企業のジレンマを解消する共同研究をコーディネート
2013/12/09
今回の「生体信号が拓くコミュニケーションの未来」は、電通サイエンスジャムの神谷さんと森下さんから、企業と大学の共同研究プロデュースについて聞きました。
もともと生体情報には興味がありました
──まずは森下さんの経歴を簡単に教えてくだい。
森下: 電通グループの業務は、約6年前からサイバー・コミュニケーションズの大阪支社で勤務を始めました。当初はメディアレップとしてプランニングやアドネットワークなども担当していました。
──生体情報にも関心や知識があったんですか?
森下: 新卒で入った会社は精密機器メーカーの研究所併設の事業部で、素材や完成した機器を人が扱ったときの反応を調べるために、筋電など生理学的なリサーチを行ったりしていました。もともと生体情報や新しいテクノロジーには興味がありました。
──サイバー・コミュニケーションズのなかでも、そういった領域の仕事を?
森下: 社内で新規事業についての公募がありまして、脳科学的なアプローチのできる事業を立ち上げたいと希望して、実務と並行しながら少しずつ可能性を探っていました。その後東京本社に異動になり、新しい取り組みを考えたりサポートしたりという仕事を担当しました。
──そこで神谷さんたちと出会ったんですか?
神谷: neurowearのプロジェクトを始めたころ、サイバー・コミュニケーションズの社長から「neurowearと似たような面白いことを考えてる人がいる」と紹介されたのが最初ですね。
森下: ちょうどnecomimiがブレイクした後くらいで、電通に脳科学や生体情報など感性的なアプローチをしているチームがあるということは知っていましたので、ぜひお会いしたいと思っていて。紹介いただいてから、少しずつ意見交換を始めました。
──なるほど。そこから電通サイエンスジャムにつながるんですね。
神谷: 電通サイエンスジャム立ち上げの話を進めるなか、生体情報に関する知見のある人を集めるということで、森下さんに来てもらいました。neurowearは、新しいアイデアをプロトタイピングして、新しいコミュニケーションを作っていくところですが、企業との共同研究も行っていまして、その分野を進めているのが森下さんです。
企業と大学は研究に対する温度差や期間に対する考え方が違う
──共同研究では、どのようなことをされているんですか?
森下: 企業が新たなサービスを生み出すときには、アイデアの創出から始まり、生み出されたサービスが人に与える心象など、さまざまな研究課題があります。そういった課題を解決するためには、研究データやノウハウが必要になるんですね。共同研究は、企業が直接大学の先生を訪ねて共同研究を持ちかける場合がほとんどですが、企業と大学は研究に対する温度差や期間に対する考え方が違うので、企業側がジレンマを感じることが多いんです。そこを上手くコンサルティングして、共同研究をかたちにするということを行っています。
──例えばどのようなジレンマがあるんですか?
神谷: 企業側がすぐに知りたいことでも、研究者側は半年とか1年という時間で考えていたり、企業側は発注しているという意識でも、研究者側は一緒にやっていくという認識だったり。そういったズレを、森下さんが調整しながらプロジェクトを進めていく。
森下: 私たちもそうなんですけど、ビジネスしている以上は結果を求められるじゃないですか。
──そうですね。
森下: 企業側は限られた予算の中で何ができるのかを考えますが、研究者はテーマを突き詰めていきたい。そこで私たちは、双方の言い分を聞いたうえで温度差のバランスをとりつつ一緒にやっていく、というスタンスで取り組んでいます。実は、共同研究って上手くいかないことも多いんです。
──そうなんですか?
森下: 認識のズレから要望と違ったものが上がってきたり、なかには顔合わせしたのにそのまま時間だけが過ぎて立ち消えになるなんていうケースもあります。でも、せっかくお互いに同じ方向を向いたのなら、上手くやっていく道筋をつくりたい。その方法を見極められたら、結果が出しやすくなりますよね。
神谷: プロジェクトマネジメントだよね。
森下: はい。予算やタイムコストだけではなく、共同で何かを作り上げていくときの方法論を形作りたい。今そういったことをできる会社がないので、電通サイエンスジャムで作っていきたいと考えています。
──今は、どのようなプロジェクトが動いているんですか?
森下: まだスタートしたばかりのプロジェクトですが、おかげさまで複数の研究を開始しています。ひとつ挙げると、「心地よさ」というものをパターン化してシステムに取り入れることで、心地よく使える製品を作っていくというものがあります。この場合、まず製品に対する「ヒトの感じ方」を、いろんな視点から設計して計測するところからスタートします。
──企業側から直接依頼が来るんですか?
森下: そうですね。宣伝部やマーケティング部といった、もともと電通の持っているルートではなく、研究開発部門や技術部門から声をかけていただくケースが多いですね。あとは、電通サイエンスジャムには、慶応義塾大学の満倉靖恵先生がいるので、過去に先生と関わりのあった企業からもお声がけいただいています。
電通サイエンスジャムならではの提案をしていきたい
──今後どのようなことをしていきたいですか?
森下: 研究で得た知見を、クライアントに活かしてもらうことが一番だと思っています。研究して結果を出して終わりではなく、製品が市場に出るところまでお手伝いしていきたい。あとは、海外を視野に入れた展開も考えています。
神谷: 共同研究のコーディネートで考えると、日本にこだわる必要はないでしょう。海外にも優秀な研究者がいるし、海外展開したいという国内企業のニーズもある。
──何か新しいことは考えていますか?
森下: 今、生体情報から人の状態を知ることが注目されていて、今後そこから何か生み出せると思うので、うまく事業化するためのディレクションをしなければならないと思っています。
──具体的にはどういうことですか?
森下: 例えば、ゲーム機で自分の状態を計測しながらスポーツができるようになりました。バイタルサインというのですが、生体情報データを簡単に計測して蓄積できるようになったので、そういう仕組みを使ったサービスを広げていければと思っています。
──神谷さんはどうですか?
神谷: われわれがやっているのは、広告会社に非常に近いと感じています。企業は課題を持っていて、その課題を解決したいわけです。広告会社であれば、その解決方法が広告ですが、われわれはその課題を先端技術や先端の知性で解決しようとしています。企業の新しいモノ作りを実現するために、テクノロジーやサイエンティストをコーディネートし、方法を考えながらプロジェクトを実現していく。枠組みで考えると、これまで電通がやってきたことと大きくは変わらないと思うんですよ。
森下: はい。だからこそ電通サイエンスジャムならではの提案もできると思うんです。例えば飲料メーカーが、新商品と競合の類似既存商品の印象の違いについて調べる時、味の違いは脳波に出てくるので、感性的な優位性を発見できる可能性が広がりますしね。
神谷: ファクトを作っていくということですね。
森下: はい。ある感性を豊かにするものが分かれば、その情報だけでコンテンツとして成立するので、PRや広告の素材として意味があると思います。
神谷: 将来的には、さまざまなノウハウを使った電通サイエンスジャムならではのプロデュースをしていきたいですね。
取材場所:響 カレッタ汐留店