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生体信号が拓くコミュニケーションの未来No.8

テクノロジーとサイエンスが重なる領域を発展させていきたい

2013/12/16

今回は、neurocamでプロトタイピングとテクニカル・ディレクションを担当した竹内祐太さんと、慶応義塾大学の満倉研究室の研究員で電通サイエンスジャムのエンジニアでもある荻野幹人さんに、電通サイエンスジャムからリリースされた「感性アナライザー」について聞きました。

スマートデバイスで脳波をリアルタイム表示

──まず感性アナライザーとは、どのようなものですか?

竹内: ヘッドセットをつけて計測した生体信号を、簡易的に解析してビジュアライズし、タブレット端末でリアルタイムに表示するというものです。

──どういった感性が測れるのですか?

竹内: 「好き」「興味」「ストレス」「眠気」「集中」で、それらを0~100で表現します。荻野さんには、そのアルゴリズムをタブレット端末向けに移植してもらいました。

荻野: もともと慶応義塾大学の満倉研究室に、パソコンで動くビジュアライザーはありましたが、モノクロで文字と値だけしか表示されない簡単なものでした。そのビジュアライザーをタブレット端末向けにリニューアルしたのが、この感性アナライザーです。

──なぜスマートデバイス用に作り直したんですか?

荻野: 例えば屋外で脳波を解析するのに、ノートパソコンを持ち運ぶより、スマートフォンをポケットに入れておく方が手軽ですよね。

──そういう要望があったんですか?

荻野: そうですね、より被験者が自然な形で計測を行えるようにと、企業側からニーズが出ていました。

──竹内さんはデザインを担当されたんですか?

竹内: 僕はデザインとユーザビリティーを整理しました。やはりビジネス用途であっても、見栄えや使い勝手は大事なんです。電通にはユーザーインターフェースやデザインの知見があるので、荻野さんと協力しながら進めました。

──開発で苦労したことは?

竹内: 「操作が難しそう」と思われたら使っていただけないので、使いやすさや見やすさを含めて信頼感を保ちつつ、「手軽に導入できそう」と感じていただけるようなデザインに落とすのは結構苦労しましたね。

荻野: プログラミングでは、例えばコードを1文字間違えたことで計測結果がおかしくなっても、生体信号って答え合わせができないというか、計測結果を見ても間違っているか判断が難しいのです。なので、とても慎重に作業しました。

脳波には個人差があって、例えばずっと集中度が高い人もいます

竹内: 実際に計測してみましょうか。

竹内: リアルタイムで計測できるんです。例えば今は、写真を撮られているのでちょっとストレス度が高かったり(笑)。

荻野: ストレス度は疲労度とも関係しているんですよ。今ちょっと疲れているのかもしれないですね。

──0~100で表示される場合、アルゴリズムごとに平均値ってあるんですか?

竹内: かなり個人差があります。例えばずっと集中度が高い人もますし、僕なんかはずっと集中度が低いタイプなんですけど。

──どのぐらいですか?

竹内: 10とか、そんな感じです。僕の場合は興味度も好き度も全部が低くて、人としてどうなのかみたいな感じもあるんですけど(笑)。

──0とか100という極端な数値が出ることはあるんですか?

竹内: はい。眠気が分かりやすいんですけど、0は完全に起きている状態で、100は寝ている状態です。

──例えば好き度も100ってありえるんですか?

竹内: ありますよ。お腹がすいている時に、食べ物を見るとバーンと跳ね上がったり。

寝ている間のストレス度も計測できる

──感性アナライザーはneurocamと同時リリースでしたが、「Human SENSing 2013」や、サンフランシスコの「DG717」のオープニングイベントではいかがでしたか?

竹内: 本当に多くの方に体験いただけました。イベントではリサーチツールという言い方をしていましたが、「広告やキャンペーンで使いたい」というご要望もたくさんいただきました。体験いただいた皆さんのリアクションを見ていて、汎用的にいろいろなことに使っていただけるということが分かりました。

──例えばキャンペーンでは、どのような使い方ができそうですか?

竹内: そうですね、飲食系であれば「美味しさ」を可視化するとか。

──アルゴリズムに「美味しさ」って無いですよね?

竹内: 食べたり飲んだりした際の好き度をある程度流用できるかもしれません。あとは、「味わう」ということにフォーカスした別のアルゴリズムを作ることもできますね。

──なるほど。リサーチ系ではどういう反応がありました?

竹内: ユーザビリティー調査に使いたいというお話をいただきました。ウェブサイトの検証で、クリックしたくなるボタンの位置を集中度や好き度から判断するとか。

──それは結構すごいことですね。ユーザビリティー調査のセオリーが変わるかもしれない。

荻野: より正確な調査ができるようになると思います。あとは、リアルタイムで解析できるので、時系列の調査に強いんです。例えばCMのアンケート調査を行う場合、CMを見た後でアンケートを取っても、細かな印象は忘れてしまいます。でも感性アナライザーなら時系列に記録できるので、他の定性調査と組み合わせることでより精度が上がります。

竹内: 他には、外食産業であればメニューの開発や、店内の導線を含めた店舗設計ですとか。面白いところでいうと寝心地の調査なんかもありますね。

──眠っている状態で計測するということですか?

竹内: ヘッドセットをつけて眠れば、寝ている間のストレス度も計測できます。もちろん、ヘッドセットが落ちないように工夫は必要ですが。時系列で寝心地のデータが取れるのは、生体信号ならではだと思います。

あとは都市開発系のお話もあって、例えば街の景観とGPSと組み合わせて調査を行えば、どこで何に興味を持ったのかといった解析ができます。

──なるほど。調査方法の提案も行うのですか?

竹内: そうですね、こちらも知見が貯まってきているので調査方法の提案も可能ですし、満倉先生が監修する場合もあります。アルゴリズムから開発するのであれば、荻野さんや私をはじめ、その他協力会社様と連携しつつ、そのアルゴリズムを導入したアプリケーションやシステムとして提供することもできます。

どんどん新しい手法を使って計測の精度を上げていきたい

──今後の展開について教えてください。

竹内: リサーチツールとしてのご要望が多いですが、今は生体信号はホットなトピックとして扱われている状況なので、キャンペーンやプロモーションで使うのも面白いと思っています。あとはゲームなどエンタメ寄りのこともしてみたいですね。

荻野: 僕は、感情推定を含め、アルゴリズムの種類を増やしていきたいですね。あとは日々技術が進歩しているので、どんどん新しい手法を使って計測の精度を上げていきたいです。

竹内: 生体信号に限らず、電通サイエンスジャムをハブにいろいろな方と協力しながら、本業につながるような広告キャンペーンの企画・実施までやっていきたいです。感性アナライザーやneurocamを手始めにテクノロジーとサイエンス、さらにはクリエーティブが重なる領域の発展に少しでも貢献できればと思います。