3カ月後には全部世の中に流し終わって、跡形もなくなってしまう。今までの広告費を街とか場所にも投資すれば、一つの街だって平気で様相を変えられると思います。
内藤さんがおっしゃった、場所があるからこそ、みんながそこに寄ってきたくなる、もしくはああでもないこうでもないと具体的に言いたくなる、それをスマホの画面の中だけでなくて実際にある街に足を運んで、何かを見て体験する。それが人間側にも求められているし、街自体もそうなりたいと思っているんじゃないかなと思います。
※後編につづく